高難易度ダンジョン配信中に寝落ちしたらリスナーに転移罠踏まされた ~最深部からお送りする脱出系ストリーマー、死ぬ気で24時間配信中~

紙風船

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第70層 黒刻大山脈 -クロノマウンテン-

第64話 新たな場所へ

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 食と酒に溺れながらもギリギリで息継ぎをしながら過ごした時戻し祭は終わり、日が昇った次の日の朝。ここ数日では見られなかった濃い霧に包まれたガルガルを窓越しに見ながら朝の支度を済ませた僕は部屋に置いていた私物を片付ける。

「こんなもんでいいか」

 ある程度、見える範囲での掃除も済ませ、部屋を後にする。各種、体にくっつけた装備のベルトの具合なんかを確かめながら廊下を歩き、階段を下ると既に3人のパーティーメンバーが集まっていた。

「遅い」
「すまん。部屋の掃除もしてたから」
「じゃあ全員集まったことだし、行きましょうか」
「しゅっぱつ~!」

 宿の外はまだまだ霧に包まれている。見上げた空には白く丸い太陽が浮かんでいる。視線を下へ向けると、昨日とは打って変わって仕事着に着替えたドワーフ達が手入れのされたつるはしを手に雑談を交わしながら歩いていた。初めて来た時とは大違いの光景に、思わず胸の奥が熱くなった。あの時はゾンビの集団が行軍しているようにしか見えなかったのに、今は筋骨隆々の男たちが、仕事をしたくてしたくてたまらないといった様子で楽しげに笑い合っているのだ。

 そんな行軍の間を縫い、一際大きなシルエットがこちらへ向かってきた。

「やぁ、そろそろかと思って」
「ジーモン」

 ガルガルの市長、ジーモンだった。市長自らも働くのか、手には使い込まれたつるはしが握られている。

「仕事はいいのか?」
「これも仕事さ。現場を見て、自分も動く。我が王と同じくな」
「そっか。働き過ぎないようにな」

  なんだか照れ臭くて、少し素っ気なくなってしまった。申し訳ない気持ちでジーモンを見るが、全部見透かされたようにニヤニヤと、嬉しくも気持ち悪い笑みを浮かべていた。こうなってしまうと僕も笑うしかなくなってしまう。

「近い内にまた来る。それまでダンジョンにしっかり貢献しておくように。皆のことも、頼んだぞ」
「御意! ではな、我が王よ!」

 つるはしを肩に担ぎ、踵を返したジーモンは人ごみから頭一つ出しながら霧の中に消えていった。完全に姿が見えなくなるまで見送った僕は深く長い息を吐き、皆に出発を促した。

「行くか」
「はい」
「出発~」

 昨日、八咫と共に下りた螺旋階段へ向かい、中へ入る。ぐるぐると窓の向こうを眺めながら下り、2番街へ。更に下層、3番街へ続く階段はずっと階段が続いている。なので2番街へは向かわず、そのまま階段を下り続けた。窓の外の景色はあまり変わらない。ただ、階層ごとの広さは目に見えて変わっていた。下るごとに霧も薄くなり、広がる家屋の数はどんどん増えていく。この殆どが住居のようで、時々階段を慌てて駆け上がっていくドワーフ達とすれ違った。昨日、騒ぎ過ぎて寝坊した者達だろう。僕にいっぱい頭を下げていたが、頑張ってと応援して送り出してあげた。

 73層、7番街からは町の様子が少し変わった。家屋の数が極端に減り、建物自体の大きさが倍以上になっていた。以前、休暇中にジーモンから聞いていたが、ここから71層まではずっと倉庫街だ。流石に倉庫街に住む人はいないようで、人とすれ違うこともなくなった。

 末広がりの街の構造上、下層に向かう程にどんどん町は広くなっていく。9番街は1番街の約8倍程の広さになるらしい。広大なので人が多く住めるかもしれないが、1番街からは1番遠くなる。鉱山の入口は1番街にあるしな。だからある程度の層を住宅街にし、下層は倉庫街としたそうだ。層分けして倉庫街の方が数が少なかったとしても、広さは倉庫街の方が勝る。採掘した鉱石だけではなく、食料といった生活必需品もこちらに格納されている。それもドブルのお陰で底をつきかけていたが、これからは狩猟担当のドワーフ達の働きでゆっくりではあるが補充されていくだろう。

「構造上、ダンジョンへの侵入者は最初に倉庫街に現れるのですよね。それってまずくないですか?」
「そうだな……階層間の移動が可能になったら灰燼兵団から何人か置いて見回りをさせるか」
「それがいいな。敵対するのであれば殺してしまっていいだろう」

 僕としては生活に関わる物だから奪わないでほしいし、できれば穏便に済ませたいが八咫は殲滅担当だから言葉も強い。まぁしょうがない部分はあるか……僕も心を鬼にして守るべき者を間違えないようにしなければならない。

 今後の、未来の話だが、単なる探索であれば入場料を払えば探索は許可しようとは思っている。何か悪さをすれば灰燼兵団に対処させるつもりだ。
 怖いだろうな。例えば50番台で悪さを働いたら90番台に常駐してるモンスターが現れるのだから。僕だったら裸足で駈け出すが、当然追いつかれるだろう。捕まったら灰霊宮殿アッシュパレスの監獄へと送られ、罪状によっては装備の没収などを考えている。その後は懲役として黒刻大山脈で採掘労働だ。その際の拾得物はまぁ、あげてもいいだろう。半分だけな。

「すぐに殺してたら、それこそ僕らが殺されるからな。できるだけ穏便に。度が過ぎてる奴は殺してもいいよ」
「その時はヴァネちゃんがやるぜ!」
「あぁ、頼むぞ」

 ここは不思議なダンジョンだ。ダンジョンの中に世界がある。国がある。人が住んでいる。生活している。文化的な暮らしをしているのであれば、それはもう人だ。

 僕は人々を守る為に王に選ばれたのかもしれないな……。王のいない、無防備なこの世界を守る為に、運命的な出会いをしたのかもしれない。

 まぁ、そんなことはなくても、僕はここを守りたい。僕なんかの為にいっぱい良くしてくれた人たちを見捨てるなんてことは、人としてできることじゃない。

「次の階層が楽しみだ。八咫、次はどんな場所なんだ?」
「そうだな……色々考えてはいたが、そろそろ治安も悪くなってくる。ここらで一度、最悪の場所を訪れてみるのもいいかもしれない」
「それはちょっと怖いな……どんな場所なんだ?」

 肩に留まる八咫が嘴を開き、クククと笑う。目を細め、吐く言葉はまるで僕達を脅すような、そんな言葉だった。

「このダンジョンが【禍津世界樹】と呼ばれる原因。禍津世界樹の根元……災厄の根。毒と死の淀み。腐毒溢れる最終戦場、【悪辣湖沼地帯シニスター】。それが次に向かう場所だ」
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