光の翼

シリウス

文字の大きさ
20 / 47
第2章 飛躍の翼

平穏の村1

しおりを挟む
「拙者、ソミュティーの警護役を仰せつかるシュオルド=フィルカースと申す。お主ら、何用でこのような時間に訪れた?」
円形の外周に竹垣を配した集落の入り口で、金髪碧眼の青年に問い掛けられる。
容貌や身にまとう純白の鎧は典型的な騎士と言った絵面だが、左腰に備え付けた得物は紛れもなく、日本刀。
和洋折衷と評するには少々西洋の色合いが濃いものの、さりとて不釣り合いとも感じさせない、妙な趣を醸し出していた。
「夜分に失礼致します。ファラームという街を目指しておりまして、こちらにある電車を利用させて頂きたく、伺ったのですが…。」
「村長さんに伝えねえと、乗せてくれねえんだろ?会わせてもらえねえかな~。」
シュオルドと名乗った青年は俺達をひとしきり凝視し、考え込む。
「…ふむ…忌み子とは関わりがなさそうだが…。」
「イミコ…?何、それ?」
「む?災厄の刃クラディースの頭目を知らぬのか?」
「そんな変なの、聞いた事もねぇぞ。ついさっき人間界から来たばっかだし。」
「…そうか。その言葉が真実ならば、招き入れても支障はないな。」
刀の柄に密着させていた右手を、シュオルドは緩やかに引き離す。
[ただし念の為、監視役として拙者が同行する。」
「何でエ、まだ疑ってンのか?」
「警護役が万一の事態を誘発しては、村長や住人達に詫びようが無いのでな。その代わりと言っては何だが、同意できるならば拙者が村長の元へ案内しよう。如何致す?」
「良いよ。それで頼む。」
兄の即答で、話はまとまった。










「うわぁ…すっごい広さだね…!」
白川郷を連想させる藁作りの家屋が並び立ち、中心に田畑を擁する景色は、辺境の地に似つかわしい。
だが、学校のグラウンドよりも幾分広い敷地は、『村』という呼び名から想像した面積との開きが大きく、目を丸くしてしまう。
「おっ、客か!?」
「えー、ホント!?久しぶりじゃーん!」
「ねえねえ、一緒にご飯食べない!?」
住民達の反応も、新鮮だった。
酒を酌み交わしながら遠巻きに眺める者も、近寄って来て遠慮なく観察する者も、殆どが凡庸な人間の姿をしている。
ところが、外見からすぐさま変異種と知れる俺や天城を気味悪がる節がない。
「彼らはファラームへ向かう道中だ。誘いは控えられよ。」
「え、そうなの?」
「なんだ…がっかり…。」
むしろ、宴会へ引き込もうとしてはシュオルドに遠慮を促され、失意を露わに力なく去って行く者ばかりだった。
「魔界って、変異種に抵抗ねえのかね~。…いや、この村だけかな?」
「…ヘンイシュ、とは?」
「あ、こっちじゃそんな風に呼ばれないのか?人間界だと、魄能があったり…。」
言葉を一時止めた兄が、上着の内部へ押し込めていた純白の翼を広げる。
「…この羽みたいに、人間に無い物がある奴の事を変異種って言っててさ。まあ、色々と肩身が狭いんだ。それがいい加減嫌なんで、カオス=エメラルド探しにこっちに来てね。」
「…成程…。」
シュオルドは重々しく呟き、二三にさん浅く首肯する。
「…伝えておくべきか…。」
「伝えておく?何を、どなたに伝えるおつもりなのでしょうか?」
「…いや、済まぬ。大した話ではない。それより、村長の住まいに着いたぞ。」
「お?…あら~…ご立派だな~…。」
紅炎さんをはじめ、皆が静かに感嘆の息を漏らした。
他の住宅と同じ材質なのは素朴、ともすれば手抜きや貧相にすら映る。
ただ、2階建てとなっており、小規模ながら庭も備えているのはいずれも村内唯一であり、首長の生活基盤と聞けば納得できるだけの威厳は十分に示されていた。





