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第三章 おねえさまだいすきっ
(17)おねえさまだいすきっ その1-2
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「いいねぇ。青春してるねぇー」
会社帰りに、優菜先輩に誘われて会社近くの喫茶店でお茶をすることになった。そこで私のことをいろいろ話すことに、いつの間にか……、そうなっていた。
「青春って、もう高校卒業して何年経つとおもってるんですかっ」
「いやいや、青春には年齢は関係ないよぉ。そうかぁ。和歌子の彼氏ってそんな格好いいんだねぇ」
先輩がニヤニヤしながら私を見る。
「え、全然格好よくなんかないですよ。平凡すぎて、会ったら引くと思います」
私は、優菜先輩の言葉を全否定する。
「和歌子の話からは、すっごい格好いい彼氏としか聞こえなかったけどなぁ。ねぇ、紹介してよぉ。取ったりしないから」
「会うだけなら、いつでも構いませんよ」
――そういえば最近そんな話したなぁ、と、山野優菜(やまのゆうな)はつい最近の出来事を振り返りつつ、目の前に今座っている後輩、南和歌子(みなみわかこ)の彼氏、若野雄哉(わかのゆうや)を見る。
その日の会社でのことだった。休憩中の給湯室でいつものように和歌子と雑談をしていると、不意に和歌子が克也の話を持ち出してきた。
「いつも先輩と一緒にいる真野さんって、どんな方なんですか? 噂はいろいろ聞きますけど」
「え、克也くん? うーん、綺麗好きだし、女の子の噂は絶えないけど、特定の人はいないみたいだよ? 和歌子ちゃんも気になるの?」
「いえ、昨日の夜に雄哉が急に、真野先輩のこと聞いてきて、って頼んできたものですから。何があったのかよくはわからないんですけど。」
「それなら、直接会って話するよ」
その後優菜は和歌子にアポイントを取ってもらい、退社後に都内の喫茶店で雄哉と会うこととなった。
『なんだ。すっごい格好いいじゃない。和歌子ったら勿体ぶっちゃって』
心の中で優菜は呟く。どことなく克也に似ている雰囲気にも好感が持てる。
「えっと、克也くんのこと聞きたいんだって?」
「はい。お話を伺ったところ、どうも自分の真野先輩のイメージとかけ離れていたので、どうしても納得いかなくてですね」
雄哉は真剣な目で優菜を見る。
「その前に、私の疑問にも答えてほしいんだけど、いいかな?」
「はい。何なりと」
はきはきした口調も好印象だ。ちょっと会社でデータ漁ったけど、この子、うちで取らなかったのは失敗だったね、と、優菜は内心思う。
「じゃぁ、まず、なぜ今、克也くんのことが知りたくなったのかな?」
「それは……、ですね」
雄哉はちょっと言い淀んだが、意を決したように、優菜に語り出す。
「仕事の関係で、真野先輩の奥様、愛子さんに、つい最近お会いしまして」
「あ、愛子に会ったんだ」
「はい」
「仕事の関係っていうと、セールス?」
「はい。お隣の竹屋様の紹介で」
「真奈美さんの……。はっ、あなたまさかっ!」
優菜はそこで思い当たったことを口にしようとするが、慌てて口を押える。
「和歌子から、あなたが真奈美さんの知り合いであることは聞いてます。察していただけるとありがたいです」
雄哉は優菜に向かって深々と頭を下げる。
「う……、うん。真奈美さんの紹介かぁ……。大体わかったよ。で、そんなに畏まらなくても大丈夫だから。うん」
優菜は困った顔をしながら雄哉に頭を上げさせる。
「お心遣い、感謝します。それで、愛子さんなんですが……」
「うん」
「かなりそっちの不満がたまっていらっしゃったご様子でした。自分の知っているあの真野先輩なら、愛子さんを困らせることなどあるはずがないと……、そう考えまして」
「最近、克也くんも、なーんか悩んでるっぽいしなぁ。そうかぁ。うまくいってなかったのかぁ」
優菜も頭をひねり出す。
「雄哉くんは、克也くんの後輩なんだよね。で、今の克也くんとそんなに違うの?」
「はい。正反対です」
「え、正反対!? どういうことだろう?」
それから雄哉は、克也の大学時代の錚々(そうそう)たる伝説の数々を優菜に披露する。それを聞いて優菜は目を丸めるばかりだった。
