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#07 金色
しおりを挟む──スピカ。
取り憑かれた。と、思う。幽霊では無いそうだ。まぁ、似たようなものだろう。
「ノンノン。悪魔だからちゃんと身体あるよ。」
目は切れ長、唇は厚く真っ赤で鼻は高い。茶色のセミロングは頬に向かって少し巻いて居る。今日は赤のキャミソールにミニスカート、ガーターベルトに二―ソックスも赤。中身もそうなんだろう。所々に意味の無さそうな黒いベルトが巻いてある。悪魔の定番だと思う角、翼、尻尾は邪魔だから消しているそうだ。何とも便利だ。
「スピカ。」
それが名前だ。無いと言われたから俺が付けた。意味も理由も無い。何となく其れが似合うと思った。
「ん? どったの? 顕一。」
「呼んだだけだ。」
展開は、まぁ、予想の範囲だろう。
「あー、触りたいんでしょう?」
スピカはふわりと背中に飛び乗って来る。重さは感じない。翼が無くても飛べるらしい。いや、見えないだけであるんだったか。
「あ、そだそだ。」
そのままするりと前に回って来る。胡坐をかいて居る膝の上に乗られた。ソファか、座椅子でもあれば邪魔出来るんだろうか。座布団代わりのタオルケットの上では遮蔽物は無い。足を腰を回され、首に腕を回された。少しだけ距離はあるが顔は近い。
「んひ、下着ね、新調したのサ。」
自らスカートをの裾を握って見せる。近い位置で唇が動いて、何か甘い匂いがする。一応目を逸らす。
「見て良いよ?」
身体を少しだけ離してスカートを捲って見せる。赤のスケスケ、面積は少ない。フリルが絶妙に色々と隠している。
「まったエっロイのを。」
「ふふー、見えそうで見えなくて実は見えてんの、好きでしょ?」
今度はキャミソールをたくし上げた。いつもより面積は広いが密度は薄い。
「ねぇー、触ってみなよー?」
言われる通りに身体が動いた。後は言うまでも無い。
白い壁に背を当てて座っている。スピカは俺の腕に抱き付いて、眠っている、か? フリかも知れない。そもそも睡眠が必要なのかも知らない。
ぼんやりと思う。スピカは何者なのだろう。俺の昔も知っていた。けれど、悪魔に憑かれるような事をした覚えは無いし、見た目も知らなかった。そもそも俺がこんな若くて美しい女に、
「好かれてるよ、愛されちゃってるよ?」
いつの間にか起きていたらしい。スピカの白い手が頬に伸びて来る。
「オハヨ。アタシの事、もっと知りたい?」
気になるだけだ。知れずに終わっても構わない。
「んふっ、好いね。もう直ぐだからね。」
スピカは俺の存在を喰っているらしい。感情、苦痛も苦悩も。何もかもを吸い尽くされた俺は徐々にぼやけて消えて行くそうだ。
「顕一が苦しまないように、ゆっくり、ゆーっくりね。」
面倒じゃないだろうか。いっそ。
「ダーメ。顕一が怖いのは苦痛だけ。だから、ゆっくり全部食べてあげる。」
唇が寄せられた。迎える。
「欲しい物、必要な物は揃えてあげる。でも、傍に居るのはアタシだけ。夜の相手も、ね?」
潤んだ瞳がある。意識が薄れ始めた。
「じゃ、ヒント。アタシは顕一と一緒に産まれたよ。」
三つか四つか、確か水子になった上の兄弟が居た筈だ。性別も分からないまま、と聞いていた。
「女だったのか?」
「うーん、半分だけ正解かな。その時は覚えて無いけど、顕一と一緒に産まれた時に女になったの。きっと、ううん、絶対、顕一の為に。」
夕陽が射し込んで来た。白い壁は金色に見えた。スピカも金色に染まって行く。
「さぁ、行こうか。」
そして俺の意識は途切れ始めた。
「あー、ちょーっと待ってね、すぐだから。」
スピカが台所に立っている。こっちではスピカも普通の食事をするらしいので交代で作る事にした。掃除は要らないらしいが、気分の問題で風呂は入る。間取りは最後の部屋と同じだ。夕暮れになると白い壁が金色に染まる。
「はいはーい、洋食の朝ご飯だよー。」
家具の類は随分と増えた。
「うまそうだな。」
「当たり前じゃん。アタシの愛情たっぷりだもん。」
スピカの格好は大して変わらない。白いエプロンをしているぐらいか。とてもまともに料理ができそうには見えない。
「何よー、いっつも美味しそうに食べてるじゃない。」
「格好の話だよ。頂きます。」
「はい、召し上がれ。」
ここで作ったらしいパンと色合いの良いサラダとスープ。食後はコーヒーか。意外な程普通だ。
「あー、そーいえばさー、ウォーターサーバーって要る?」
「要らんかな。アレ偶にお湯っつってんのに水出んだよ。」
パンにマーガリン。千切りキャベツにトマトと潰したポテトがついている。目玉焼きもついているが、半分ずつだ。
「今日は青ジソ、こっちはしょー油?」
「かな。」
スープはコンソメベースで溶きこんだ卵とバジルが良い色になっている。
「どーだ、立派なもんだろ。」
「地味とも言えるがな。うまい。」
「そっちのが顕一の好みでしょ?」
エプロンを外していないのもか。
「んふ?」
「さ、早く食べるか。」
スピカの目が光った、気がした。
「えー? ゆっくり味わってよ。折角作ったんだし。」
厚い唇を真っ赤な舌が舐めた。
「もう、出れないんだから。今度こそゆっくり、ずーっと、二人で暮らそ?」
頷く代わりにキスをした。其れで良いんだろう。スピカはそんな顔をして居た。
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