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禁忌の武器
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遠距離攻撃武器に対して、エリアスは未練があったらしい。ローワンは「そんなもん置いていくなよ」と魔導銃を工房で保管することを拒否した。結果、エリアスの腰には白月刀と魔導銃の両方がある。
僕は前世のことをエリアスに話すと決めた。
「僕の記憶にある世界には、魔法がなかったんだ」
エリアスは僕の言葉を黙って聞いていた。
「代わりに科学技術っていうものがあって、戦争には沢山の兵器が使われていた」
僕はそれを直接知っているわけではないけれど。
「これはその兵器の一部に似ているんだよ、とてもね」
「じゃあ、君はこの魔導銃の威力を知っていたのか」
「そうだね。だからこそ……つい作ってしまったけれど、絶対に、表には出せないと思うんだ」
僕はエリアスの顔を正面から見据えた。
「銃というのは。大した訓練もしていない子供が大人を殺せる武器だ」
エリアスは僕の前世を否定するようなことは何も言わず、しばらく何かを考えていた。
***
僕たちの卒業まで、あとひと月ほど。学園の中は卒業パーティに向けて浮足立っている。
僕はと言えば貧乏男爵家が三男のために正装を用意する金はないし、参加はしない予定だ。エリアスに至っては、卒業と同時に貴族籍からの離脱が決まっているので、パーティどころではない。
エリアスは卒業後の進路として魔導具工房への弟子入りを希望していたけれど、平民の子なら10歳ほどで工房入りする。すでに成人しているエリアスを受け入れてくれる工房が、そう簡単に決まるはずがなかった。学園は就職支援なんてしてくれない。
エリアスは結局魔導銃を手放さなかった。僕の警告が届いていないわけではないだろう。ただ、どこかに放置することをためらい、壊すのも惜しいと思っているようだった。
「君が過去を話してくれるきっかけになったものだ。それに、ここまできれいに魔術回路が描けたのは初めてなんだ」
最高傑作だと言われては、あまり強くは言いづらい。
よく晴れた日だった。
生徒たちが、卒業前の最後の実戦訓練を行う日。
試験がすでに済んでいるからか、なんとなくだらけた空気が流れていた。それを感じた教師たちが、生徒に緊張感を持たせようとしたのだろう。ほんの少し魔獣の制御が緩んだ。そのせいで。
魔獣たちの檻が、なぎ倒された。
悲鳴が上がった。
今まで授業で使われていた魔獣はすべて、自由を奪われ使役されていた。それが解き放たれて、対応できる生徒はほとんどいなかった。教師ですら。
「《結界》」
咄嗟に防壁を張れたのは我ながら上出来だろう。
「オリィ、補助!」
エリアスが白月刀を抜き放った。
「《身体強化》《耐熱》《耐火》《耐刃》《耐毒》」
可能な限り早口で、エリアスに補助魔法をかけていく。
「《風刃》」
攻撃魔法を発動した生徒がいた。ひとり、二人とそれに続く。
エリアスが駆け出した。一体目の魔獣を追い詰める。けれど、数が多い。
僕の背後には半ばパニックを起こして戦えない生徒たちがいた。僕には結界を維持することしかできない。
一体、また一体。少しずつ魔獣が倒れていく。
視界の端、植え込みの近くに動くものが見えた。
あの制服の色。
「校舎の影! 一年がいる!!」
一年生はまだ戦闘訓練が不十分だ。実戦の経験がない。魔獣を見て悲鳴も忘れ、硬直した。誰かが届く距離じゃない。
「エリアス!」
頼ってはいけない。そう思うのに。
「左だ、頼む!!」
エリアスが魔導銃を抜いた。
魔力結晶の弾丸は魔獣の頭を撃ち抜き、巨体が倒れた。
***
エリアスが魔導銃を使った時、目撃者は沢山いた。エリアスの武器が自作だということは、すでに白月刀で知られている。
「ローズウッド伯爵令息が作り出した魔導兵器は大変素晴らしい出来だとか」
