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#01 群青
しおりを挟む──風が抜ける小径。
嗚呼、ほら、陽が落ちる。暮れる。両手を広げて、君は舞う。僕は其れを見て居る。嗚呼、そう、永遠に。永遠が此処にあれば、なんて思う。叶わない夢だけれど、そう願った。
だから、怖いとは思わなかったし、不思議とも思わなかった。其れで良いと思えた。秋桜が開き、銀杏が色付いた。金木犀を待っている。そして、背には君が居る。いい加減に、おかしいと思う人も居るかも、と君が呟く。良いよ、別に。おかしくても不思議でも構わない。君の居ない寂しい生活よりは随分とマシだ。
「君、君よ、全く、おかしな人間だな、君は。」
「あ? 今に始まったこっちゃねぇだろ。」
降る声に君は消えようとする。だから僕は其の手を掴む。
「ああ、別に邪魔したい訳じゃないんだ。君も思うだろ? おかしいだろ、コイツ。」
けらけら笑ってみせる其れも其れなりにおかしいと思うが、良いだろう。
「馬鹿は酷いじゃないか、私はコレとは違うよ。」
どの口が。二人で言って三人で笑った。
「さてもはてもか、今日は? 何か予定でも?」
「特には。ああ、でも給湯室が気になるって言ってたな。」
「ほぉ、成程成程。かなり前だがね、殺しがあったようだ。情報は? 洗い直すかい?」
「いや? お前のなら確かだろう。確かめに行こう。」
歩く。足音は二人分しかない。まぁ、良いだろう。
人の言う、怪異とは何だろう。此処には幾らでも在る。窓辺で花を探す少女、ソファで難しい顔をする男。台所、振り返って、悲しいような顔で振り返る女性。其処に居て呉れ。其れだけで、良いよ。居ない方が困る。
幽かに微笑む女性が食事を並べる。
男は本を畳んで、頭を掻いた。良い考えは浮かばなかったらしい。
少女が何時ものように跳ねながら席に着く。
「とりあえず、食べるか。」
静かにフォークを操る姿が美しい。黙々と箸を使う姿も、綺麗だった。二人に倣おうとして、上手く行かない。頭を撫でて貰って、声を掛けて貰って、嬉しそうに笑う。なら、其れで良い。
「貴方は。」
三人で笑ってやる。声を出したのが珍しかった。
「もぉ、皆も喋れば良いじゃないですか。」
かもな。男は何かを考えた様だった。少女は、食事が忙しいらしい。汚れた口元を女性が払った。
「うぃ。ねーちゃんとにーちゃんと、とーちゃんが居るから幸せー。」
そうか。其れなら、良いだろう。女性と男は困ったように笑っていた。良いさ。そんな場所だ。
陽が暮れる。足音が聞こえる。僕は振り返る。膝から下だけの足が揃って居る。
「四十人揃ったか?」
冗談を言えば笑い声が帰って来る。良いだろう。
「さぁ、今日は何をしようか?」
好みは其々だ。数学が好きな者、国語を好むもの、社会科が得手なのも居る。理科は人気が無いが、個人的には好きだ。
「今夜は地理にしようか。人気があるのは関東やらそっちだな。名古屋だと、歴史も絡むね。興味があるのは? 甲信越? 旅行したいだけだろ、それ。」
顔の無い生徒は各々の知識を口にする。一つ一つ応える。時間は幾らでもある。
「先生、先生は、大丈夫ですか?」
「私は、良いよ。君達の為に死ねるなら、其れで良い。」
灯りを点す。嗚呼、鮮やかに浮かび上がる。其の顔を私は永遠に忘れないだろう。
死んだ母と産まれる事の無かった姉。背に負っても、そう重くない。だから、大丈夫。
「かねぇ?」
「嘘と無理ばっかりですものね。」
五月蠅い。もし本当ならさっさと投げて居る。
「そこで嘘吐くじゃん。」
「ホント。」
うっさいなぁ。厭ならどっかいけよ。
「うふふ、君が居ろって言ったんじゃない。私は、ずっと居るよ。君が嫌がらない限り、ね。」
体があれば幸せな人生だったろうな。
「ごめんなさいね。」
謝る必要はない。背負うと決めた。だから、いつまでも居て良いし、嫌がる事はしない。
「ははっ、だってサ。じゃ、ずっと居る。ね? 怪異が好きな物好きさん?」
「良いのかしら?」
良いよ、もう。諦めた事を言い直しやしない。秋の風が吹いた。赤い陽が落ちる。ほら、綺麗だろ?
「んひ、そうねぇ? ほら、抱きしめてあげなよ、寂しそうじゃん。」
「ごめん、はもう良いのよね? じゃあ、はい。ふふっ、ほら、お姉ちゃんも寂しそうよ?」
うっせぇ。さっさと抱きとめて、空を見る。夜が来る。何を話そう。怖い話。良い話。沢山ある。さぁ、虚構を始めようか。
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