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第二章 役立たず付与魔術師、【嫉妬の大罪】レヴィアタンを討伐する
第一八話「ほら見ろ。ざまあねえや。おかげで可能性が、ゼロじゃなくなった」
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まだ、討伐隊が返ってこない。
その知らせを聞いたとき、俺は、ああ、死んだな、と思った。経験則からすれば、強敵の討伐のために迷宮に向かって、一週間以上帰ってこなかったやつはほとんど死んでいた。人は普通に死ぬ。どれだけ強かろうが例外はない。
(掲示板も見てみたけど、明るい報告はなさそうだった。やっぱり司馬先生もモモも死んでしまったと考えるのが妥当か……)
ふと考える。こういうとき、俺は冒険者を続ける意味が分からなくなる。
油断すれば命を落としかねない危険な仕事だし、日々の収入だって決して安定しているわけではない。怪我をしたり熱病に罹ったら半月は無収入で過ごさないといけない、なんてこともざらにある。幸せな引退にならないことも多く、大事な人を失ったり、一生つきまとう障害を抱えることも珍しくない。
司馬先生とモモは――英雄十傑の皆は、俺の数少ない友人だった。
英雄十傑として肩を並べたときも、そこから徐々に俺が実力で突き放されても、とうとうリーダーをアズに譲ったあとでも、変わらず十傑の皆は、友人のままであった。
それこそ、俺が所属チームを追放されるその瞬間であっても。
友情の終わりは、別に喧嘩だけとは限らない。
冒険者なんて稼業を続けていれば、それは尚の事である。
(助けに行ってももう遅い)
ああ、やっちまったな、という感情がほんの少しだけ心に芽生える。
おかしい。何がやっちまっただ。何も俺はやってない。
考えるのも馬鹿馬鹿しい仮定。考慮に値しない想像。助けに行かないと決めていたのだから、あえて済んだことを掘り返すような無駄なことなんて考えなくていい。
事実は変わらない。
助けに行ってももう遅い。
「……ミロク?」
「ん、ああ、すまん。考え事だ……何でもないさ」
無駄な仮定だ。今までずっと高い魂の器頼りだった、中身の伴わないバッファが一人助太刀に向かったとしても、足を引っ張っていただけだ。何度も経験してきたことだ、それは身に沁みてわかる。
たとえ今の俺が、その時よりもずっと強くなっていたとしても変わらないだろう。
コンビネーションの練習も全くなしに、ぶっつけ本番で手助けする? できるはずがないだろう?
更に言えば、モモたちのチームは世界屈指のバッファ軍団。役割の被る俺が同じことをやったところで何になる?
「……さあ、買い出しだったな。足りなくなってきた調味料とか、服とか、色々と買おうか……」
「……ミロク、貴方、どんな顔してるかお分かりかしら?」
「え、ハンサムだろ?」
「心ここにあらず、って顔ですわ」
そんなことを言うなよ、と俺は思った。図星だと思った。
肺の中に溜息が渦巻いているような気分だ。今吐き出す空気は全部溜息になりそうだってぐらいに胸が重い。
「……俺たちは、全部忘れて、まったり優雅なスローライフを送るんだろ?」
「お好きになさいまし。別に義務じゃないんですもの」
「……」
そりゃそうだ。好きにすればいいのだ。
ただ、何をどう考えても合理的な結論は変わらない。もやもやするものはあるが、期待値を計算したら答えは自明だ。
「……残念だったよ。俺の友だちだった。いい奴らだった」
「……行かないんですの?」
「理性的に判断しないと駄目なんだ。気持ちが落ち着かない、もやもやする、だから行く、なんて感情任せじゃ、いずれ死ぬ。そうやって死んでいった奴は山ほど見た。
いわば、本人も気付かないうちに破れかぶれになってんだよ。俺は何度も考えた、だけどこのもやもやが収まらない、だから助けに行く――みたいな考えは、甘ったれてるし、何も考えずに感情に流されただけだ。
事実のみ抜き出して考えるとこうだ。敵は相当強い。あいつらは一週間帰ってこない。じゃあもう、手遅れなんだよ」
「……背中を押してほしいのか、未練を断ち切ってほしいのか、はっきりしなさいな」
「……おいおい、甘やかしてくれるんじゃなかったの?」
「私、貴方のママじゃありませんわよ」
うへえ。
心ここにあらずって状態の俺にも優しくしてくれないんだよなあ、こいつ。
かと言って、英雄譚とか小説とかによくありがちな、お説教をかましてくるわけでもなし。おかげさまで、却って感情の逃げ道がなくなった。
「……あー、すまんな。辛気臭い顔をして悪かった。俺は平気さ、大丈夫だとも。ちょっとショックだったけど、まあ、いつか受け止められる」
口と心が別々になったような感覚。
ちぐはぐで収まりの悪さばかりが胸に募る。
ざまぁみろ、俺。
そして、そんなときに限ってやかましい声が飛び込んでくるのだ。俺はとことん間が悪い。