これまで僕たちを落ちこぼれ扱いしていた教師が手のひらを返し、エリアスにすり寄るように言った。
「その技術。この学園の生徒として誇らしく思いますよ」
よく言えたものだ。先日までエリアスのことを学園生とは認めていなかったくせに。
「これは学園の授業で習って作ったものではありませんし……」
「いえいえ、あなたは学園の生徒なのですから」
「もうすぐ卒業する身です。平民になることも決まっています」
「お父上もきっと考え直してくださいますよ」
「ブルームハート男爵令息も魔導具製作に関わっていたそうですね」
矛先が僕にも向けられた。まったく。面倒だな。
「…………ええ、まあ」
「この魔導銃が量産できれば、ブルームハート家も安泰では?」
量産? 冗談じゃない。そんなもの全力で止めるしかないが。
「それは、僕が決めることでも、どうにかできることでもないでしょう」
僕も貴族だ。あからさまに嫌な顔をするのがマナー違反なのは理解している。
「お話し中申し訳ありませんが、僕たちは先日の戦闘の後、まだ本調子ではありません。休ませていただきたいのですが」
ただ静かに無表情で、部屋に戻りたいと告げた。
***
無言で椅子に腰を下ろしたエリアスが、工具を手にした。
「エリアス?」
怖いくらいに真剣な顔で、エリアスは魔導銃を解体していった。完膚なきまでに。一番小さな部品になるまで。さらにそれを叩き壊していく。誰にも組み立てることができないようにしているのだ。
それが、エリアスの答えだった。
邪魔をしたくなかった。音を立てることすら許されない気がして、思わず息を止めていた。
「オリィ。手伝ってくれる? 火がほしいんだ」
そう呟いて。エリアスが僕を見上げた。
差し出されたのは魔導銃の設計図。試作品も含めた、魔導銃に関わるすべての設計図だった。
僕はうなずいて、設計図に火をつけた。ちりちりと紙が縮んでいく。灰が落ち、煙が上がる。他のものに燃え移らないよう気を付けながら、僕はその紙束を全部燃やした。灰も集めてきちんと捨てて、それから。エリアスは僕を抱き寄せて、黙ってじっと動かなかった。
僕は前世のことをエリアスに話すと決めた。
「僕の記憶にある世界には、魔法がなかったんだ」
エリアスは僕の言葉を黙って聞いていた。
「代わりに科学技術っていうものがあって、戦争には沢山の兵器が使われていた」
僕はそれを直接知っているわけではないけれど。
「これはその兵器の一部に似ているんだよ、とてもね」
「じゃあ、君はこの魔導銃の威力を知っていたのか」
「そうだね。だからこそ……つい作ってしまったけれど、絶対に、表には出せないと思うんだ」
僕はエリアスの顔を正面から見据えた。
「銃というのは。大した訓練もしていない子供が大人を殺せる武器だ」
エリアスは僕の前世を否定するようなことは何も言わず、しばらく何かを考えていた。
***
僕たちの卒業まで、あとひと月ほど。学園の中は卒業パーティに向けて浮足立っている。
僕はと言えば貧乏男爵家が三男のために正装を用意する金はないし、参加はしない予定だ。エリアスに至っては、卒業と同時に貴族籍からの離脱が決まっているので、パーティどころではない。
エリアスは卒業後の進路として魔導具工房への弟子入りを希望していたけれど、平民の子なら10歳ほどで工房入りする。すでに成人しているエリアスを受け入れてくれる工房が、そう簡単に決まるはずがなかった。学園は就職支援なんてしてくれない。
エリアスは結局魔導銃を手放さなかった。僕の警告が届いていないわけではないだろう。ただ、どこかに放置することをためらい、壊すのも惜しいと思っているようだった。
「君が過去を話してくれるきっかけになったものだ。それに、ここまできれいに魔術回路が描けたのは初めてなんだ」
最高傑作だと言われては、あまり強くは言いづらい。
よく晴れた日だった。
生徒たちが、卒業前の最後の実戦訓練を行う日。
