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#04 窓辺の午後
しおりを挟む──魔法の指先。
駒を並べる。彼女は歩から並べ始める。その方が楽らしい。俺は玉から並べる。確かに最後に同じ顔の歩を並べるのは面倒かも知れない。
「先手は?」
「夏帆で良いよ。」
彼女、夏帆は少し何かを考えた。俺が先手の方が苦手と知っている。
「嫌なら逆でも良いぞ。」
「あ、うん良いよ。先に指すね。」
迷わずに飛車先を突き出す。それが俺の一番嫌いな手だ。角道を開ける。向こうは歩を伸ばせるし、こっちは受けに回る他無い。
「棒銀は受かっちゃうか。んじゃこっち。」
夏帆も角道を開ける。普段振り飛車を指す俺には厭だ。歩を押し上げて角道を止める。後は角と銀で受けて飛車を振る。こっちも飛車先を突いて空中戦もあるが、柔軟な受けの夏帆には通用しなかった。冬の陽射しが窓越しに盤上を照らす。
「やっぱ耀龍か。」
速攻で突っ込まれたら間に合わないか、まぁ、それはそうなってから考えよう。角、銀と登らせる。飛車の置き場所は相手に合わせよう。夏帆は居玉のまま腰掛け銀模様にした。次の手か。向かいか四間、三間は、相手の桂が怖い。4八飛車を見て夏帆は飛車先を突いた。パチパチと音が響く。俺は金無双。夏帆は左美濃には入り切らないまでも充分な形だ。ため息を突く。
「お茶淹れるね。」
俺が長考すると見越して夏帆は肩にかかる黒髪を払って立ち上がった。
「悪いな。」
「良いよ、その歩、ゆっくり考えなよ。」
9五歩。香車の交換をしても角の行く先が無い。それよりは銀を上げて。考えている間に茶と煎餅が並べられた。
「ありがとな。」
「ん。で? 決まった?」
銀を上げた。
「んふ。相変わらず、君の指は綺麗だね。」
王が美濃に入る。俺は考えずに腰掛け銀の形だけ作った。俺よりも綺麗な指は飛車を右四間に降った。二人で煎餅を齧り茶を飲んだ。左金を上げる。歩が降りて来る。戦いが始まる。夏帆は少し考えて銀に当てた駒を取らず飛車先を切りに来た。ノータイムで応じる。そのまま角を切る。仕方ない。銀を捕獲して桂馬が捕まる。
「さて。か。」
「んー。どうかね。決まってそうだけどね。確かにそっちに攻め手がないか。」
5三桂成り、同金。4四銀打つ。やらないよりはマシか。金で拾われて銀がまた上がる。繰り返してもダメか。駒が足りない。
「まだ投げちゃダメよ。」
「お前の勝ちだろ。」
金、銀、使っても端に逃げられる。防衛で駒を取れても足りないな。こりゃ。
「なんで諦めちゃうかなぁ?」
「大切じゃないから?」
「私の事も?」
手を伸ばす。触れた頭はさらりとした感触だった。
「ん。まぁ、許してあげる。」
「有難う?」
「うん。」
微笑んだ顔を髪を、午後の陽に照らされたそれを、恐らく俺は忘れないだろう。
(了)
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