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第四章 花のお姉さん
(30)花のお姉さん その1-4
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――克也のその日の仕事は営業先で終わったので、直帰の予定だった。いつもより早い時間に列車に乗り、駅に降り立つと、後ろから肩を叩かれた。
「あの、真野克也先輩ですよね。お久しぶりです。」
「あ、君は……、若野くんって言ったよね。その節はどうも」
「いえ、こちらこそ。その後丸く収まったみたいで何よりです」
「あははっ、君のおかげかな。そうだ。近くで一杯やってく?」
克也がジョッキを持つ手振りを雄哉に見せる。
「いいですね。ちょうど自分も帰るところでしたので」
「じゃぁ、決まりだね」
それからふたりは駅近くにある居酒屋に入り、酌を傾ける。
「先輩、会社ではかなり変わったって聞いて、マジでびっくりしました」
「ああ。もう匂い気にする必要ないかな、っていう気はするんだけど、やっぱり外出るときは、前と同じように気を使ってるよ」
「そうですか。本当は男はそれくらいじゃないと好かれないかもしれませんね」
「僕のは、自分でもやりすぎだとは思うけどね。でも、お陰で社内では嫌われずにはすんでるし」
克也は笑って、二杯目になるビールジョッキを空にする。
「先輩の会社落ちたのって、やっぱりフェロモンのせいなんですかねぇ」
若野は冗談とも似つかない口調で言うと、克也に続いてジョッキを空にする。
「あははっ、だったら、僕だって通らなかったよ。大学の頃は、それこそ『フェロモンキング』だったわけだし」
「そうですよねー。自分の代でも伝説でしたよ。永遠に語り継がれるんじゃないですか」
ふたりはお互いの大学時代の話を懐かしく語り合う。酒も進み、つまみや料理で腹も膨れてきた頃に、雄哉のスマホが鳴る。
「あ、もしもし? 真奈美さん? その節は……。え? 今からですか? ……はい。近くにいますから数十分で……。……はい。……はい。分かりました。それでは伺います」
雄哉がスマホをしまうと、克也から声をかける。
「真奈美さんから?」
「え? あ、はい。なんだか急な用事らしくて、今から来いとのお達しが……」
雄哉が苦笑しながら答えると、克也も同情の念を込めて苦笑いで返す。
「あははっ、真奈美さんの頼みじゃ断れないね。じゃ、一緒に出ますか」
「すみません。もう少し、先輩と盛り上がっていたかったんですが」
「またいつでも飲めるし、会えるよ」
それからふたりは会計をして店を出る。そしてタクシーを捕まえようと話をしていたところに、後ろから、克也の肩を誰かが叩いた。
「えっと、愛子ちゃんの旦那さんですよね?」
「あ、あなたは……」
振り返ると、清楚な女性がそこに立っていた。克也は先にタクシーの順番待ちをするように雄哉に促した。克也はその女性としばらくふたりで会話をしていたが、雄哉にはちょっと聞き取れなかった。話が終わると、克也が先にタクシーを待つ雄哉に向かってくる。
「ごめん、ちょっとあの人と話してから帰るから、先行ってて。愛子にはメール入れておくけど、もしウチ来ることになったら、『花のお姉さん』と会ってるって伝えておいて」
「あ、はい。了解しました。」
「あ、あと……」
克也は一旦ためてから、雄哉の肩を叩き、
「頑張れっ」
と言い残し、女性の方に再び向かっていった。
「――という感じでしたね」
雄哉は一通り真奈美に会うまでの時間のことを話し終える。
「えっと、もしかして克也くんの言ってた『花のお姉さん』って……」
真奈美が遠くを見ながら克也に問う。
「そう。あの人です」
克也も入り口の方を見て微笑む。雄哉がその時に見た清楚な女性が、笑顔で手を振りながらこちらのテーブルに向かってくる。