「――どなたか、助けてください! 今、あの塔の中で、モモが一人で戦ってます! 我々を逃がすために、彼女が、一人でっ」
ほら見ろ。ざまあねえや。
おかげで可能性が、ゼロじゃなくなった。
その知らせを聞いたとき、俺は、ああ、死んだな、と思った。経験則からすれば、強敵の討伐のために迷宮に向かって、一週間以上帰ってこなかったやつはほとんど死んでいた。人は普通に死ぬ。どれだけ強かろうが例外はない。
(掲示板も見てみたけど、明るい報告はなさそうだった。やっぱり司馬先生もモモも死んでしまったと考えるのが妥当か……)
ふと考える。こういうとき、俺は冒険者を続ける意味が分からなくなる。
油断すれば命を落としかねない危険な仕事だし、日々の収入だって決して安定しているわけではない。怪我をしたり熱病に罹ったら半月は無収入で過ごさないといけない、なんてこともざらにある。幸せな引退にならないことも多く、大事な人を失ったり、一生つきまとう障害を抱えることも珍しくない。
司馬先生とモモは――英雄十傑の皆は、俺の数少ない友人だった。
英雄十傑として肩を並べたときも、そこから徐々に俺が実力で突き放されても、とうとうリーダーをアズに譲ったあとでも、変わらず十傑の皆は、友人のままであった。
それこそ、俺が所属チームを追放されるその瞬間であっても。
友情の終わりは、別に喧嘩だけとは限らない。
冒険者なんて稼業を続けていれば、それは尚の事である。
(助けに行ってももう遅い)
ああ、やっちまったな、という感情がほんの少しだけ心に芽生える。
おかしい。何がやっちまっただ。何も俺はやってない。
考えるのも馬鹿馬鹿しい仮定。考慮に値しない想像。助けに行かないと決めていたのだから、あえて済んだことを掘り返すような無駄なことなんて考えなくていい。
事実は変わらない。
助けに行ってももう遅い。
「……ミロク?」
「ん、ああ、すまん。考え事だ……何でもないさ」
無駄な仮定だ。今までずっと高い魂の器頼りだった、中身の伴わないバッファが一人助太刀に向かったとしても、足を引っ張っていただけだ。何度も経験してきたことだ、それは身に沁みてわかる。
たとえ今の俺が、その時よりもずっと強くなっていたとしても変わらないだろう。
コンビネーションの練習も全くなしに、ぶっつけ本番で手助けする? できるはずがないだろう?
更に言えば、モモたちのチームは世界屈指のバッファ軍団。役割の被る俺が同じことをやったところで何になる?
「……さあ、買い出しだったな。足りなくなってきた調味料とか、服とか、色々と買おうか……」
「……ミロク、貴方、どんな顔してるかお分かりかしら?」
「え、ハンサムだろ?」
「心ここにあらず、って顔ですわ」
そんなことを言うなよ、と俺は思った。図星だと思った。
肺の中に溜息が渦巻いているような気分だ。今吐き出す空気は全部溜息になりそうだってぐらいに胸が重い。
「……俺たちは、全部忘れて、まったり優雅なスローライフを送るんだろ?」
「お好きになさいまし。別に義務じゃないんですもの」
「……」
そりゃそうだ。好きにすればいいのだ。
ただ、何をどう考えても合理的な結論は変わらない。もやもやするものはあるが、期待値を計算したら答えは自明だ。
「……残念だったよ。俺の友だちだった。いい奴らだった」
「……行かないんですの?」
「理性的に判断しないと駄目なんだ。気持ちが落ち着かない、もやもやする、だから行く、なんて感情任せじゃ、いずれ死ぬ。そうやって死んでいった奴は山ほど見た。
いわば、本人も気付かないうちに破れかぶれになってんだよ。俺は何度も考えた、だけどこのもやもやが収まらない、だから助けに行く――みたいな考えは、甘ったれてるし、何も考えずに感情に流されただけだ。
事実のみ抜き出して考えるとこうだ。敵は相当強い。あいつらは一週間帰ってこない。じゃあもう、手遅れなんだよ」
「……背中を押してほしいのか、未練を断ち切ってほしいのか、はっきりしなさいな」
「……おいおい、甘やかしてくれるんじゃなかったの?」
「私、貴方のママじゃありませんわよ」
うへえ。
心ここにあらずって状態の俺にも優しくしてくれないんだよなあ、こいつ。
かと言って、英雄譚とか小説とかによくありがちな、お説教をかましてくるわけでもなし。おかげさまで、却って感情の逃げ道がなくなった。
「……あー、すまんな。辛気臭い顔をして悪かった。俺は平気さ、大丈夫だとも。ちょっとショックだったけど、まあ、いつか受け止められる」
口と心が別々になったような感覚。
ちぐはぐで収まりの悪さばかりが胸に募る。
ざまぁみろ、俺。
そして、そんなときに限ってやかましい声が飛び込んでくるのだ。俺はとことん間が悪い。
「――どなたか、助けてください! 今、あの塔の中で、モモが一人で戦ってます! 我々を逃がすために、彼女が、一人でっ」
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