「うっそ……。あの克也くんが、そんなにすごい匂いの持ち主だったなんて」
「自分も話を和歌子から聞いて、逆にびっくりしました。どうやってこの長い間、匂いを封じてこれたんですかね」
「うーん、社会人になったから、あまり匂うとまずい、って思ったんじゃないかな。っていうのは、なーんとなく想像できるんだけど……」
「でも、結婚して、愛子さんにまで隠すことはないと思うんですよ」
「うーん、そこは……、はっ!」
優菜には思い当たることが一つあった。
「たぶん、わたしのせいだ……」
優菜はまたたく間に顔色が悪くなり、がくっと肩を落とす。
「優菜……さん?」
優菜の急激な変化に、雄哉が心配して顔をのぞきこむ。
「え……、あ、大丈夫。何でもない。」
優菜が作り笑いをしているのが、雄哉には手に取るように分かる。
「もし、差し支えなければ、お話ししてくれませんか。あなたが原因と思ったこと」
「う、うん……」
優菜は、愛子の性癖のこと、克也が愛子にずっと片思いをしていたこと、克也に止めといたほうがいいとアドバイスをしていたこと、匂いは気を付けろと、結婚前に最後に伝えていたことを一気に雄哉に語った。
「それは……、なんていうか、不幸な結末ですね」
「今の話、本当だとしたら、克也くんには本当の姿、見せてもらわないと」
「はい。愛子さんは幸せになれないと思います」
「分かったよ。雄哉くん。ここからはその話、私が引き受けたよ」
優菜は、ある強い決意をして、雄哉と店を出たのだった。
――「で、その後、優菜さんと真奈美さんから連絡が来たんだ。上手くいったよ。って」
雄哉は裸でベッドに横になりながら、同じく裸になっている和歌子に向かって、話をしていた。
「先輩もちょっと落ち込んでたことあったから心配してたけど、そういうことかー」
和歌子もいっときだけ、ほっとした表情をみせる。が……、
「うん、その話は分かったよ。で、問題は、今の状況だよ」
雄哉の横に寝ていた和歌子は、むすっとした表情になる。
「その、なんていうか……。すまないっ!」
雄哉は寝ている和歌子に向かって申し訳なさそうに首を垂れる。和歌子はぎゅっと毛布を胸元で押さえ、俯きながら静かに上体を起こすと、久々の強烈な一撃を雄哉に食らわせた。
会社帰りに、優菜先輩に誘われて会社近くの喫茶店でお茶をすることになった。そこで私のことをいろいろ話すことに、いつの間にか……、そうなっていた。
「青春って、もう高校卒業して何年経つとおもってるんですかっ」
「いやいや、青春には年齢は関係ないよぉ。そうかぁ。和歌子の彼氏ってそんな格好いいんだねぇ」
先輩がニヤニヤしながら私を見る。
「え、全然格好よくなんかないですよ。平凡すぎて、会ったら引くと思います」
私は、優菜先輩の言葉を全否定する。
「和歌子の話からは、すっごい格好いい彼氏としか聞こえなかったけどなぁ。ねぇ、紹介してよぉ。取ったりしないから」
「会うだけなら、いつでも構いませんよ」
――そういえば最近そんな話したなぁ、と、山野優菜(やまのゆうな)はつい最近の出来事を振り返りつつ、目の前に今座っている後輩、南和歌子(みなみわかこ)の彼氏、若野雄哉(わかのゆうや)を見る。
その日の会社でのことだった。休憩中の給湯室でいつものように和歌子と雑談をしていると、不意に和歌子が克也の話を持ち出してきた。
「いつも先輩と一緒にいる真野さんって、どんな方なんですか? 噂はいろいろ聞きますけど」
「え、克也くん? うーん、綺麗好きだし、女の子の噂は絶えないけど、特定の人はいないみたいだよ? 和歌子ちゃんも気になるの?」
「いえ、昨日の夜に雄哉が急に、真野先輩のこと聞いてきて、って頼んできたものですから。何があったのかよくはわからないんですけど。」
「それなら、直接会って話するよ」
その後優菜は和歌子にアポイントを取ってもらい、退社後に都内の喫茶店で雄哉と会うこととなった。
『なんだ。すっごい格好いいじゃない。和歌子ったら勿体ぶっちゃって』
心の中で優菜は呟く。どことなく克也に似ている雰囲気にも好感が持てる。
「えっと、克也くんのこと聞きたいんだって?」
「はい。お話を伺ったところ、どうも自分の真野先輩のイメージとかけ離れていたので、どうしても納得いかなくてですね」
