高難易度ダンジョン配信中に寝落ちしたらリスナーに転移罠踏まされた ~最深部からお送りする脱出系ストリーマー、死ぬ気で24時間配信中~

紙風船

文字の大きさ
55 / 81
第70層 黒刻大山脈 -クロノマウンテン-

第55話 黒刻大山脈の階層都市

しおりを挟む
 翌朝。今回はヴァネッサが転がり込んでくることもなく、普通に目覚めた。再び焚火に火を付けて軽い朝食を作って食べたあと、八咫の言っていた場所、【黒刻大山脈クロノマウンテン】へと向かう。

 7つ並ぶ階段の、入ってきた白骨平原アスティアルフィールドから時計回りに数えて4つ目の階段を登っていく。見慣れた何の変哲もない石階段を1列に並んで進む。いつもならある程度進むと次の階層の光が見えてきて、何だか神秘的な光景が見えるのだが……今回に関しては妙に暗い。

 首を傾げながら先頭を歩く僕の前に現れたのは出口……と思われる木製の両開きの扉だった。

 肩に留まる八咫は何も言わない。危険はないようだ。僕は扉の取っ手に手を掛け、ゆっくりと押し開く。

「う、おわぁ……!」

 開いた先に見えた光景は、人が行き交う街並みのど真ん中だった。


【禍津世界樹の洞 第79層 黒刻大山脈クロノマウンテン 階層都市ガルガル】


 街中にボーっと立ち尽くす僕を不審な目で見る者はいない。皆一様に地面を眺めながらボーっとした表情で、しかし足早に向いている方向へ一心不乱に歩いていた。まるで百鬼夜行RTAだ。

 町の人の姿もまた幽霊のようだ。ドワーフの住む都市と聞いていたのだが、ドワーフらしい特徴といえば蓄えた髭……というか伸び放題の髭と髪と、担いだボロボロのピッケルくらいだ。

 立ち並ぶ店は料理屋かな。細々とした煙が立ち昇るのが見えるが、良い香りは何故かしてこない。ただ、お湯を沸かしているだけのような気もしてしまって、だんだん怖くなってきた。

 僕が想像していたような筋骨隆々な逞しいドワーフはいない。見える範囲にいたのは全て、ボロボロに痩せ細った小柄なドワーフらしき人達だった。

「どういうことだろう……ドワーフってこんなんだっけ?」
「さてな。直接見るのは私も初めてだ」

 この中でドワーフに対する先入観を持ってるのは僕だけだろう。これが初見だと皆こんなもんだって思っちゃうかもしれない。でもこんなブラック会社で休みなしで働いているような死に掛けのドワーフなんて僕は信じたくない。

 きっと何かある。

 僕は行き交うドワーフの中で一番近くにいた人へ声を掛けた。

「すみません、ここで働いている方ですか?」
「……」
「できれば上司の方に会いたいのですが」
「……」

 返ってくる返事はない。ただひたすらに足早に、行進を続けていた。僕の声なんて聞こえていないのかもしれない。何がそんなに急がせるのか。

 彼等の行く先にあるのは大きな大きな、城のような邸宅が見えた。きっとあそこになら何かの手掛かりがあるだろう。これ見よがしにあんな建物があったら行かない訳にはいかない。

 灰色に青を混ぜたような色の屋根を重ね合わせたような造りの屋敷は、大きな門と、そこから生えた塀がどこまでも続いていた。一定の速度で排出されるドワーフと、一定の速度で飲み込まれていくドワーフ。行列の行き着く先はやはりここだった。

 蛇行する石畳を進み、辿り着いた入口は開け放たれていて、今もドワーフらしき方々が出入りを続けている。セキュリティ概念がまったくないのは、それを気にする意味がないからだろうか。こんなにやつれた人達が強盗を働けるようには見えない。

 彼等の行軍の邪魔をしないように隙間を縫いながら屋敷内へと侵入する。中は豪奢なシャンデリアがぶらさがるエントランスだ。左右に伸びた通路にはきめ細かく、ふわふわな赤い絨毯が敷かれている。

 しかしドワーフらしき方々はそれを踏まず、絨毯の横の床を歩いていた。よく見ればその両サイドだけが擦れている。何度もここを行き来したのだろう。絨毯は傷一つ、汚れ一つないというのに。

「あんまりいい気はしないですね」
「だな」

 このあからさまな対比がとても気持ち悪い。苛立ちすら覚えた。だからこそ、僕は敢えてこの染み一つ無い絨毯を踏みつけながら、奥へと進んだ。

 廊下を警戒しながら進むが、僕達に害をなそうとする者は一人もいない。監視の為か、開け放たれたままの扉の向こうでは大量の書類に何かを書き込む事務作業をするドワーフ達が見える。互いに会話をすることもなく、黙々と机の上の書類だけを見ながらせっせと作業を繰り返していた。

