光の翼

シリウス

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第2章 飛躍の翼

希望の街の情報屋1

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午後8時に辿り着いたファラームは、大都会だった。
龍をかたどった噴水が特徴的な中心街。食事処や娯楽施設や雑貨屋等の幅広い業種が軒を連ねる商店街。家屋が林立する住民街。そしてまつりごとの拠点を擁する城下町と4つの区域に分かれており、只管に広大。
『村』と呼ばれながら狭さとは程遠かったあのソミュティーさえ、矮小な田舎町に映ってしまうまでの繁栄振りを示している。
街の規模に似つかわしい数の住民達は、凡庸な人間と全く変わらぬ容貌の者もいれば角や尻尾等を有する獣の如き者もありと様々だったが、話しかけた際の反応は概して穏やかで、聞き込みの相手には困らない。
目当ての家は、物の10分で発見できた。
「…えっと…マジで、ここかな?」
「…ええ。はっきり書かれてありますから、間違いないでしょう…。」
紅炎や麗奈をはじめ、『魔界一男の色気に溢れるティグラーブ様の情報屋』と書かれた表札を見つめる仲間達の瞳は暗い。
洋館風の住居本体だけでも大概だが、庭園の植物までもを金色に塗装してのける変人に関わらなければならないとあっては、道理な反応であろう。
「…なるほどな。霧雨のヤローに奇怪呼ばわりされるワケだゼ。」
「いくらなんでもあんまりでしょ、これ…。」
駆君や氷華君が大いに気味悪がる中、黄金の呼び鈴を押下した。
「おい!?何しとんじゃ馬鹿兄貴!」
「こっちの台詞だよ。ここまで来て、ボケッと突っ立ってても仕方ないだろ。」
軽快だが味気無い機械音が途切れると、逞しそうな男性の声がした。
―はい、どちら様?
「あの、情報屋のティグラーブさんはいらっしゃいますか?」
―ああ、客?ちょっと待ってやがりなさいね。
横柄かつ珍妙な口調に一層の不安を覚えてから程なくして、玄関の扉は開かれた。





「はい、どうもー。おいどんが魔界一の情報屋、ティグラーブ=ラクタード様よ。」





追い求めた名を口にしながら顔を見せたのは、正に変質者だった。





否、橙色のアフロヘアーと星型のサングラスはまだ、『奇抜』の範囲内で済む。





だが赤いボクサーパンツ一丁という、筋肉質な上半身を惜しげもなく晒す格好で屋外に現れたのには、恐れ入るしかない。





金メッキの邸宅が何の変哲もない建物に思えてしまう程、常軌を逸していた。





「…何よ、テメーら。呼び出しといて、ボーッとしてやがるんじゃねーわよ。」
如何なる覚悟も完膚なきまでに粉砕する男が、不機嫌にこぼす。
「…あんたが呼び付けた変態だ。きちんと相手しろよ。」
「賛成~。」
「誰がヘンタイよ、このアホ共!」
「…えっと…本当に、お前が情報屋…?」
「そう名乗ってやったでしょうが!言っとくけど、偽者とかじゃねーわよ!」
「ああ、そう…じゃ、カオス=エメラルドのある場所訊きたいんだけど、知ってるかな…。」
何かの間違いであってくれとの苦しい願望も断たれ、気持ち悪さを堪えながら問うと。
「あら、丁度良かったんじゃねーかしら?まだ他の客に買われてねーとっておきのネタが、3つあるわよ。」
「わっ、ラッキー!いくらで売ってくれるの?」
「1つ10万円で。」
懐から召喚された桃色の財布が、氷華君の足元に墜落した。
「あらま、キツイ値段だな~…。」
「かもね。けど、これでも今一番の特ダネとしちゃ叩き売りもいいところだから、もっと負けてやるってのは無理よ。」
「…皆、金はどの位あったかな?」
全員の所持金を合算したところ、約45万円あった。
これなら30万円の情報料を支払っても、無一文にはならない。
「金が足りてるなら、後はテメーら次第ね。どうしやがるの?」
だが、軽々しく踏み出せる買い物ではなかった。
旅人は何かと物入りの身。後先考えずに金を使っていては、たちまち素寒貧すかんぴんになってしまう。
「…ティグラーブ。情報料って、どうしても金じゃないと駄目か?違う物で料金代わり、って訳には…。」
「ああ、考えてやらねーでもねーわよ?今あるネタの1つも、捜し人の目撃情報くれてやる代わりって事で、知り合いから聞いたモンだしね。」
素気すげ無く一蹴されるのを覚悟で切り出した交渉に、ティグラーブは存外寛容だった。
「でも、何をよこしやがるかが問題ね。金以外となると、ちょっとやそっとの物でOKって訳にはいかねーわ。」
「…その御言葉は、『少々の物』でなければ間違いなく応じてくださる、と受け取ってよろしいでしょうか?」
「へ?…あ、ええ。そいつは勿論…。」
腹を据えた様子で目を光らせる麗奈に、この場の全員が至極嫌な予感を抱く。





「では、ティグラーブさん。私達と勝負を致しませんか?―カオス=エメラルドに願いを言う権利を賭けて。」





案の定懸念は的中し、僕と紅炎は思わずむせてしまった。
「何言い出してんだ、この不良嬢様は!!」
「お前、ギャンブルで勝ったためしないだろうが!!」
学力と素行の両面で優等生と称して差し支えない麗奈の、数少ない重大な欠点がこれだった。幸運の女神と疎遠にも拘わらず、どうしようもなく賭博好きなのだ。
借金してまでのめり込みはしないが、資金が残っている限り引き際を見極めず挑み続けてしまうので、始末が悪い。
カオス=エメラルドを情報料代わりに差し出す手は自分も真っ先に考えたものの、麗奈の口から発案されると、行く末が不安になる。
「…テメー、本気で言ってやがるの?カオス=エメラルドに願いを言う権利なんて差し出したら、何兆円レベルの情報せしめたってそっちの大損よ?まして、ほんの30万円分の情報相手で…。」
「御心配には及びません。賭け金代わりの情報は、もっとたくさん頂きますから。」
挑むように微笑む麗奈に対し、ティグラーブはオレンジ色のアフロヘアーを掻く。
「何だか、長い話になりそうね…けど面白そうだし、もうちょっと聞いてみてーわ。テメーら、上がっていきやがりなさい。」
満更でもない反応を示すティグラーブに先導され、僕達は眩いばかりの家へと踏み入った。
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