雄哉は真剣な目で優菜を見る。
「その前に、私の疑問にも答えてほしいんだけど、いいかな?」
「はい。何なりと」
はきはきした口調も好印象だ。ちょっと会社でデータ漁ったけど、この子、うちで取らなかったのは失敗だったね、と、優菜は内心思う。
「じゃぁ、まず、なぜ今、克也くんのことが知りたくなったのかな?」
「それは……、ですね」
雄哉はちょっと言い淀んだが、意を決したように、優菜に語り出す。
「仕事の関係で、真野先輩の奥様、愛子さんに、つい最近お会いしまして」
「あ、愛子に会ったんだ」
「はい」
「仕事の関係っていうと、セールス?」
「はい。お隣の竹屋様の紹介で」
「真奈美さんの……。はっ、あなたまさかっ!」
優菜はそこで思い当たったことを口にしようとするが、慌てて口を押える。
「和歌子から、あなたが真奈美さんの知り合いであることは聞いてます。察していただけるとありがたいです」
雄哉は優菜に向かって深々と頭を下げる。
「う……、うん。真奈美さんの紹介かぁ……。大体わかったよ。で、そんなに畏まらなくても大丈夫だから。うん」
優菜は困った顔をしながら雄哉に頭を上げさせる。
「お心遣い、感謝します。それで、愛子さんなんですが……」
「うん」
「かなりそっちの不満がたまっていらっしゃったご様子でした。自分の知っているあの真野先輩なら、愛子さんを困らせることなどあるはずがないと……、そう考えまして」
「最近、克也くんも、なーんか悩んでるっぽいしなぁ。そうかぁ。うまくいってなかったのかぁ」
優菜も頭をひねり出す。
「雄哉くんは、克也くんの後輩なんだよね。で、今の克也くんとそんなに違うの?」
「はい。正反対です」
「え、正反対!? どういうことだろう?」
それから雄哉は、克也の大学時代の錚々(そうそう)たる伝説の数々を優菜に披露する。それを聞いて優菜は目を丸めるばかりだった。
「うっそ……。あの克也くんが、そんなにすごい匂いの持ち主だったなんて」
「自分も話を和歌子から聞いて、逆にびっくりしました。どうやってこの長い間、匂いを封じてこれたんですかね」
「うーん、社会人になったから、あまり匂うとまずい、って思ったんじゃないかな。っていうのは、なーんとなく想像できるんだけど……」
「でも、結婚して、愛子さんにまで隠すことはないと思うんですよ」
「うーん、そこは……、はっ!」
優菜には思い当たることが一つあった。
「たぶん、わたしのせいだ……」
優菜はまたたく間に顔色が悪くなり、がくっと肩を落とす。
「優菜……さん?」
優菜の急激な変化に、雄哉が心配して顔をのぞきこむ。
「え……、あ、大丈夫。何でもない。」
優菜が作り笑いをしているのが、雄哉には手に取るように分かる。
「もし、差し支えなければ、お話ししてくれませんか。あなたが原因と思ったこと」
「う、うん……」
優菜は、愛子の性癖のこと、克也が愛子にずっと片思いをしていたこと、克也に止めといたほうがいいとアドバイスをしていたこと、匂いは気を付けろと、結婚前に最後に伝えていたことを一気に雄哉に語った。
「それは……、なんていうか、不幸な結末ですね」
「今の話、本当だとしたら、克也くんには本当の姿、見せてもらわないと」
「はい。愛子さんは幸せになれないと思います」
「分かったよ。雄哉くん。ここからはその話、私が引き受けたよ」
優菜は、ある強い決意をして、雄哉と店を出たのだった。
――「で、その後、優菜さんと真奈美さんから連絡が来たんだ。上手くいったよ。って」
雄哉は裸でベッドに横になりながら、同じく裸になっている和歌子に向かって、話をしていた。
「先輩もちょっと落ち込んでたことあったから心配してたけど、そういうことかー」
和歌子もいっときだけ、ほっとした表情をみせる。が……、
「うん、その話は分かったよ。で、問題は、今の状況だよ」
雄哉の横に寝ていた和歌子は、むすっとした表情になる。
「その、なんていうか……。すまないっ!」
雄哉は寝ている和歌子に向かって申し訳なさそうに首を垂れる。和歌子はぎゅっと毛布を胸元で押さえ、俯きながら静かに上体を起こすと、久々の強烈な一撃を雄哉に食らわせた。
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