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#11 白昼の幻
しおりを挟む──あの頃のまま。
一年、十年、百年、千年。変わらぬもの等在りはしない。明日、明後日、一週間。その度にさえ変わって行くだろう。
不思議な心地にさせられた。所用で二十年も前に通って居た道を自転車で漕いだ。未だ田植えのされていない水田を伸びる一本の道。アスファルトで舗装されている。あの頃からあちこち痛んで居たが、余り変わりは無いようだ。スケール感は違う。こんなにも短い道だっただろうか。あの頃、苦労してこの道を走っていた少年は、まぁ、良いだろう。
やがて道は別れる。同じ道を進む。毎日吼えていた犬の声は聴こえなかった。二十年の歳月は、懐かしい木々を変える事はできなくても、一つの命は簡単に奪ってしまったらしい。
一つ角を曲がる。草に埋もれた舟が見えた。彼は後何年そうやって空を見上げるのだろう。その身が朽ち落ちるまで? それとも、所有者の命が終わるまで? それも意味が無い問いだ。
進む。未だ白い壁の工場がある。確か同級生の親の物だったと思う。
記憶が虚ろに歪む。変わらないもの、変わるもの。何が違ったのだろう。何が違うのだろう。俺はそれに何を求めている?
風が背を押した。
そうだな、意味が無い。
暦は三月の下旬と言って居た。予報士は明後日には温かくなるだろうと言って居た。吹く風は強く、北西から。未だ春は手を擦り抜けながら其処に居るだけのようだ。
ならば帰りは向かい風だな。そう思って少し笑った。興味が無いのだと知った。変わろうが変わるまいが、其れは他人の話だ。俺が見るべきでも、語るべきでも無い。用事があるとは言え、此処まで追い風に乗って来た事を少し呪った。
けれど、それも直ぐに消えた。
カーブミラーで確認して角を曲がる。小回りの利かない自転車だ。足で地面を蹴りながら調整する。
そして。
一年、十年、百年、千年。変わらぬものが在った。振り返った君は少し困ったように笑った。直ぐに前を向き直して、ペダルを強く踏んだ。俺は立ち尽くして其れを見送る。追い駆けてはいけない。生きる者には生きる者の、死んだ者には死んだ者の世界が在るのだろう。
見えなくなるか如何か、そんな距離でもう一度振り向いて呉れた。手を振る。左様なら。次に会うのは、きっと。
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