猫被りも程々に。

ぬい

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May

03

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目が覚めると知らない天井。
少し身じろぐと身体少し軋んで、いつも寝ているベッドではないことにそこでやっと気が付くとと同時に昨日の地獄絵図が頭に浮かんだ。

「俺、今日ここで死ぬんだっけ」
「死ぬなら自分の部屋で死んでくれる?」

朝っぱらから鋭いツッコミが頭の上の方から聞こえて、身体を起こすとコーヒーを飲みながらスマホをいじる会長が何故か制服を着ていた。

「おはようございます。何やってるんですか?」
「ゲームのログインボーナス。それと朝は職員室に用事あるから行ってくる」

なるほど、生徒会長も大変なんだな。
台所で勝手にコーヒーを注ぎながら、へえとから返事すると特に反応もなく。
とうとう部屋で好き勝手にしても言われなくなるくらい馴染んでしまったらしい。

「じゃあ、昼前までには戻ってくるから。後はよろしく」
「はい、いってらっしゃい」

爽やかに出ていく会長を適当に見送るとコーヒーを飲んだ後のコップを洗った後、テレビをつけてソファーに座った。

(…勉強でもするか)

時刻はまだ朝の7時で、特にやることもないのでとりあえず勉強をして時間を潰す。
というかそもそも勉強しにここに来てるわけだし。

近くにあった数学の問題集を開くと昨日の地獄がフラッシュバックして寒気がしたので、鞄から日本史と世界史の教科書を取り出す。

漢字やらカタカナやらとにらめっこしているうちにいつの間にか余裕で2時間経っていた。


「…コーヒー飲も」

休憩がてらにとコーヒーメーカーのスイッチを押して、テレビをつけてニュースを見ていると部屋のチャイムが鳴った。

丁度11時前で、あー会長が帰ってきたんだなと勉強疲れした頭で考えたが、ソファーから立ちあがった瞬間気付く。

(いや、会長ならカードキー持ってるじゃん)

となれば6階フロアにいる生徒会の誰かなのはほぼ間違いない。
テレビを消して、そっとドアのスコープを覗くと金髪の髪の毛を元気よく揺れているのが確認できた。

なるほど。噂の会計か。

久我春樹くがはるき
俺と同じ2年生で関西弁で書記と喧嘩しているのをよく見かける。
顔は生徒会に入るだけあって少し少年ぽさはあるが整っていて、もちろん親衛隊もいるらしいがそこまで過激派ではないという話を聞いたことがある。見守りたい派が多いだとか何とか。

そして生徒会長曰く生徒会のト〇とジェ〇ーのト〇の方である。多分。

「会長!早急に聞きたいことあるんやけど!おーい!おらんの?」

余程急ぎの用事なのか、すっごい勢いでチャイムを連打している。
これってかなり周りの部屋の人に迷惑じゃないのか。

予想した通り、スコープでは見えないところで我慢できなかったらしい書記が「うっさいわね!そんなにチャイム鳴らしても出ないんだから居ないのよ!」とキレ気味に叫んでいる声が聞こえた。

「しゃーない、お前でええわ」
「…なによ、くだらない事だったらぶっ飛ばすわよ」
「この服、ピンクと黄色どっちがいいと思う?」

うっわめっちゃくだんねー。

思わずドア越しで引いてしまった程のくだらなさに本気で今の無駄な時間を返して欲しい。

「今ネットで服見てたんやけど、俺的には黄色かなーって」
「じゃあ、黄色でいいんじゃない?」
「そんな適当な答え嫌や!やっぱりピンクの方がええかな!?」

すごい形相で食いつく久我に書記も面倒臭そうに答えているがそれが逆効果の様でピンクだの黄色だの言い合いが暫く続く。

いつこの言い合いが終わるんだとうんざりしてきた頃、エレベーターで誰かがこのフロアに降りる音がした。

「あ、会長」
「あれ?2人でまた大騒ぎしてたの?」

時刻は昼前ということもあり、丁度会長が2人の言い合い途中にご帰宅してしまったらしい。

本来の目的であった会長に出会えて嬉しいのか「会長はこの服の黄色とピンクどっちがいいと思います!?」と嬉しそうに訊ねると少し間が空けて悩む素振りを見せながら答えた。

「んー、…黄色かな。久我に似合いそうだし」
「ですよね!?流石会長やわー」

普段の彼ならどっちでもいいんじゃない?とか言いそうだが、そこは流石長年の猫被り技術。
久我の納得出来る答えを導き出す。

あっという間に言い合いが終了し、「久石が可哀想だから程々にしといてあげなよ」と一言言うだけでト〇とジェ〇ーは各部屋に戻っていった。

「ただいま」
「おかえりなさい。お疲れ様です」
「あいつらうるさかったでしょ」

いや、うるさいとかそういうレベルじゃなかったです、生徒会長様。

「会長って天才ですね」
「…あんなので感心されても嬉しくないな」

食堂で弁当適当に貰ってきたからと机の上に広げた。
中身は唐揚げらしく、朝から何も食べていないお腹の虫が騒ぎ出す。

冷蔵庫からお茶を用意してコップにそそぎ、両手を合わせて口に運んだ。
うん、安定の美味しさである。

「日曜日も教えてあげたいところだけど、日曜日は用事あるんだよね」
「いいですよ、結構教えて貰いましたし」

大抵の分からない箇所は解決したし、自分で勉強すればそれなりの点数はとれるだろう。

「まあ、テスト準備期間の3日間は放課後は暇だから、教えられると思うけどどうする?」
「え、じゃあ、俺大体図書室で勉強してると思うんで、会長の都合がいい時連絡してくれたらそっち行きます」

「分かった。おそらく下校時刻までバタバタしてるだろうから、6時以降に連絡する」

昼食が終わった後、今後の勉強会はそんな話で決着し、午後からの勉強会は夕方でお開きになったのであった。
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