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あってはならないもの
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僕が持つ科学や家電の知識。エリアスが持つ魔導具製作の知識。それを合わせた結果、僕たちはエアコンらしきものを作ることに成功した。王立学園高等部二年の時のことだった。
「へえ。大したもんだな。冷風と温風を同じ魔導具から出せるのか」
ローワンが褒めてくれたものの。僕たちにはそれを量産する力も販売する経路もない。ローワンもそれを支援してはくれない。画期的な冷暖房機具が作れても、僕たちは相変わらず弱者だった。
「これが売れればな……」
エリアスがぼやくようにつぶやいた。無理もない。ローズウッド伯爵家はエリアスの廃嫡を決めていたのだ。学園卒業までが貴族でいられる期限。その後は自分で暮らしていかなきゃならない。仕事や収入が必要だった。
「他の工房に持っていくか? 職人どもに見せてみるか?」
ローワンが面白くもなさそうに言う。
「やめておけ。あんたらじゃ技術だけ盗られて終わりだ」
「でも……」
「仕事なら何か他のものを考えな。そっちの男爵家のぼっちゃんも、大した後ろ盾はないんだろう?」
「それは……そうだけど」
「こいつはばらして隠しておけ。俺も見なかったことにしてやる」
結局、そのエアコンもどきが売りに出されることはなかった。
その後もあれこれ作ってみたけれど、売れるようにはならなかった。僕たちが学生で、貴族で、非力だったから。ローワンからは「他の職人に使い潰されるか、なかったことにするか選べ」と言われた。
魔導具の技術の問題では、ローズウッド家に協力を求めても無駄だろう。ブルームハート家が支援を表明したところで何ができるというわけじゃない。僕の知識もエリアスの技術も、それを換金する手段がない。
「せめて自分たちの工房を持てればいいんだけど」
執事を雇う金にも困っている男爵家が、工房の所持なんてできるわけがなかった。
そもそも魔導具製作では、残念ながらエリアスよりも他の職人の方が優れている。むしろ必要なのは僕の知識。他の工房との協力、商業ギルドへの持ち込み……それではエリアスの自立につながらない。エリアスは僕に養われることを良しとはしないだろう。売れない魔導具を解体しながら、僕は何度もため息をついた。
***
王立学園の卒業前に、ひとつ大きな試験がある。それは魔獣討伐の実戦訓練。僕は良い。魔法が使える。けれどエリアスには魔獣と戦う術がない。そう思われていた。実際、教師からは試験の辞退を認めるとまで言われたのだ。まったく見当違いな気遣い。いや、馬鹿にされているわけだ。
「《身体強化:迅速》《身体強化:頑強》《耐衝撃》《耐熱》《耐刃》《耐毒》」
僕はありったけの補助魔法をエリアスにかけた。そして。
「大丈夫、いけるよ」
エリアスがうなずく。その手には、柄だけの剣。魔力結晶を嵌め込むと、白く光る刀身が現れる。
エリアスが作った魔導具のひとつ。僕たちはこれを『白月刀』と呼んでいる。
武器を使う貴族。それはどうしても異質な存在だ。魔法で戦うのが貴族の矜持だから。
試験用に捕らえられた魔獣を、エリアスはたやすく斬り捨てた。魔導具の使用も他の術者の補助も禁止されていない。十分な成果であり、試験は合格。ただ、同級生たちのひそひそ声と決して褒めない教師たちの態度が僕の気持ちをささくれさせる。
「気にしなくていい」
本人はそう言って背筋を伸ばす。凛々しくて、眩しいな、と僕は思った。支えたい。この人を。
「エリアス。卒業したらさ、ブルームハート家に来ない?」
「それでは君に迷惑を」
「何言ってるの。今更僕から離れるつもり?」
エリアスが言葉に詰まる。
