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番外編パート2 お姉さんの下着を濡らしたら合格できる予備校があるらしい

(2)お姉さんの下着を濡らしたら合格できる予備校があるらしい プロローグその2

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「えっ……?」

 陽太はその視線に気がついて固まる。そして女性も同様に固まっている。

 どれくらいの時間だっただろう。時間にすれば数秒程度だったのかもしれないが、陽太は我に返るまで数分はかかっているように思えた。だって……。

 あの真っ直ぐで透き通るような目で見つめられたら……。まるで自分の心を見透かしてみているような……きれいな目。

 陽太が我に返ったのは、その女性が、笑顔で、自分に向かって手を振ってきたからだった。

  思わず陽太は手を振り返す。そして女性は何かを口にしながら人差し指を下に向けるジェスチャーを陽太に向けてする。

「降・り・て・き・て。かな?」

 陽太は口の形とジェスチャーで何とか女性の意志を汲み取ると、自分の人差し指を下に向けて大きく首をかしげる。すると女性はニコっと笑ってコクコクと頷く。陽太は親指と人差し指で輪を作って女性に向け、広げていたテキストやペンを片付け、自習室を出た。

「何なんだろう……」

 不思議に思いながらも、予備校の薄暗い階段を降りていく陽太の顔には笑みがあった。それは、あのきれいな目が間近で見れるかも、という期待だった。



 陽太が階段を降りると、エントランスの入り口に一人の女性が立っていた。先程みた白いトレーナーと青いジーンス。間違いない。陽太が向かって行こうとしたところで女性の方が気づいて顔を向け、笑顔で手を振ってくる。陽太はエントランスをると女性に向かってその場で会釈をする。

「は、初めまして。東雲陽太(しののめようた)と言います。この予備校に通っています」

「初めまして。私は結城綾女(ゆうきあやめ)。さっきはごめんね。勉強の邪魔しちゃったね」

「いえ、ちょっと考え事してて、ぼーっとしてたら、すごいもの見えたんで……、びっくりしました」

 陽太は素直にその時の自分の気持ちを言う。

「あはは……。ちょっとドジッちゃってね。そうそう。もし良かったらでいいんだけど、こっちでお茶でもどうかな? さっきのお詫びってことで」

「え? いいんですか? というか、僕なんか、行っていいところなんですか?」

 陽太は今まで起きた状況を整理し、綾女のいる場所がおそらくは女性だらけであろうということを想定していた。

「うん。ていうか、君のこと連れてこいって言ってるし。どう?」

 綾女は上目遣いで陽太の目を見る。

「は……はい。まぁ、今日はそろそろ帰ろうかなと思っていたところですし。構わないですが……」

「じゃ、決まりね。こっちよっ!」

 綾女は陽太の手を引いて、向かいのビルに向かう。綾女の弾むような眩しい笑顔に、陽太は徐々に惹かれていくのだった。
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