高難易度ダンジョン配信中に寝落ちしたらリスナーに転移罠踏まされた ~最深部からお送りする脱出系ストリーマー、死ぬ気で24時間配信中~

紙風船

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第80層 白骨平原 -アスティアルフィールド-

第43話 色々考えることが多い旅

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 昨日とは打って変わって晴れ渡る空を見上げる。燦燦と輝く太陽の日差しがとても暖かく、こうして歩いていると【夜烏のコート】が暑苦しくなってくる。

「脱ぎたい……」
「駄目だ。いざという時どうするつもりだ?」
「ぐぅ……」

 すいーっと飛んできた八咫が僕の頭の上に留まり、コツンとつつく。それ痛いからやめろ。

 できるだけ内側にこもった熱を追い出そうとコートをバサバサと羽ばたかせながら周囲を観察する。

 やはりどこまで行っても白い草が生え続けるだけの草原だ。

 【白骨平原アスティアルフィールド】とはよく言ったものだ。足元に転がるこの骨が生きていた頃はどんな風景だったんだろうな。何か建造物はあったんだろうか。欠片も見当たらないところを見るに、全部が風化しちゃったのかな。

 歩きながら足元の骨を拾い上げ、手の中で弄ぶ。ただの骨だが、こいつは不思議なもので、薪の代わりになったりホワイトオークの武器や防具になったりする。

 となると燃えやすい物を身に付けて大丈夫かと不安になるが、特殊な加工がされると不思議な事に、まったく正反対の性質になる。つまり、燃え難くなるのだ。

 その加工というのが、この無限に生えている草を大量にすり潰して作った汁に漬けるというものだ。これのお陰で骨は武具として成り立つ。

 そうして加工した装備を身に付け、ホワイトオークはモンスターと戦い、身内同士で高め合い、強さを磨くのだとハドラーが教えてくれた。

「面白いよな」
「ここに住む者は日々考え、試行錯誤を繰り返しながら生きている。それは地上の人間も同じだな」
「彼等を知る度にますますモンスターというのが分からなくなる。彼等は本当にモンスターなのか? こうして話せていること自体が不思議だよ」

 遠くを見るように足を伸ばした八咫がそのまま飛び立ち、空中で紫炎を纏い、人の姿で降り立つ。僕の横に並び、歩幅を合わせて歩く。

「深層のモンスターは知能が発達する。高レベルなモンスター……魔人とか、魔族とか、そういうシステムは貴様の世界でもあるだろう?」
「リスナーに聞いたのか? たしかにそういうのはある。ゲームの世界だけだけどな。これまで地上にモンスターが出現したことは無くはないが、どれもが知能の低いゴブリンやコボルト、スケルトン……ゲームで言えば雑魚ばっかりだ」
「ダンジョン内のモンスター許容量を超えると排出される。このダンジョンは人気だからあんまり危ない数値になったことはないが、こういう時は大抵数の多い上層のモンスターが選択されて優先的に排出される」

 確かにいきなり地上にアイザ達が放り出されたら問題だ。アイザ達の生活も問題だし、社会的にも問題になる。

「でもアイザ達……仮に魔族と区分するけれど、そんな知能の高いモンスターは今まで生きてきて初めて存在するって知ったな」
「このダンジョンの奥深くまで人間が来たことはない。だから知られることがなかった。だが貴様の配信で世界中に知れ渡っている。ニュースにもなっているぞ?」

 スマホを取り出し、コメント欄やニュースを見てみると『知性あるモンスターの出現!? 将三郎氏の配信にて』なんて記事が上がっていた。完全に将軍というハンドルネームは忘れられていることに膝を下りそうになったが、やはりアイザ達の登場は世間を大いに賑わせているようだ。

「最近はバタバタしててスマホとカメラの充電以外で配信に触れてなかったからな……まだまだ配信者として意識が浅いな、僕も」
「せめて寝る前はリスナーと話してやれ。私の方が配信者してるぞ」
「マジでな……ごめんな、皆。いつもありがとう」

