猫被りも程々に。

ぬい

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March

合格発表

あれから1週間程経ち、俺は一足先に合格発表があった要先輩の合格祝いを冴木としたり、土日に実家に帰って誕生日を祝って貰ったりとなんだかんだ忙しい日々を送っていた。

そしてある日の昼休み。突然久我先輩から[大学受かったで]というメッセージと共に変なスタンプが送られてきたことで今日が合格発表の日なんだと言うことを思い出す。

(…会長から全然連絡ないんですけど)

放課後まで一切なんの連絡も無し。
どうせ合格しているだろうし今日は金曜日だったのでこの後会うだろうと思い、俺も連絡したりはせず、委員会を終えるといつも通り会長の部屋に向かった。

「おかえり」
「…何してるんですか」
「暇だから面倒臭い料理でも作ろうかと思って」

部屋に入ると会長が台所で手袋をつけてボウルに入った挽肉やらニラやらキャベツやらを混ぜている。ボウルの隣に置いてある皮の存在で餃子なのだと察した。

随分と余裕そうな姿に合否を聞くのもやめて、制服から部屋着に着替えると手を洗ってリビングに戻った。その頃には中身の具の入ったボールと皮がテーブルに並んでいる。

「湊も手伝ってよ」
「…包むの下手ですけどいいですか」
「いいよ」

大人しく席に座って、皮を手に取る。実家で何回か手伝った経験はあるので包み方は分かるが、上手く出来た試しがない。だから自分から手伝う気にはならなかったのだが言われたからには仕方ないととりあえず皮が破れないように慎重に包んだ。

暫く母によく馬鹿にされたこと思い出しながら作業を続けていると台所に立って他の作業をしていた会長が俺の隣に座った。

「うわほんとに下手。しかも遅」
「うるさいな」

母と同じように笑いながら茶々を入れた後、包み始める。そのスピードは工場かと思うくらいめっちゃ早いし、上手い。あっという間に作っていた数を抜かされ、綺麗な形の餃子が並んでいく。

(俺が手伝う必要なかったんじゃ…)

寧ろ足でまといだったのではという気すらしてきたが、ここでやめるのも気が引けたので渋々手を動かした。

ほぼ隣の人のお陰で数分後には全部餃子を包み終え、片付けをしている最中。
洗い物をする俺の横で焼く準備をしていた会長が「そういえば大学合格したよ」とサラッと流れるように言った。

「おめでとうございます」
「反応薄いな」
「落ちるとか考えてなかったですし」

結果なんて部屋に訪れていた時から分かっていた。というかこの人が落ちるなんて天地がひっくり返っても有り得ないと思っていた。

結果を聞いてここに来る前にケーキでも買って来ればよかったなんて後悔をしながら、鞄の中に入ったままの白紙の進路希望調査票を思い浮かべる。自分もいよいよ受験生になってしまうのかと思うと物凄く憂鬱になってきた。

「…俺も受験生か」
「そろそろ進路希望調査票提出だっけ?」
「そうなんですよ。月曜提出で…」

会長は餃子の入ったフライパンに蓋をして「見せて」と手を出してくる。俺は洗い物を一旦中断し、鞄から何も書いてない進路希望調査票を出すと大人しくその手に渡した。

「白紙じゃん」
「まだ色々迷ってる途中なんでこの土日に埋めようかと」
「へー」

用紙を眺めている人を横に蛇口を上にあげて、泡にまみれたボウルを水で洗い流す。渡したついでに進路相談でもするかと話を続けた。


「S大にしようと思ってたんですけど、担任からはやっぱりT大勧められててって……あーーーー!!!」


ふと隣に視線を移すと会長が進路希望調査票に何か書き込んでいて、慌てて洗い物をやめ、濡れた手をタオルで拭いた。

「なななな、何してるんですか!?」
「代わりに書いてあげた」

書き終えた紙を渡され、確認すると第1希望の欄にはT大の文字。文系の学部まで勝手に選択されている。しかもボールペンで書かれていて消えそうもない。

確かに担任に強く勧められてT大にするか悩んではいた。でも通学の問題があったのでこの土日に母に相談しようと思っていた最中で、問題も解決してないまま書かれてしまった第1希望欄に思わず頭を悩ませる。

「卒業したら一緒に住もうよ」
「へ……」

フライパンをひっくり返しながら言った会長の言葉は俺のそんな悩み全てが吹き飛ぶもので、突然過ぎて頭がついていかない。一瞬沈黙が続き、ようやく言葉を絞り出すことが出来たのはテーブルに餃子が置かれた頃だった。

「ほ、本気…ですか…」
「本気。てかもう怜子さんには話したし、引越し先も先のこと考えて決めちゃった」

母が喜んで了承していた話と晃さんが引越し先を選んでくれた話をされて余計に混乱した。とりあえずご飯の支度をしながら頭の中を一生懸命整理する。

話によると家賃は向こう持ち。母は当初半分払うと言っていたらしいが、電話で晃さんに色々説得され、丸め込まれてしまったらしい。
会長が春から住むという話を聞く限り家具や家電も向こうが揃えてくれるということで俺は本当に荷物持って転がり込むだけ。いくら金持ちとはいえそこまで甘えてしまっていいのだろうか。

暫くぐるぐると悩んでいると不意に会長の指が俺の前髪を撫でた。

「…嫌だった?」
「そんな訳ないでしょう。俺だって住みたいですよ」
「そう。良かった」

食い気味にそう答えるとオッケーと見なしたのか会長は撫でるのをやめて嬉しそうに微笑んだ。その表情を見たらもう何も言えない。こんなの卑怯だろ。

少し赤くなりかけた顔を誤魔化すように前髪をおさえて、席に着く。目の前には美味しそうな晩御飯が並んでいた。

いただきます、と早速餃子から食べ進める。作って貰った料理は当然餃子から中華サラダまでどれも美味しい。いつものように味の感想を言ってから暫くは黙って食事を続けた。

「ここから引越し先までどれくらいなんですか」
「電車だと1時間くらいかな。車だと30分くらい」

引越し先は大学から徒歩で15分程度の場所にあるらしい。すぐ近くにしなかったのは溜まり場にされたくなかったからだろう。学園からの行き方を携帯で調べると会長の言う通り1時間程。運賃はどうやっても往復で1000円はかかる。

毎週末会おうとなると難しそうだなと思っていると会長が見透かしたように口を開いた。

「なるべく迎えに行くからそういうの気にしなくていいんじゃない?」
「迎えって誰が」
「俺以外誰がいるの」

立ち上がって食べ終わった食器を下げる姿に思わず箸が止まる。迎えに来る手段なんて車以外ない筈だ。

「…会長って免許持ってましたっけ」
「最近取った」

夏休み辺りから土日等を使って教習所に通っていたという話を聞いて開いた口が塞がらない。相変わらず秘密主義な会長に色々言いたいことはあったが、俺はぐっと堪えて残り一つの餃子を箸で摘んで口入れる。

立ち上がって食器を下げてからは洗い物をして、お風呂に入り、夜にはやる事やって、いつもの通りの金曜日を過ごした。

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