試験がすでに済んでいるからか、なんとなくだらけた空気が流れていた。それを感じた教師たちが、生徒に緊張感を持たせようとしたのだろう。ほんの少し魔獣の制御が緩んだ。そのせいで。
魔獣たちの檻が、なぎ倒された。
悲鳴が上がった。
今まで授業で使われていた魔獣はすべて、自由を奪われ使役されていた。それが解き放たれて、対応できる生徒はほとんどいなかった。教師ですら。
「《結界》」
咄嗟に防壁を張れたのは我ながら上出来だろう。
「オリィ、補助!」
エリアスが白月刀を抜き放った。
「《身体強化》《耐熱》《耐火》《耐刃》《耐毒》」
可能な限り早口で、エリアスに補助魔法をかけていく。
「《風刃》」
攻撃魔法を発動した生徒がいた。ひとり、二人とそれに続く。
エリアスが駆け出した。一体目の魔獣を追い詰める。けれど、数が多い。
僕の背後には半ばパニックを起こして戦えない生徒たちがいた。僕には結界を維持することしかできない。
一体、また一体。少しずつ魔獣が倒れていく。
視界の端、植え込みの近くに動くものが見えた。
あの制服の色。
「校舎の影! 一年がいる!!」
一年生はまだ戦闘訓練が不十分だ。実戦の経験がない。魔獣を見て悲鳴も忘れ、硬直した。誰かが届く距離じゃない。
「エリアス!」
頼ってはいけない。そう思うのに。
「左だ、頼む!!」
エリアスが魔導銃を抜いた。
魔力結晶の弾丸は魔獣の頭を撃ち抜き、巨体が倒れた。
***
エリアスが魔導銃を使った時、目撃者は沢山いた。エリアスの武器が自作だということは、すでに白月刀で知られている。
「ローズウッド伯爵令息が作り出した魔導兵器は大変素晴らしい出来だとか」
これまで僕たちを落ちこぼれ扱いしていた教師が手のひらを返し、エリアスにすり寄るように言った。
「その技術。この学園の生徒として誇らしく思いますよ」
よく言えたものだ。先日までエリアスのことを学園生とは認めていなかったくせに。
「これは学園の授業で習って作ったものではありませんし……」
「いえいえ、あなたは学園の生徒なのですから」
「もうすぐ卒業する身です。平民になることも決まっています」
「お父上もきっと考え直してくださいますよ」
「ブルームハート男爵令息も魔導具製作に関わっていたそうですね」
矛先が僕にも向けられた。まったく。面倒だな。
「…………ええ、まあ」
「この魔導銃が量産できれば、ブルームハート家も安泰では?」
量産? 冗談じゃない。そんなもの全力で止めるしかないが。
「それは、僕が決めることでも、どうにかできることでもないでしょう」
僕も貴族だ。あからさまに嫌な顔をするのがマナー違反なのは理解している。
「お話し中申し訳ありませんが、僕たちは先日の戦闘の後、まだ本調子ではありません。休ませていただきたいのですが」
ただ静かに無表情で、部屋に戻りたいと告げた。
***
無言で椅子に腰を下ろしたエリアスが、工具を手にした。
「エリアス?」
怖いくらいに真剣な顔で、エリアスは魔導銃を解体していった。完膚なきまでに。一番小さな部品になるまで。さらにそれを叩き壊していく。誰にも組み立てることができないようにしているのだ。
それが、エリアスの答えだった。
邪魔をしたくなかった。音を立てることすら許されない気がして、思わず息を止めていた。
「オリィ。手伝ってくれる? 火がほしいんだ」
そう呟いて。エリアスが僕を見上げた。
差し出されたのは魔導銃の設計図。試作品も含めた、魔導銃に関わるすべての設計図だった。
僕はうなずいて、設計図に火をつけた。ちりちりと紙が縮んでいく。灰が落ち、煙が上がる。他のものに燃え移らないよう気を付けながら、僕はその紙束を全部燃やした。灰も集めてきちんと捨てて、それから。エリアスは僕を抱き寄せて、黙ってじっと動かなかった。
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