「克也くん、さっきはどうも。愛子ちゃん、こんばんわ。真奈美、孝先生、久しぶりっ、あとの三人は初めましてだね。私、結城綾女(ゆうきあやめ)っていいます。よろしくね」
「あの、真野克也先輩ですよね。お久しぶりです。」
「あ、君は……、若野くんって言ったよね。その節はどうも」
「いえ、こちらこそ。その後丸く収まったみたいで何よりです」
「あははっ、君のおかげかな。そうだ。近くで一杯やってく?」
克也がジョッキを持つ手振りを雄哉に見せる。
「いいですね。ちょうど自分も帰るところでしたので」
「じゃぁ、決まりだね」
それからふたりは駅近くにある居酒屋に入り、酌を傾ける。
「先輩、会社ではかなり変わったって聞いて、マジでびっくりしました」
「ああ。もう匂い気にする必要ないかな、っていう気はするんだけど、やっぱり外出るときは、前と同じように気を使ってるよ」
「そうですか。本当は男はそれくらいじゃないと好かれないかもしれませんね」
「僕のは、自分でもやりすぎだとは思うけどね。でも、お陰で社内では嫌われずにはすんでるし」
克也は笑って、二杯目になるビールジョッキを空にする。
「先輩の会社落ちたのって、やっぱりフェロモンのせいなんですかねぇ」
若野は冗談とも似つかない口調で言うと、克也に続いてジョッキを空にする。
「あははっ、だったら、僕だって通らなかったよ。大学の頃は、それこそ『フェロモンキング』だったわけだし」
「そうですよねー。自分の代でも伝説でしたよ。永遠に語り継がれるんじゃないですか」
ふたりはお互いの大学時代の話を懐かしく語り合う。酒も進み、つまみや料理で腹も膨れてきた頃に、雄哉のスマホが鳴る。
「あ、もしもし? 真奈美さん? その節は……。え? 今からですか? ……はい。近くにいますから数十分で……。……はい。……はい。分かりました。それでは伺います」
雄哉がスマホをしまうと、克也から声をかける。
「真奈美さんから?」
「え? あ、はい。なんだか急な用事らしくて、今から来いとのお達しが……」
雄哉が苦笑しながら答えると、克也も同情の念を込めて苦笑いで返す。
「あははっ、真奈美さんの頼みじゃ断れないね。じゃ、一緒に出ますか」
「すみません。もう少し、先輩と盛り上がっていたかったんですが」
「またいつでも飲めるし、会えるよ」
それからふたりは会計をして店を出る。そしてタクシーを捕まえようと話をしていたところに、後ろから、克也の肩を誰かが叩いた。
「えっと、愛子ちゃんの旦那さんですよね?」
「あ、あなたは……」
振り返ると、清楚な女性がそこに立っていた。克也は先にタクシーの順番待ちをするように雄哉に促した。克也はその女性としばらくふたりで会話をしていたが、雄哉にはちょっと聞き取れなかった。話が終わると、克也が先にタクシーを待つ雄哉に向かってくる。
「ごめん、ちょっとあの人と話してから帰るから、先行ってて。愛子にはメール入れておくけど、もしウチ来ることになったら、『花のお姉さん』と会ってるって伝えておいて」
「あ、はい。了解しました。」
「あ、あと……」
克也は一旦ためてから、雄哉の肩を叩き、
「頑張れっ」
と言い残し、女性の方に再び向かっていった。
「――という感じでしたね」
雄哉は一通り真奈美に会うまでの時間のことを話し終える。
「えっと、もしかして克也くんの言ってた『花のお姉さん』って……」
真奈美が遠くを見ながら克也に問う。
「そう。あの人です」
克也も入り口の方を見て微笑む。雄哉がその時に見た清楚な女性が、笑顔で手を振りながらこちらのテーブルに向かってくる。
「克也くん、さっきはどうも。愛子ちゃん、こんばんわ。真奈美、孝先生、久しぶりっ、あとの三人は初めましてだね。私、結城綾女(ゆうきあやめ)っていいます。よろしくね」
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