「あれ?シュオルドさん、その人たちは…?」





耳慣れぬ声に振り向くと、1人の少女が視界に現れた。
赤いノースリーブシャツの上に白いエプロン、薄い桃色のロングヘア、成人しつつあるようであどけなさも残る面立ち、そして両手に食材や台所用品の詰まったビニール袋を提げている点は、ありふれたもの。
ところが、腰から下には脚ではなく、鱗で覆われた紅い尻尾が伸びている。
人間の上半身と蛇の下半身を併せ持ったその全体像は、ギリシャ神話においてラミアと称される怪物に酷似していた。
「ここに来たってことは、村長にご用事かな?」
「うむ。ファラーム行きの電車を利用したいそうだ。」
「そっか、村に遊びに来てくれたわけじゃないんだね…久しぶりに大歓迎しなくちゃかと思ったんだけど…。」
俺達にとってソミュティーが通過点に過ぎないと知り、少女は落胆を隠さなかった。
「…えッと。アンタ、誰?」
「あっ。私、メイアって言うの。村長のお家で、家政婦をしてるんだ。」
「へえ~、メイアちゃんね~。顔も可愛いけど、名前も可愛いな~。」
「えっ!?や、やだなあ…!私、そんなにかわいくなんて…!」
紅炎さんに軽々しく持ち上げられ、メイアなる少女は頬を赤らめて口元を押さえ、右手を団扇の様に振るう。
花も恥じらう容姿の割に反応が中年臭いのは、実年齢は結構な物なのか、それとも所帯染みた仕事をしている影響か。
「しかし、君と言い他の人達と言い、オープンな村だね。」
「それはもう!私たち、村を襲うようなヒドい相手じゃなければ来る人拒まず、がモットーだもん!」
「…人間界より、良い村かもな。」





「おや…人間界からのお客さんにお褒めを頂けるとは、光栄ですね。」





懐の大きさに敬意と少々の羨望を抱いて独り言ちたところ、村長の家の扉が開く。





「我が村も、多少は自慢できる土地になった…という事ですかな。」





顔を見せたのは、濃い緑色の和服を着込んだ老人であった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば
ファンタジー
剣があって、魔法があって、けれども機械はない世界。妖魔族、俗に言う魔族と人間族の、原因は最早誰にもわからない、終わらない小競り合いに、いつからあらわれたのかは皆わからないが、一旦の終止符をねじ込んだ聖女様と、それを守る5人の英雄様。 それが約50年前。 聖女様はそれから2回代替わりをし、数年前に3回目の代替わりをしたばかりで、英雄様は数え切れないぐらい替わってる。 英雄の座は常に5つで、基本的にどこから英雄を選ぶかは決まってる。 俺は、なんとしても、聖女様のすぐ隣に居たい。 でも…英雄は5人もいらないな。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

【悲報】現代ダンジョン時代、俺の職業がLv.1チンピラ【詰み】

道雪ちゃん
ファンタジー
2024年の年末、世界中に突如ダンジョンが出現した。 大学生・三上ひよりも探索者になることを決意するが、与えられた職業は――世界で一人しかいないユニーク職「Lv.1チンピラ」。 周囲からは笑われ、初期スキルもほとんど役に立たない。 それでも、生き残るためにはダンジョンに挑むしかない。 これは、ネット住民と世界におもちゃにされながらも、真面目に生き抜く青年の物語。 ※基本的にスレッド形式がメインです

異世界ハズレモノ英雄譚〜無能ステータスと言われた俺が、ざまぁ見せつけながらのし上がっていくってよ!〜

mitsuzoエンターテインメンツ
ファンタジー
【週三日(月・水・金)投稿 基本12:00〜14:00】 異世界にクラスメートと共に召喚された瑛二。 『ハズレモノ』という聞いたこともない称号を得るが、その低スペックなステータスを見て、皆からハズレ称号とバカにされ、それどころか邪魔者扱いされ殺されそうに⋯⋯。 しかし、実は『超チートな称号』であることがわかった瑛二は、そこから自分をバカにした者や殺そうとした者に対して、圧倒的な力を隠しつつ、ざまぁを展開していく。 そして、そのざまぁは図らずも人類の命運を握るまでのものへと発展していくことに⋯⋯。

一流冒険者トウマの道草旅譚

黒蓬
ファンタジー
主人公のトウマは世界の各地を旅しながら、旅先で依頼をこなす冒険者。 しかし、彼には旅先で気になるものを見つけると寄らずにはいられない道草癖があった。 そんな寄り道優先の自由気ままなトウマの旅は、今日も新たな出会いと波乱を連れてくる。

処理中です...