 感謝の心は忘れていない。けれどそれを口にしなければ伝わらない。配信とは配信者とリスナーが一緒に作り上げていくコンテンツなのだ。僕はそれを改めて噛み締めながらコメント欄を見る。

『いやいいよ、しょうちゃんは』
『しょうちゃんはいらない』
『八咫様とアイザちゃん映せよ』

 そう、これは配信者とリスナーが作り上げるコンテンツなのである……。

 リスナーをポケットの奥へ詰め込み、前を歩くハドラー達を見る。皆、仲良く喋りながら歩いているのが微笑ましい。

「彼等が試練を無事に乗り切った時、現長老達は解散するのかな。それとも元老的な?」
「どうだろうな。不信感も持たれているようだし、殺した方が手っ取り早いんじゃないか」
「鬼だね~」
「烏だ」

 なんてしょうもないやり取りをしているとポツリとアイザが呟いた。

「何事も無ければいいのですが……」
「何かあるかもしれない、ってこと?」
「私の推測ですけれど、ガーニッシュ殿はまだまだ力ある状態でしたし、何か対策をしてきそうな感じはあります。何を企んでるかまでは分かりませんが」
「ふむ……」

 少しガーニッシュの気持ちになって考えてみようか。

 自分はホワイトオーク族の中で最も強い。その辺の若者にも負けない力の持ち主だ。いずれは代を息子であるハドラーに譲る時は来るかもしれないが、まだその時ではないと思っている。僕があの性格だったら、まだまだ譲る気はない。

 そこへポッと出の王様がやってきた。しかも軟弱な小さい人間。力比べで負けたが、あんなのは武器の力を使った反則技だ。己の力ではない。しかも息子はあろうことか、王様を連れて試練に行ってしまった。

 あの武器の力を使われては試練なんか問題にもならない。あっという間に帰ってくるだろう。長の印を手に戻ってくる。

 試練を乗り切った者を集落の皆は称えるだろう。代替わりの時だ。

 その時、自分はどう扱われる?

 きっと、居た堪れない。

「僕なら逃げる。奴の性格なら、惨めな立場のままずっと集落の世話になるなんてできないはずだ」
「軟弱だな」
「方便は用意するさ。役目を終えはしたが、自分はまだまだ現役だ。力を付ける為、修業の旅に出る。とかね。アイザならどうする?」

 アイザは細い指で自分のあごを触りながら、しばらく考える。

「……私も逃げます」
「我が王と眷属は貧弱者か……」
「死ぬよりは生きたいですから。ダークエルフ族では首長は代替わり後、相談役というポジションに移されます。首長会議での意見出しや、悩み相談とかの助言を出す役目です。しかしホワイトオーク族は長老も幹部も総入れ替え……。相談役というポジションはなさそうです」

 僕も八咫も静かにアイザの言葉を聞いている。近い内に相談役になるだけの知識と頭の回転の速さを感じた。

「となれば立場は平です。役職もない、ただの集落民……仕事は狩りや雑用。なまじ力があるしあの性格です。口も態度も大きいでしょう。そんなストレスを抱えて生活するくらいなら、隙を突いて殺す方がまだ多くの集落民を助ける事に繋がります。なので、そうならないように退陣した後はすぐに集落を出るのが最善かと」
「まぁ大体僕と同じか……」

 やっぱあの性格じゃ皆と同じ立場で生活なんてできないよな……。だからって、殺されるくらいなら殺してやる……なんて考えに至ってなければいいが。

 なんだか小難しいことを考えていると肩が凝ってくる。ぐるぐると肩を回し、ついでに首もぐるりと回すと、視界いっぱいに晴れ渡った空が飛び込んできた。

 雲一つない空だ。どこまでも高い空が僕達の上に広がっている。そんな空を見上げて思う。ハドラーの長就任……暗雲のない結末を祈るばかりだった。
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