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番外編パート2 お姉さんの下着を濡らしたら合格できる予備校があるらしい
(10)お姉さんの下着を濡らしたら合格できる予備校があるらしい その4-2
しおりを挟む「……、と、言われても……」
ふたりはお互いに顔を見合わせてもじもじとしていたが、陽太が唾を飲み込んで切り出す。
「あ、あの、綾女さん」
「は、はいっ……」
綾女は突然名前を呼ばれて、固まったまま返事をする。
「ほ、本当は、合格してから言うつもりでしたけど、なずなにバレた以上、もう隠せない。僕、綾女さんを予備校の窓から見たときから……、好きでした」
「わ、私も、あのとき、陽太くんと目があってからずっと……」
お互いの気持ちを露わにし、ふたりはさらに顔を赤くしてうつむく。
「で、でも、やっぱり受験は大事なので、そこは、しっかり、やりたいんです」
「うん、陽太くんのために、私も、頑張るから」
そう言ってからふたりはお互いの目を見つめ合う。
「と……、とりあえず、続き、お願いします」
「あ……、そ、そうだねっ、続き、やろう」
そしてふたりは慌てたように再びテキストに集中するのだった。
そんなことがあって、帰宅し辛かった陽太が、恐る恐る自宅の玄関のドアを開けると、なずなが予想通り既に帰っており、玄関で兄を迎えると、兄の耳元でキッチンの母に聞かれないように小声で言う。
「お母さんには言わないでおいてあげるから。勉強頑張りなさいよっ、あと、私も、たまにあのオフィスに行くことになったから……」
「えっ」
「と、とにかくっ、そういうことっ」
なずなは頬を赤くしてキッチンに向かう。陽太は首を傾げながら自分の部屋に戻るのだった。
あとでめぐみに聞いた話では、香織と裕子にによってなずなは、「陥落した」ということなのだが、陽太には意味が一切分からなかった。ただ、オフィスに時々来るようになった妹が、裕子と香織に挟まれながら仲良さそうにしている様子だけが、陽太の視線には映っていた。
そして週末の模試が終わってから数週間後、予備校から結果を持って陽太がオフィスに駆け込んでくる。
「やっほー、陽太くん。その様子だと……」
めぐみが陽太の満面の笑みに気がついて言葉をかける。
「はいっ、おかげさまで」
いつも勉強をしている木のテーブルの上に陽太は颯爽と模試の結果表を出す。『第一志望 A大学 政経学部 合格率 八十パーセント以上』の文字が綾女の目に飛び込んでくる。
「やったねっ! 陽太くん」
「はいっ。ありがとうございます」
「へぇー、お兄ちゃんやるじゃん」
妹のなずなも丁度オフィスに来ていて、兄に声をかける
「皆さんのおかげです。本当、感謝します」
陽太は深々と頭を下げる
「待って、陽太くん。これは、模試の判定だからね。合格したわけじゃないのよ。気持ちは嬉しいけど、その挨拶はまだ先。それより……」
めぐみはそう言って笑顔で綾女の方を見る。
「ふふっ、ふたりとも良かったわね。予備校も夏期講習入る前に少しお休みでしょ? デート、楽しんでらっしゃい」
「いいなぁー。お兄ちゃん……」
「なずなちゃん、私たちもどっか行こうか」
香織がなずなに向かって声をかける
「それ、いいね。海でも行こっか」
「うんうん。そうしようっ!」
香織と裕子に翻弄されながらも、なずなは嬉しそうにしている。あの後、何があったか陽太は分からなかったが、二人の姉が一気にできて嬉しいという感じなんだろう、と勝手に想像していた。そんな三人を横に見ながら綾女が顔を赤らめさせて、陽太に向き直る。
「じゃ、約束通り、次の週末……ね」
「はいっ。楽しみにしています」
陽太は満面の笑みを綾女に向けて言った。
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