光の翼

シリウス

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第2章 飛躍の翼

旅路の幕開け

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「…ここが、魔界なのか?」
一面青紫色の奇妙な道を抜けた先で最初に抱いたのは、戸惑いだった。
背後の樹王が根差しているのが山ではなく小高い丘になっており、周囲にあった無数の樹木も姿を消してはいるが、差異らしい差異はその程度。
空は元いた人間界と同じく闇夜あんやを示しており、月や星は西へと動く。大気の組成も似通っていると見え、呼吸に支障もない。足元の花々もタンポポやスミレなど、春先にはありふれた品種のみ。
魔の世界と名が付く割には、美しくも平凡に過ぎる光景である。
「本当に、こンな所にカオス=エメラルドがあるのかよ?」
「無論だ。彼の宝石は、元々この魔界で作り出された代物。先日までの様に、人間界で破片を目にする事の方が、驚嘆するべき話なのだ。」
樹王の洞を最後に通過した霞が告げる。
「…あ。そう言えば、人間界に欠片が残ってたりしねぇのか?」
「それは懸念と見て良い。情報屋を営む知人の調べでは、人間界に流れた破片は僅か3個だということだったのでな。」
「3個…あの青い邪鬼イヴィルオーガが持ってたのと、霞が持ってたのと…。」
「海園中に来た邪鬼イヴィルオーガが持ってたやつか。確かに計算合ってるけど…その情報屋っての、信用して良いのか?」
「うむ。魔界屈指の腕前と評判の男だ。」
「へえ、魔界屈指ね~。んじゃ、そいつに色々聞いてみるとしますか~。」
「…道理だが、奴を当てにする気ならば、覚悟が要るぞ。」
「え?その情報屋さんって、危ない人なの?」
「危険…そうだな…。」
霞が明確に苦い表情となり、これまでになく言葉に迷う。
いたずらに危害を加えて来る訳では無いが…異なる種類の危険があると表現すれば、的確だろうか…何しろ、奇怪な男なのでな…。」
「…真っ昼間から学校も行かねぇで木刀ぶら下げてうろついてる奴に奇怪呼ばわりされるってのも、大概だな…。」
「…無礼な奴め。」
「だが、言えてるゼ。」
「そこは同感。」
「貴様等!!」
天城や氷華の同意を引き金に、声を荒げて木刀を抜く。
「わっ、ごめんなさい!」
「…すまん。悪ふざけが過ぎたな。」
「あア。思っても、言うべきじゃなかッたゼ。」
「…可能ならば、腹に秘めるのも遠慮願いたいものだがな…。」
3人で揃って謝罪すると、霞は愚痴りながらも得物をしまった。





「ところで、霞さん。先程仰った情報屋の方は、どちらにいらっしゃるのでしょうか?」
「情報屋はファラームという街にいるが、徒歩で向かうと時間がかかる。奴を訪ねる気ならば、まずはこの坂を下りて直進した先にある村…ソミュティーに立ち寄ると良い。村の長に話を通せば、地下の鉄道を利用できる。」
「あ。でも、お金は?ボクたちのお金、こっちで使えるの?一応、持てるだけ持っては来たけど…。」
「問題ない。魔界中の何処でも、人間界の通貨が流通している。付言すれば、ソミュティーの鉄道は無料で乗車が可能だ。」
「おオ!気前の良い村があるモンだな!」
「けど、地下鉄乗るより、俺や兄貴でお前等を飛ばす方が速―」
「ヤダよ!あんなのされたら、心臓ひっくり返っちゃうもん!」
「ああ、そう…。」
空路を封じられ、溜息を吐いた。
斯くも強く忌避されては、不便であろうとも地道に歩くしかない。
「…僕は当面の間、失礼する。」
「何だ、一緒に来ねぇのか。」
「故あって、僕の他に店を管理できる者がいないのでな。」
「…そうか。」
淡々とした一言を、兄は重く、静かに受け止めた。
「では、吉報を期待しているぞ。」
「ありがとうございます、霞さん。色々とお世話になりました。」
「ホント、助かったよ!」
魅月さんと氷華の謝辞に送られながら、霞は景色に溶けるようにして、姿を消した。





「それじゃ早速、ソミュティーって村に行ってみようか。」
「だな。」
ひとまずの離別もそこそこに、歩を進める。
「魔界の村かぁ…!どんな人たちが住んでるんだろ!こっちの地下鉄って、やっぱり人間界のとは全然ちがうのかな!」
「どうなんだろうな…ま、百聞は一見に如かずだし、行けば分かるだろ。」
「む~、ロマンないリアクションだなぁ。未知のボウケンだって、ワクワクしないの?」
「しねぇ事はねぇけど…カオス=エメラルドの事がでかいから、旅行気分じゃねぇって言うか…。」
「同感だな。これから生きるか死ぬかのケンカやらかそうッてンだゼ。ロマンだとか、浮かれた科白抜かしてる場合じゃねエだろうよ。」
「…いや、それは…まあ、そうだけどさ…。」
理屈を否定はできないが、心底から納得はできない。
そんな不満が露わな、氷華の面持ちだった。
「まあまあ、クー坊~。そうピリピリすんなって~。マジになるのは、やべえのとやり合う時だけで良いでしょうよ~。」
「何を呑気な…。」
「駆君。ここは、紅炎を見習っとくのもありだと思うよ。」
呆れて反論しようとした天城を遮ったのは、兄だった。
「真剣にやるのは大事だけど、メリハリってやつを付けないと、だれるからね。」
「そうですね。折角、魔界という異郷の土地まで足を運んで来たのです。楽しい時間は素直に味わっておかないと、損ですよ。」
「…まア、そいつも一理あるか。」
3人がかりで諭されると、天城は苦い微笑と共に肩の力を抜いた。
「じゃ、クー坊。お前さん、ソミュティーって村で気になってる事とかねえの?」
「例えば?」
「そうだな~。可愛い娘が何人いるかとか、メシに誘える娘は何人かとか…。」
「女関係ばッかりじゃねエか!」
「紅さんってば相変わらず…あ。でも、ムダにムネの大きい女が何人いるかは、ちょっと気になるかも。」
「テメエもかよ!」
危険が絶えない道程の幕開けだと言うのに、宛ら近場への散歩に来ているかの如くお気楽。
「…大丈夫か、こいつら…。」
「何、心配ないさ。皆、やる時はやる奴だからな。」
「おお。あんたが言うと説得力が違う。」
「…まあ、褒め言葉と思っておくよ。」
緊張感の無い会話を重ねながら、ソミュティーなる村を目指した。
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