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#13 架空の華
しおりを挟む──初秋の日。
地面を焼き焦がす程の陽射しは遠避かった。朝夕の空気は冷たく澄み渡り、白昼の中にさえ季節が見え隠れしている。
見慣れた休日の、見慣れた部屋に。
一輪。咲いて居る。君は厭な顔をする。厭そうに言葉を並べる。真白の衣を纏い、家中を駆け回り、食事の支度をして、選択をして、埃を払い、安堵したような溜め息を吐きながら湯飲みに唇を付ける。見事だと思えたのは、その衣装に一つの汚れも無い事だった。
「慣れればこんなものですよ。」
事も無げに言って見せる。実は少しでも手伝おうとしたのだが、「お座りになって、珈琲でもお飲みになっていて下さい。」と言われてしまった。矜持なのか、実際に私が手伝っても邪魔になるだけなのか、判断はしなかった。
「そう言えば、お願いがあるのですが。」
君が言う。何でも、と言いかけた唇に指を当てられた。
「何でも、は、いけません。貴方は本当に何でもして下さいますから。甘え過ぎてしまいます。」
微笑む顔が、何故か苦笑して居るように見えてしまう。其れは私の業だろう。
「お買い物と、その、ついで、なのですが。」
快諾すると君の苦笑いが消えた。矢張り、一輪咲いて居る。言葉にしなかったけれど、君はまた困ったように笑った。
「私は、そんなに綺麗なものじゃありませんよ?」
初夏の紫陽花よりも、夏の向日葵よりも、庭に咲いた秋桜よりも、これから花を付ける金木犀よりも、そんな言葉を並べたら、君はいよいよ俯いてしまった。
「お止め下さい、もぉ、いつも、そうやって、からかって。」
笑ってしまった。君は口をへの字に曲げた。根拠も無く言っている訳ではない。瓜二つなのだ。一人暗がりに転がって居た頃に描いた架空の華に。
「さて、では行こうか。」
「ええ、道順は、歩きながらで良いでしょう。」
互いにもう支度も済んで居る。財布を持って、上着を羽織る程度だ。施錠して外に出ると、幽かに金木犀が香ったような気がしたが、見上げても陽光を浴びる葉があるだけだった。
「また、何か視えましたか?」
「ああ、金木犀の花がね。」
「陽射しの悪戯ですか。本当に貴方の隣は退屈しませんね。」
手を引いて歩くような歳ではなくなった。代わりに、庭を出る前に唇に触れた。君はまた困ったように微笑んで、何かを思い付いたように私の手を取った。
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