高難易度ダンジョン配信中に寝落ちしたらリスナーに転移罠踏まされた ~最深部からお送りする脱出系ストリーマー、死ぬ気で24時間配信中~

紙風船

文字の大きさ
65 / 81
第60層 悪辣湖沼地帯 -シニスター-

第65話 悪辣湖沼地帯

しおりを挟む
 螺旋階段を下りながら八咫から次の階層の説明を受けた。

 これから向かう【悪辣湖沼地帯シニスター】と呼ばれる場所は、毒と争いにまみれた場所だ。湖沼地帯と呼ばれるように、大小様々な湖や池、沼が散在している。だがそれらは全て毒の成分によって汚染されている。毒の水。毒草。毒花。瘴気。そこに住むモンスターさえ、毒に侵されながら生きている。
 その毒の水を吸って育っているのが【禍津世界樹】。これらの毒の除去は不可能だそうだ。

 そして争いという部分は、先程の説明に出た毒に侵されながら生きているモンスター達が縄張りを主張する為に争い合っているらしい。リザードマン。ゴブリン。オーガ。アンデッド。他にも様々な種のモンスター達が群雄割拠に身を投じている。

 巨大な根の麓に広がる劇物戦国時代。それがシニスター湖沼地帯という訳だ。

 長く続いた螺旋階段も終わりが見えた。何の変哲もない扉の向こうは70層の安全地帯。そこで少しの休憩をとってから、僕達もまた、群雄割拠の渦中に身を投じることになるのだった。


【禍津世界樹の洞 第69層 悪辣湖沼地帯シニスター 猛毒湖アルカロイド】


 安全地帯から抜けた先に広がるのは毒々しい光景だった。湖が蒸発し、毒の成分で構成された紫色の雲や霧が漂う世界だ。その雲の向こうには巨大な木の根が見える。嘘みたいなサイズで、山と言われても納得できるレベルだ。背景として同化しすぎているくらいに馬鹿げたサイズの根が足を伸ばし、シニスター湖沼地帯へと広がっている。

 八咫と僕は自前の……と言っても僕は八咫から貰った物だが、仮面を着用しているお陰で呼吸は問題ない。アイザとヴァネッサにも僕と同じ物を渡してある。デザインは少々簡素だが。

「凄いな……」
「これ飛んだら死にそうだ~」

 空を見上げたヴァネッサが溜息を吐く。巨鳥サイズの仮面もないし、飛べば秒で毒が回って死ぬだろうな……。ガルガルは階層都市という一つの場所で世界が構築されていたからヴァネッサの背に乗って移動ということはなかった。狩りでは助かったが、それはまた別として……次の階層ではラストハルピュイアの力で一気に抜けられたらなーなんて考えていたことが無駄になってしまった。楽したい一心でヴァネッサを死なせる訳にもいかない。

 階段を登りきり、雑草を踏む。なんだか久しぶりの感覚に少し心が躍ったが、この草もまた毒草かと思うと心が病みそうになる。

「これらの毒草は薬にもなる。一概に悪という訳でもないのだ」
「毒薬変じて薬となる、か。それに毒薬は毒薬で使い道もあるしな」
「そういう訳だ」

 とはいえ、あんまりいい気はしないので、できるだけ踏まないように気を付けながら先へ進む。

 僕達が出てきた場所は足の低い草がまばらに生えた草地だ。草に影を差す低木。茂み。遠くに見える湖。空に浮かぶ雲。そして空。その何もかもが毒々しい濃淡様々な紫色や黒色で構成されている。この階層を出た後の青空を思うと今から目が染みてくる錯覚に陥るくらいに、紫だった。

 頭を振って意識を入れ替える。八咫はここを戦場と言った。ならば、ここはもう安全ではないということだ。これまでのように観光気分で歩いていたら一瞬であの世行きになる。

「皆、油断はするな。いつ襲われても不思議じゃ……!?」

 剣に手を掛け、皆に注意を促している途中、気が付くとその剣を抜いて振り返っていた。途端に響く金属音。王剣スクナヒコナの刃が鈍く光る紫色の短剣を受け止めていた。その持ち主は黒衣で全身を覆っていて体格や性別は分からない。ただ、布と布の隙間から覗いた目は驚愕で見開かれていた。

「何者だ!」
「うりゃあ!!」

 アイザが短剣を引き抜くよりも早く、ヴァネッサの拳が黒衣の者の脇腹に刺さった。バットで打たれたボールのように弾かれた刺客は地面と平行に吹っ飛び、何度か地面を跳ねてからゴロゴロと転がり、ようやく止まる。気付けば先程見た湖の近くまで吹っ飛ばされていた。正直生きてるか怪しいが、正体を確認しない訳にはいかないので急いで現場へと向かう。

 大急ぎで向かった先に転がっていた人物は気絶しているようでピクリとも動かない。殴られ、吹き飛ばされ、転がされたせいで顔を覆っていた布も剥がれ、その素顔があらわになっている。石か何かで切ったのか、胸元も破れて豊かな谷間も覗いている。女性だった。

 そして驚くことにこの女性、エルフだった。髪の隙間から見える特徴的な尖った耳は、紛れもなくエルフだ。それも肌が浅黒い、ダークエルフだ。ただし髪色は紫色でアイザとは少し違うようだ。

「私と同じ、ですね……」
「……の割には襲ってきたな。危ないようならこっちも考えなきゃいけないぞ」
「できれば穏便にお願いします」

 アイザも目の前で同族を殺されたくないのだろう。味方ではない、今のところ敵であるダークエルフの為に僕に頭を下げている。そうまでされて今がチャンスだと剣を振り下ろすことは僕にはできなかった。

「それは僕もそうしたいよ。まぁ恐らくこの辺りを支配してる部族の者だろうから、集落でも探してみるか」
「ありがとうございます、将三郎さん」
「僕も問答無用で殺しというのはあんまり気が進まないからね。でもその代わり危険そうなものは没収するから、アイザが集めて持ってきて」

 意識のない女性の体を弄るのは流石に気が引けた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

素材ガチャで【合成マスター】スキルを獲得したので、世界最強の探索者を目指します。

名無し
ファンタジー
学園『ホライズン』でいじめられっ子の生徒、G級探索者の白石優也。いつものように不良たちに虐げられていたが、勇気を出してやり返すことに成功する。その勢いで、近隣に出没したモンスター討伐に立候補した優也。その選択が彼の運命を大きく変えていくことになるのであった。

ハズレスキル【地図化(マッピング)】で追放された俺、実は未踏破ダンジョンの隠し通路やギミックを全て見通せる世界で唯一の『攻略神』でした

夏見ナイ
ファンタジー
勇者パーティの荷物持ちだったユキナガは、戦闘に役立たない【地図化】スキルを理由に「無能」と罵られ、追放された。 しかし、孤独の中で己のスキルと向き合った彼は、その真価に覚醒する。彼の脳内に広がるのは、モンスター、トラップ、隠し通路に至るまで、ダンジョンの全てを完璧に映し出す三次元マップだった。これは最強の『攻略神』の眼だ――。 彼はその圧倒的な情報力を武器に、同じく不遇なスキルを持つ仲間たちの才能を見出し、不可能と言われたダンジョンを次々と制覇していく。知略と分析で全てを先読みし、完璧な指示で仲間を導く『指揮官』の成り上がり譚。 一方、彼を失った勇者パーティは迷走を始める……。爽快なダンジョン攻略とカタルシス溢れる英雄譚が、今、始まる!

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

処理中です...