「責任取ってよ。それだけの事、したんだから」
今朝なんて声がかすれて、寮を出る前に喉の薬が必要だったんだからな。
「そうだね……わかったよ」
エリアスがそう苦笑してうなずいた。
***
その日、僕たちはローワンの工房で過ごしていた。エリアスの白月刀を強化できないかと、設計図を広げて話し合っていた。
「遠距離攻撃ができないのが、やっぱり課題だな」
「刀身を飛ばせるようにしてみる? 消費魔力が跳ね上がるけど……」
「それだと魔力結晶では維持できなくなるだろう」
「うーん。そうだよねぇ」
エリアスが使うものなのだ。魔力の消費を抑えて、使用者の魔力量を問わずに使えるものにしなければ。
「まったく別の武器として作るか? 遠距離専門の」
「それなら僕に案がなくもないけど」
「本当に?」
魔導具作りは楽しくて。思い描いたものを形にできるのが面白くて。僕たちはいくつかの試作品を作った。より強く、より遠くまで攻撃が届くものを。気付けば夢中になっていて。そして、できてしまったのだ。『魔導銃』が。
気付いてはいた。危険なものができてしまうと。それでもエリアスの表情を見ていたら止められなくて、試射を見届け……その時ようやく怖くなった。僕はただ、わかった気になっていただけで、何も理解していなかったのだと。
ローワンが険しい顔をして言った。
「そいつは本当に使えるのか」
「試射では問題ありません。ただ、魔力結晶を直接撃ち出すことになるので、弾数が」
そう答えたエリアスの隣で、僕は内心焦っていた。
作ってしまったのは銃器だった。火薬の代わりに魔力を使う銃器だ。それは魔力がない人間にも強力な遠距離攻撃手段を与えるもので、ほとんど訓練なんてしなくても殺傷能力を持つもので。その気になればきっと……子供でも扱える。
指先が冷えていく気がした。作ってはいけなかったんじゃないのか、こんなものは。
「エリアス。それ、封印しよう」
「オリィ? どうして」
「理由はうまく説明できない。でも、それはこの世界にあってはならないものだと思う」
僕は後悔していた。今まで誰にも前世の話をしていなかったことを。
銃器を人目に晒せないのは何故か、納得させる自信がなかった。
「へえ。大したもんだな。冷風と温風を同じ魔導具から出せるのか」
ローワンが褒めてくれたものの。僕たちにはそれを量産する力も販売する経路もない。ローワンもそれを支援してはくれない。画期的な冷暖房機具が作れても、僕たちは相変わらず弱者だった。
「これが売れればな……」
エリアスがぼやくようにつぶやいた。無理もない。ローズウッド伯爵家はエリアスの廃嫡を決めていたのだ。学園卒業までが貴族でいられる期限。その後は自分で暮らしていかなきゃならない。仕事や収入が必要だった。
「他の工房に持っていくか? 職人どもに見せてみるか?」
ローワンが面白くもなさそうに言う。
「やめておけ。あんたらじゃ技術だけ盗られて終わりだ」
「でも……」
「仕事なら何か他のものを考えな。そっちの男爵家のぼっちゃんも、大した後ろ盾はないんだろう?」
「それは……そうだけど」
「こいつはばらして隠しておけ。俺も見なかったことにしてやる」
結局、そのエアコンもどきが売りに出されることはなかった。
その後もあれこれ作ってみたけれど、売れるようにはならなかった。僕たちが学生で、貴族で、非力だったから。ローワンからは「他の職人に使い潰されるか、なかったことにするか選べ」と言われた。
魔導具の技術の問題では、ローズウッド家に協力を求めても無駄だろう。ブルームハート家が支援を表明したところで何ができるというわけじゃない。僕の知識もエリアスの技術も、それを換金する手段がない。
「せめて自分たちの工房を持てればいいんだけど」
執事を雇う金にも困っている男爵家が、工房の所持なんてできるわけがなかった。
