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#05 祭りの日
しおりを挟む──変わる景色。
面倒臭い。其れだけだった。日々は只々過ぎるだけで、何一つ変わりはしない。其の筈だし、其れで良かった。
「ゆーちゃーん!」
真後ろから突っ込んで来るコイツが居なければ。
「ってぇっつーの。お前は力加減できないのか?」
宮間晴。適当に整えただけのショートカットに大きな瞳。ぱっと見れば子供だが、これでも立派な高校生だ。
「後、寝癖くらい直せ。」
クシでもあれば良かったが、生憎持ち合わせて居ない。仕方なく手で直してやる。
「ん。ゆーちゃんが直してくれるから。」
「俺が居なくなったらどーすんだよ、あー、動くな。」
乱れた頭の上の髪を手で流して行く。他は、良いか。其れ成りに似あっては居る。
「こんなもんか。」
「横とか大丈夫?」
「ん? 良いんじゃないか? そんなに曲がってねぇし。」
晴はそれ程クセ毛では無い。少し羨ましい。
「ゆーちゃんは今日もクセクセだね?」
「うっせぇ。」
産まれ付きだ。言っても理解しないだろうが。
「でもお母さんは羨ましいってよ? パーマ代って結構するんだって。」
「ぁー、かもな。晴は? 其の髪型で良いのか?」
一瞬だけ間が有った。
「ゆーちゃんはクセクセの方が良い?」
「否? 晴が気に入ってるなら其れが良いんじゃないか?」
また一瞬の間。どうも苦手だ。
「んじゃこれでいいや。あ。そうそう。」
晴が鞄を引っ掻き回して一枚、紙を出した。
「ほぉ、フェスか?」
「うん。障害持ちの人達が作った物買える奴。他より安いし。」
アクセサリー、置物、外ではキッチンカーが営業して居るらしい。
「良いな。知らなかった。こんなのも有るのか。」
正直な感想だ。他で買えば平気で五桁でも行きそうな物が四桁で買える。
「丁度アクセ無かったし、」
晴を見る。年代としてはピアスの一つも開けてそうだが、彼女には其の痕跡も無い。まぁ、寝癖も気にし無い様な奴だ。飾り等気にする性質では無いのだろう。
「お前にも必要だな。」
「うっ、今バカにしたよね?」
「さて?」
本音は言わない方が良い。当て擦り程度で丁度良い。
「納得いかないなぁ。」
「そうしてるからな。」
足を速める。晴が難しい顔で俺の腕を掴む。仕方ないか。暴言の代わりとしよう。
会場は見事なものだった。
「あ、あっちかき氷、あ、こっちはロングポテトだって。どっから食べる?」
「先に中見ようぜ。お前の飾りが先だ。」
晴が止った。
「んーとさ、それって、あはは、違う、よね?」
「選ぶのはお前だ。どれも。」
嘘は吐かない。意味は通らないかも知れないが、俺には嘘が吐けない。
「んじゃ、この青い奴、ゆーちゃんも好きな色だよね?」
「赤じゃなくて良いのか?」
「うん。」
そう言えば前に青が好みだと言った事があったか。晴は赤が好きだった筈だが。
「ん、うまくつかない。」
「はぁ、相変わらず不器用だな。」
しかめっ面の裏に周って妙に面倒な留め金を填める。
「ん、どう?」
何時も通りのカッターシャツにジーンズ。青いペンダントは意外な程似合って居た。
「良いんじゃないか? つーか、もうちょい格好付けろ。素材は可愛いんだから。」
「ん、そぉ? あはは、ね、外で何か食べようよ。」
外に出ると無数に並んだ人とキッチンカーが並んで居た。陽射しは強く、熱い物は喰いたくないが。
「あ、肉巻きにロングポテトだって。値段も安いよ。」
二人分でも二千に届かない。仕方ないか。
「ぱっと食うには良いか。奢ってやるよ。」
「悪いわね~。」
最初から其の心算だろう。財布を探り注文する。
「ねー、ゆーちゃんさー。」
「ん?」
また一瞬の間。いい加減慣れて来た。
「これもそれも、」
ああ、言いたい事は分かった。
「好きだからやってるだけだ。」
「ん。皆にきこえちゃってるよ?」
「良いよ。」
そもそも嫌いなら奢ったりも付き合って此の場所に居ない。
「そう、なんだ。えへへ。じゃあ、これもいいよね?」
晴が腕にしがみ付いて来た。暑いが、まぁ、良いか。未だ残って居た寝癖を直してやる。晴は、一度眼を閉じて、また開いた眼は熱っぽかった。
「程々にな。」
「やだー。」
溜め息を吐きながら肉巻きを受け取る。ロングポテトは、今から揚げるらしい。周囲の視線が痛い。けれど、悪くは無いか。音を立てて揚げらて行くポテトを眺めながら、まだ残って居た晴の寝癖を直した。
(了)
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