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#18 亡者の囁き
しおりを挟む──最後に。
流れ流れる日々は枯れた。其れでも丸めた背に負うには重過ぎたらしい。潰され、腐り果て、其れでも尚重さだけを感じる。伸ばしている筈の手、もう朽ちかけた骨になっている。少しずつ崩れ落ち砂に変わって行く。けれど、不思議と後悔だけは無かった。後悔する程の世界では無かったのだろう。只夜風に吹かれる亡者。其れが相応しい姿なのだろう。
一面金色だった。恐らく美しいと感じたのはそれが最初で、最後だった。そして其の煌めきと似たようなものにさえ出会う事は二度と無いだろう。
幼少期。好かれた記憶は無い。思い出すべき事も無い。焦げた匂いと真っ白な骨と灰。其れだけを鮮明に覚えて居る。
眼鏡を使い始めたのは愈々使わざるを得無くなってからだった。簡単に壊れる其れは使い難い道具だった。慣れる迄の時間も無駄に思えた。何個目に成るか分からない此れも、まぁ、最初に使って居た物よりはマシだろうか。
人間と云う物は最後まで理解できなかった。利己的な行動を蔑みながら最後に守るのは自分。当たり前か。誰しもが命に値を付けて居る。当然彼が付ける僕の値段と君が僕に付ける値段は違う。重さだって違う。何を優先すべきか、何が大切なのか、知らないのは僕だけだ。
秒針を眺めるだけの日々が続いた。春が終わり夏は過ぎ、秋が僅かに顔を覗かせる。辿り着いた冬には枯れ葉が寒風に飛ばされるだけだった。
夜も嫌いだ。様々の音が声に変わる。闇の中で目を閉じればより大きな声に変わる。いっそ気が狂ってしまえたら。いや? もう?
水子。姉か兄か知らない。名前は無い。代わりに俺が造られた。相当に出来が悪かったのだろう。母は呆れて、絶望し、自ら其の命を断った。
日々擦り切れて行く。救いは無い。一日、一日、只々死へと向かう。一生を掛けた穏やかな自殺。妙にしっくり来た。
月夜の真夜中、庭を見て居た。秋口だったと思う。満月が深い青を庭中に落として居て、雪が積もって居るように見えた。恐らく其の夜から私の幻視は始まった。
幻聴は其の少し後、母の死の前だったか後だったか、少年が耳元で「助けて。」と言った。辺りには誰も居なかった。
やがて広いだけの部屋に辿り着いた。食料、酒、煙草、紙とペン。書けるだけ書いたら、後は死ぬだけと思った。
夢から醒めたのは何時だったか。あの真夏の夕暮れか。遠く旅路の果て。色の無い煙の中か。知る意味は無いか。夢は醒めた。どんな命にも意味が無い。
朝ならば秋の半ばを過ぎた頃が良い。涼しさを過ぎて寒さに変わって行く頃。青白く滲むような色合いが良い。其の景色の中なら、少しは楽だ。仄白い影も、前だけを見て走る少年も、歩き疲れたのか道端で休む老人も。息を切らせる君に手を伸ばせるのも其の時だけだろう。さぁ、何をしようか? そう言えるのも。
不思議だと思う。どれも此れも其処に在るだけの一人の人間。
「貴方だって。」
莫迦め。
「其れこそ、貴方が、です。」
微笑された。
真夏、青空。風は熱く、煙は北へ向かって流れた。此れから何をしようか。背後の影が問う。応えない。此処には何も無い。秋になれば? 夜が明ければ? 其れも。まぁ、良いさ。行こうか。影を引き摺り亡者が歩く。結局、そんな物にしか成れなかった。
(了・亡者の囁き)
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