そもそも魔導具製作では、残念ながらエリアスよりも他の職人の方が優れている。むしろ必要なのは僕の知識。他の工房との協力、商業ギルドへの持ち込み……それではエリアスの自立につながらない。エリアスは僕に養われることを良しとはしないだろう。売れない魔導具を解体しながら、僕は何度もため息をついた。
***
王立学園の卒業前に、ひとつ大きな試験がある。それは魔獣討伐の実戦訓練。僕は良い。魔法が使える。けれどエリアスには魔獣と戦う術がない。そう思われていた。実際、教師からは試験の辞退を認めるとまで言われたのだ。まったく見当違いな気遣い。いや、馬鹿にされているわけだ。
「《身体強化:迅速》《身体強化:頑強》《耐衝撃》《耐熱》《耐刃》《耐毒》」
僕はありったけの補助魔法をエリアスにかけた。そして。
「大丈夫、いけるよ」
エリアスがうなずく。その手には、柄だけの剣。魔力結晶を嵌め込むと、白く光る刀身が現れる。
エリアスが作った魔導具のひとつ。僕たちはこれを『白月刀』と呼んでいる。
武器を使う貴族。それはどうしても異質な存在だ。魔法で戦うのが貴族の矜持だから。
試験用に捕らえられた魔獣を、エリアスはたやすく斬り捨てた。魔導具の使用も他の術者の補助も禁止されていない。十分な成果であり、試験は合格。ただ、同級生たちのひそひそ声と決して褒めない教師たちの態度が僕の気持ちをささくれさせる。
「気にしなくていい」
本人はそう言って背筋を伸ばす。凛々しくて、眩しいな、と僕は思った。支えたい。この人を。
「エリアス。卒業したらさ、ブルームハート家に来ない?」
「それでは君に迷惑を」
「何言ってるの。今更僕から離れるつもり?」
エリアスが言葉に詰まる。
「責任取ってよ。それだけの事、したんだから」
今朝なんて声がかすれて、寮を出る前に喉の薬が必要だったんだからな。
「そうだね……わかったよ」
エリアスがそう苦笑してうなずいた。
***
その日、僕たちはローワンの工房で過ごしていた。エリアスの白月刀を強化できないかと、設計図を広げて話し合っていた。
「遠距離攻撃ができないのが、やっぱり課題だな」
「刀身を飛ばせるようにしてみる? 消費魔力が跳ね上がるけど……」
「それだと魔力結晶では維持できなくなるだろう」
「うーん。そうだよねぇ」
エリアスが使うものなのだ。魔力の消費を抑えて、使用者の魔力量を問わずに使えるものにしなければ。
「まったく別の武器として作るか? 遠距離専門の」
「それなら僕に案がなくもないけど」
「本当に?」
魔導具作りは楽しくて。思い描いたものを形にできるのが面白くて。僕たちはいくつかの試作品を作った。より強く、より遠くまで攻撃が届くものを。気付けば夢中になっていて。そして、できてしまったのだ。『魔導銃』が。
気付いてはいた。危険なものができてしまうと。それでもエリアスの表情を見ていたら止められなくて、試射を見届け……その時ようやく怖くなった。僕はただ、わかった気になっていただけで、何も理解していなかったのだと。
ローワンが険しい顔をして言った。
「そいつは本当に使えるのか」
「試射では問題ありません。ただ、魔力結晶を直接撃ち出すことになるので、弾数が」
そう答えたエリアスの隣で、僕は内心焦っていた。
作ってしまったのは銃器だった。火薬の代わりに魔力を使う銃器だ。それは魔力がない人間にも強力な遠距離攻撃手段を与えるもので、ほとんど訓練なんてしなくても殺傷能力を持つもので。その気になればきっと……子供でも扱える。
指先が冷えていく気がした。作ってはいけなかったんじゃないのか、こんなものは。
「エリアス。それ、封印しよう」
「オリィ? どうして」
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