高難易度ダンジョン配信中に寝落ちしたらリスナーに転移罠踏まされた ~最深部からお送りする脱出系ストリーマー、死ぬ気で24時間配信中~

紙風船

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第100層 灰霊宮殿 -アッシュパレス-

第12話 ラスボスと仲良くなれば配信映え

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 羽ばたいた八咫烏さんが僕の肩に留まる。

「あっ、ちょっとごめんなさい」
「うん?」
「そっちはカメラあるんで、できれば左肩に……」
「ふむ……」

 トン、と肩の上で真後ろを向いた八咫烏さんがジーっとカメラを覗き込む。そんなリスナーにサービスしなくていいんですよ。

「なるほど。私が邪魔してしまうか」
「邪魔って言うと言葉強いですけど、僕もこれで映すのが商売なので……」
「そうか。理解した。それと将三郎」
「本名はちょっと……!」

 神様パワーか何かか!? 教えてないのに! 本名バレはやめてくれ!

「だが貴様は将三郎だろう?」
「本名はまずいんですって……!」
「理解できないな。どういうことだ?」

 僕はネットリテラシーゼロの八咫烏に懇切丁寧に教えた。何故本名は駄目なのか。何故ハンドルネームを使うのか。バレた時の危険性もだ。

 何で高難易度ダンジョンの最下層で僕は安心してインターネットを使う講座をしてるんだろう……そう思いながら、時々返ってくる質問に答えながら、八咫烏さんに教える。

 説明してて思ったのだが、この八咫烏さん、現代文明の知識の吸収が早い。僕としては有難い話なのだが、まるでスポンジのようだ。全部吸収して自分の物にしていくのだ。

「なるほど、大体理解した」
「ありがとうございます……」
「貴様の説明が分かりやすかったからだ。感謝するぞ、将三郎」
「だーから本名やめてって言ってるじゃないですか!」
「貴様に将軍は似合わん。本名バレも本名バレで配信映えするだろう。リスナーとの距離感も縮まるし、住所バレまではしてない。それにコメント欄を見てみろ。これだけの視聴者数がありながら民度も良い。それはひとえに将三郎の人柄によるものだ。貴様の本名を知ったからといって悪用するような人間は多くないだろう。違うか?」
「それは……そうかもしれないですけど」

 チラ、とコメント欄を見る。僕をこの最下層に送り込んだリスナーも一部いる訳だし、信用ならないんだが……。

『悪用なんてしないよ~^^』
『八咫ちゃんの言う通り!』
『俺らは良いリスナーだからね^^』
『悪いリスナーじゃないよ^^』

 絶対悪用する顔してやがる……清々しい程に。てか八咫ちゃんって何だよ。神様に対して馴れ馴れしいぞ。

「八咫ちゃん……愛称か。悪くないな。タメ口もちゃん付けも距離感を縮めるには悪くない手法だ。お前もその敬語をやめろ、将三郎」
「くっ……わかった、わかったよ。その代わり僕も八咫って呼ぶからな!」
「いいぞ、しょうちゃん」
「そう呼んでいいのはお母さんだけだ。将三郎と呼べ!」

 何だかんだあったが、こうして八咫とも仲良くなれた……のかな。そうだといいが。


【禍津世界樹の洞 第99層 灰霊宮殿アッシュパレス 安全地帯】


 久しぶりに安地まで戻ってきた。ここからは僕がこの先生き延びる為の作戦を考えないといけない。配信映えするかなってラスボスにちょっかいを出したが、こうして今生きているのも運が良かっただけだ。

 戦闘経験も浅い僕が生きて脱出するには八咫の力がとても重要になる。

「僕はこれからこのダンジョンを出る為に上へ向かうんだけど、エレベーターとかない?」
「ある訳ないだろう。来た道を戻れ」
「それが転移罠で99層に放り込まれたから道が分からないんだよね……あ、この辺にそういうのないのか? 1層まで戻れる転移魔法陣とか、そういうの」
「あるにはあるが……良いのか?」

 左肩に留まる八咫が僕の耳元で囁いてくる。

「それを出現させる為には私を殺さないと駄目だぞ? ん? いいのか? これだけ仲良くなれた私をリスナーの前で殺せるか? お前に私を殺すなんて酷いことができるのか? ん?」
「さて、そろそろ休むかぁ。流石に疲れたし」

 元々歩いて帰るつもりだったし、今更八咫と戦うなんてありえない。ていうか勝てない。僕は壁際に寝転がり始める。

「配信はどうするんだ?」
「つけっぱなしだよ。バッテリーはまだまだ大丈夫だし、寝配信する」
「まぁ減ってきたら私の魔力で補充すれば問題ないだろう。ゆっくり休め」

 なんて便利なんだ。モンスターから得る魔力石で補充しようと思っていたが、もはやこれは無制限と言っても過言ではない。24時間配信のお供に八咫烏の時代も、そう遠くないだろう。

「んじゃあ僕は寝るんで。八咫も適当に休めよ」
「あぁ。リスナーと喋っておく」

 まぁ適当に喋ってたらその内眠くなってくるだろう。そう思いながら僕は横になる。

 極度の緊張とストレスからくる疲労のせいか、僕はあっさりと意識を手放し、夢の世界へと落ちていった。
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