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#13 夏の夕暮れ
しおりを挟む──面。
俺はしかめっ面を作るしかなかった。真夏、夕暮れ、蝉も漸く鳴くのを止めたと思った頃にそいつらはそこに居た。狸の面を被った中肉中背の女性と、狐の面を被ってその女性に手を引かれる少女。少女? もう少しで女性になるんだろう。二人の背は左程変わらなかった。少女は細身だったが。
「で?」
そろいの浴衣は真っ白な生地に控えめな紫陽花をあしらった物だった。気付いている。袷が逆だ。
「俺にどうしろと?」
困った様に狸の面が項垂れた。
「別に? 様子を見に来ただけ。随分良い生活だねぇ?」
年月を誤魔化す様に継ぎ接ぎしただけのアパートを見上げて狐の面が言った。一応開いている目の部分は夕暮れの光の中でも分かるくらい蒼く光っていた。
「ああ。生活保護でまぁ、良い生活っちゃぁそうかもな。」
狸の面が一歩踏み出したのを狐が制した。
「不幸じゃねぇよ。まぁ、不幸ってのが何なのかも知らんが。」
狐の面がケラケラと笑った。
「それを聴きに来ただけ。後、」
「いいよ。」
言葉の先を知っている。どれが嘘で、どれが本心なのかも分かっている。だったら、もうここでする事もないだろう。
「だね。君に幸あれ、とだけ言ってあげよう。」
「ああ、そう言えば言い忘れてた。俺が恨んでるのはお前らの他の家族だけだ。」
墓前で言ったかな。覚えていない。この前、神だったか閻魔だったかの使いが狐の面が酒を飲み過ぎてると言っていて、それはお前が墓石に酒をかけた所為だと言っていたが、それは良いか。
「おい、狸。」
狸の面が俺を見た。赤い瞳が俺の瞳の底を見ていた。
「助けてやれなくて、ごめんな。」
狸の面が顔を背けた。多分俺は泣いていたんだろう。狐の瞳の蒼が霞んで見える。
「ふぅん。君は言って良いんだ。良いけど、貸しだからね。」
狐の面がそっと狸の面の背に手を当てた。そしてそっと、面の底に白い指を当てて化粧もされていない、それでも瑞々しい唇の隙間から真っ赤な舌を出した。そして緩やかに言葉を吐き出す。
「君、幸せに成り給え。未だ時間は在る。」
目を逸らし涙を拭った俺はため息を吐いてヒビだらけの階段に足をかけた。数段登って身を乗り出して見ればもう二つの影は消えていた。ため息を零しながら階段を登る。そう言えば十三階段なんてのもあったけどこれは何段だろう。そう思いながら上り切ると偶然タインミング良く出て来た隣人がタッパーに詰めたカレーをくれた。これで三食ぐらい作れる。カレーライス二食に残りは薄めてカレーうどんだな。礼を言ってボロ屋の扉を開ける。そして困った。部屋の中央にはテーブルとも言えないダンボールの上にタオルで包んだ合板を乗せただけのものがあるが。
「盆ったってなぁ?」
狸と狐の面が置いてあった。偶にはお前から会いに来いと言う事だろう。どんな顔をして? 答えなんてない。俺は世界の、街の、町の片隅で息をしているだけだ。
「それが気に食わないのか?」
仕方がない。壁紙に穴を開けるのは嫌だったが、画鋲を突き刺して二つのお面を白い壁に下げた。いつかは誰もが諦める事だ。それに、棚を作るよりはマシだ。
「これで勘弁してくれ。」
夕陽が落ち始めた。部屋が薄暗くなる。電気を点けてカーテンを閉める。さぁ、夜の支度を始めよう。
(了)
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