猫被りも程々に。

ぬい

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2nd:Spring

03

3月が過ぎて、4月。
三月の最後の週辺りから実家に帰省していた俺はのんびりとした日々を過ごしていた。引っ越しやら卒業旅行でバタバタとしていた会長とは1週間くらい顔を合わせていなかったが、今日はどうやら実家まで顔を出しに来るらしい。

ソファーに寝転びながら本をペラペラと捲っているとリビングにチャイムが鳴り響く。その音を聞くなり、愛梨と母さんはウキウキと扉から出ていった。

「凌くんいらっしゃい~!迷わなかった?」
「なんとか」
「パパ今日泊まる!?」
「学校で忙しいから今日は泊まらないんだって」
「えーーー!」

扉越しに微かに漏れる会話に耳を傾け、リビングに入ってきた母さんはなにやらフランス語の書かれたお土産らしき紙袋を持っていた。愛梨は可愛い雑貨を持っている。恐らく卒業旅行のお土産なんだろう。

一週間ぶりに見た会長は特に変わらず、寝転んでいた俺の足を巻き込むようにしてソファーに腰掛けた。「足踏んでます」と注意しても退ける気はなく、手に持っていた紙袋を黙って渡される。

「なんですかこれ」
「要からだって」

中を覗くとオシャレなパッケージで包まれている海外のお菓子が見えた。すぐに会長と2人で行った旅行のお土産だということが分かり、早速携帯を開いてお礼のメッセージを打ち込む。
打ち終えると要先輩とのトーク画面に映し出されている写真を見た会長が尋ねた。

「それ卒業旅行の写真?」
「はい。色々送ってきてくれました」
「へー、よく撮れてるな」
「会長、全然送ってくれなかったですよね」
「人に送る習慣ないから忘れてた」

要先輩とは違い、会長からのメッセージは飛行機に乗った以降全く音沙汰無し。次に連絡が来たのは帰国後で3日に俺の実家に来るという報告だった。

踏まれていた足を抜いて、寝転んでいた身体を起こして座る体勢に変わるとランドセルを背負った愛梨がニコニコでやってきた。

「パパ見て!あいりのランドセル!」
「ランドセル水色なんだ。愛梨ちゃんによく似合ってて可愛いね」
「あとね、これが筆箱でー、これがお道具箱!」

愛梨はランドセルの中身を広げて、1つずつ紹介していく。会長は時折質問を混ぜながら、その話に耳を傾けていた。

そうしているとあっという間に時間が過ぎ、夕方頃に父が帰宅してきていつもより少し豪華な晩御飯がテーブルに並ぶ。それらも食べ終わり、帰る時間となった。

「凌くん、湊の事よろしくね」
「はい。また来ますね」
「パパまたねー!」

帰り際に母さんがこれから色々お世話になるからと晃さん用に地元で有名な老舗のお土産を手渡す。

そして別れの挨拶を済ませた後、駅にある駐車場までキャリーケースを転がしながら歩いた。目的地に着いて、会長が精算機で支払いをしている間、俺は並んでいる車を眺める。暗くて見えにくいが、いかにも高級そうな黒い車が止まっているのが確認できた。

(絶対これだ…)

1月に晃さんを迎えに来た車が似たような感じだった気がする。案の定、会長が向かったのは俺が予想していた通り黒い高級車だった。

「晃さんからのプレゼントですか」
「うん。免許とった祝いだって」

車のエンブレムを確認する限り、きっと外車だろう。免許とったお祝いて外車がプレゼントされる辺り、やはり金持ちは違う様だ。

後ろに荷物を乗せ、左側の扉に手をかけて助手席に乗り込んだ。左ハンドルなのかと思ったが、そこは国内向けになっているらしい。実家の車と違ってめちゃくちゃ綺麗で高そうな内装に緊張しながらもシートベルトを閉める。

運転席に乗った会長はエンジンを掛けてからシートベルトを閉めるなり、真顔で口を開いた。

「実は人乗せるの初めてなんだよね」
「…乗って早々怖いこと言わないでくださいよ」

そう言われたので発車して暫くはシートベルトを握りしめる。だが恐怖心があったのも最初の10分間だけ。
なんというかつまらないくらい普通ですっかり恐怖心は消え去っていた。乗り心地が良くて眠気すら襲ってくる。

「…普通に上手いですね、運転」
「そう?」
「なんかムカつきます」

特に事故もなく安全に辿り着いた駐車場を降り、見えたマンションは想像していたよりは普通。
タワーマンションだったらどうしようかと思っていたので安心しながら、キャリーケースを転がしてエントランスに入った。中はオートロック式で鍵をかざすと自動ドアが開く。エレベーターの前にはソファーと机、観葉植物なんかも置いてあった。

エレベーターに乗り込んで、5階のボタンを押す。廊下を歩いて502号室と書かれたプレートの前で立ち止まった会長は鍵を回して扉を開けた。

「…本当に一人暮らしの家ですかこれ」

お邪魔しますと入ってすぐ、一人暮らしにしては広すぎる部屋が目の前に広がり、思わずそんな言葉が出た。相変わらず室内は物が少なく、綺麗に纏まっている。

寮の時は備え付けのものが多かったので、ソファー等の家具も一新されていてなんだか落ち着かない。俺はキャリーケースを抱えたまま、立ち尽くす。

「ていうかもう引越しの片付け終わったんですね」
「荷物少なかったから。家具家電も来た時から置いてあったし」

車といい、家具家電といい、ウキウキで用意する晃さんの様子が目に浮かんだ。台所に置いてある一人暮らしにしては大きすぎる冷蔵庫を見つめていると「部屋余ってるから荷物置いていっていいよ」と言われて、空いていた部屋に荷物を運ぶ。

とりあえず今日明日着る服を取り出して、整理している最中。後ろから足音がしたかと思いきや、背中に重いものが伸し掛った。匂いから会長に抱き締められたことが分かる。

「…重いです」
「いいじゃん」

会長は俺の首元に手を回して頬を掴むと顔を自分の方に向けるように抑えた。そのまま唇を重ねられて、舌を絡め取れられる。腰に回っている会長の手を握ると口付けは一層深くなった。

「…ん…っ…」

何度もくっつけては離して、唾液が顎に伝う。
お風呂が沸いた音楽が鳴った頃にはお互い息は絶え絶え。吐息は熱帯びていた。

「お風呂一緒に入る?」
「…入る」 

髪を優しく撫でた後、立ち上がって洗面所に向かった。俺も後を追いかける様に持ってきた服を持って立ち上がる。

勿論久々に会ったのでお風呂だけで終わる訳もなく、逆上せそうになるまで行為を繰り返し、朝、身体の痛みで目を覚ますことになったのは言うまでもない。

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