 見ているだけで気がおかしくなりそうだった。

 完全にブラック会社だった。ここのドワーフ達は誰かに働かされ、自由のない労働の枷に囚われている。それはまるでこのダンジョンに来る前の自分自身を見ているようだった。

「将三郎さん、あの扉だけ閉まっています」
「十中八九、あそこだろうな」

 廊下の先の行き止まりには大きな両開きの扉が堅く閉ざされていた。他の扉だけは全開になっているのに、ここだけはぴっちりと閉じている。やましいことがあるからに違いないと、普段ならあまり人を疑おうとしない僕だったが、ここに至るまでを見ていたらそう考えてしまう。
 きっと誰だってそうだ。アイザは鋭い目で扉を睨んでいるし、ヴァネッサは指の骨をバキリと鳴らす。八咫は鳥状態で表情は分からないが、短い付き合いでもない。怒気はしっかりと伝わってきた。

 歩きながら僕は腰に下げた【王剣スクナヒコナ】を抜く。八咫の加護を刃に乗せ、扉の前で振り上げた剣を一直線に振り下ろす。

 それだけで扉は何度も切られたかのように、バラバラになって吹き飛んだ。

 そんな芸当、できる訳がないのは僕が一番知っている。どうせ鍵掛けてるだろうからそれを切ってから開けようと思っていただけなのに……。
 ふと刃を見ると、何か揺らぎ・・・のようなものが見えた気がする。それを詳しく調べたかったが、当然、僕以上に異常事態に慌てふためいている者がいた。

「な、な、な……何者だ貴様ら!?」

 声の主は巨大なベッドの上にいた。ここに来るまでに見たドワーフとは違い、大きな体をした人物だ。だがそれは筋肉ではなく、贅肉。見るからに太り散らかした不摂生の塊が、空っぽのカップを僕に投げつけながら逃げようともがいていた。

 その周りには一糸纏わぬ虚ろな目をした女性が数人。彼女らもまた痩せ細ってはいたが、社畜ドワーフよりかはまだマシだ。嫌な奴だ。見た目の為だけに最低限、食わせているのだろう。

「何者だと聞いているんだ! 答えたらどうなんだ!?」
「お前こそ何者だ? ここで何をしている?」
「はぁ!?」

 僕としてはこいつが何なのか本当のところは分かっていない。状況の流れ的に外のドワーフを働かせている元締めだと踏んでここまで来たが、はっきりとは理解していない。

「わ、ワシを知らずに襲っているのか!?」
「まだ襲っちゃいない。で、誰なんだ。早く答えないと……」

 スクナの切っ先を向けると男は大慌てで自己紹介を始めた。

「ワシはっ、階層都市ガルガル市長、ドブルだ!」
「へぇ、ドブルさん。よろしく」
「そういう貴様は、何者だ!?」
「僕か? 僕は……」

 肩に留まっていた八咫が飛び立つ。僕の頭上で紫炎を纏い、その三本の足をドブルに見せつけた。

「八咫烏の使徒であり、禍津世界樹の王、月ヶ瀬将三郎だよ。改めて、よろしく」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

素材ガチャで【合成マスター】スキルを獲得したので、世界最強の探索者を目指します。

名無し
ファンタジー
学園『ホライズン』でいじめられっ子の生徒、G級探索者の白石優也。いつものように不良たちに虐げられていたが、勇気を出してやり返すことに成功する。その勢いで、近隣に出没したモンスター討伐に立候補した優也。その選択が彼の運命を大きく変えていくことになるのであった。

ハズレスキル【地図化(マッピング)】で追放された俺、実は未踏破ダンジョンの隠し通路やギミックを全て見通せる世界で唯一の『攻略神』でした

夏見ナイ
ファンタジー
勇者パーティの荷物持ちだったユキナガは、戦闘に役立たない【地図化】スキルを理由に「無能」と罵られ、追放された。 しかし、孤独の中で己のスキルと向き合った彼は、その真価に覚醒する。彼の脳内に広がるのは、モンスター、トラップ、隠し通路に至るまで、ダンジョンの全てを完璧に映し出す三次元マップだった。これは最強の『攻略神』の眼だ――。 彼はその圧倒的な情報力を武器に、同じく不遇なスキルを持つ仲間たちの才能を見出し、不可能と言われたダンジョンを次々と制覇していく。知略と分析で全てを先読みし、完璧な指示で仲間を導く『指揮官』の成り上がり譚。 一方、彼を失った勇者パーティは迷走を始める……。爽快なダンジョン攻略とカタルシス溢れる英雄譚が、今、始まる!

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

処理中です...