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第2章 飛躍の翼
月華の初陣
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雲一つない星月夜の下、麗奈とティグラーブは対峙した。
「そんじゃ頼むぜ、魅月嬢。」
「あれだけ大見得切ったんだ。絶対負けてくれるなよ。」
「はい!」
紅炎や僕の声援を背に受けながら、麗奈は木製の薙刀を構える。
「ルールは単純に、先にぶっ倒れた方が負けってことにしましょう。良いわね、レイナ?」
「承知しました。―では、参ります!」
開戦早々正面から突っ込んだ麗奈が、光を宿した薙刀でティグラーブの面を打ちにかかる。
「ふんっ!」
苦も無く命中すると思われた一撃は、ティグラーブの足払いに邪魔立てされた。
麗奈自身は後方へ跳んで難なく避けたものの、素早く接近して来たティグラーブに背後を取られてしまう。
握り拳に固められた右手は魄力に加えて、妙な圧力も帯びていた。
「くらいやがりなさい!」
麗奈は機敏に振り向き、ティグラーブの殴打を薙刀で防いだ。
「まだまだ、こんなもんじゃねーわよ!!」
ティグラーブの攻勢は緩まず、矢継ぎ早に拳が繰り出される。
対する麗奈の守りも堅固で、戦況は膠着するかに見えたが。
「…うっ…!」
程なくして、異変が生じる。
麗奈が苦しげに呻いたと思うと、両手をだらりと下げてしまったのだ。
「月アネゴ!?」
自然、握られた薙刀も降下する。
切っ先が触れた地面は、さながら重量武器で叩き付けたかの様に、深く陥没した。
「スキあり!!」
ティグラーブが振り下ろした渾身のパンチを、麗奈は薙刀を引き摺るようにしながら、すんでのところで逃れる。
ただ、彼女の代わりに直撃を受けた地表は、巨大な岩にのしかかられた如く圧し潰された。
「うわぁ…!あんなのまともにくらったら、全身つぶされちゃうよ!」
「やっぱり、油断できねぇ奴だな…。」
氷華君や風刃が動じる通り、ティグラーブの力は当人の自己申告よりも幾分か強い。
「けど、魅月嬢にも十分勝ちの目あるぜ~。」
「ああ。」
動きを鈍らせられてもなお強烈な拳をかわせたのは、麗奈の身体能力がティグラーブより上を行っている証。
ならば攻撃さえ当てれば、それで雌雄は決する。
「…ティグラーブさん…重さを変える魄能をお持ちのようですね…。」
「ええ。おいどん、重力をいじれるのよ。直径20メートルの範囲内で、だけどね。」
掌を下に向けると、夥しい石が浮遊する。
大小様々のそれらはティグラーブの右手が真っ直ぐ伸ばされるや、一斉に麗奈へと襲い掛かった。
「く…うっ…。」
半ば根性で薙刀を振るって石の大群を退けようとした麗奈だったが、絵に描いた様な多勢に無勢であり、加重された武器を操るのも重労働。
その場に留まり、身を固めるほかなくなるのは、あっという間だった。
「あら、もう打つ手なしの防戦一方かしら?」
麗奈の瞳は変わらず闘志を燃やしているが、その口から反論は飛ばされない。
「…残念ね。そんな有様じゃ、賭けるどころじゃねーわよ!」
ティグラーブは麗奈に向けて、開いた両の手を突き出す。
すると暗い紫色をした球状の空間が現れ、地面諸共、麗奈を覆った。
「うっ…く…ああああああああ…!!!!!」
「魅月嬢!」
現れた空間は地響きのような音と共に、麗奈を攻め立てる。
「ぐ…ッ…!」
「けっこう…はなれてるのに…!」
外部にいる僕達にすら、それなりの重圧が届く。
ましてその内部では、渦巻く力は比較にもなるまい。
「…勝負あり、か?」
「あの技で、麗奈が潰されたらな。」
浮かない表情の弟に、ごく端的に応じる。
「聴こえてやがるかしら、レイナ!?とっとと降参しやがりなさい!こいつの中で叫ぶしかねーようじゃ、すぐにくたばっちまうわよ!」
「…そういう…訳には…参りません…!」
「テメーね…!強がってる場合じゃ―」
ティグラーブが声を荒げかけた時、球状空間に複数のヒビが入り、眩いほどの純白の光が何条も溢れ出す。
それらは一層輝きを増すと、次いで爆風の如き衝撃を起こし、ティグラーブの技を粉砕した。
「そんな、おいどんのクラッシュワールドを…はっ!」
脱出を果たした麗奈は、呆然とするティグラーブに一瞬で詰め寄った。
「月華閃!!」
光を灯した薙刀で喉元を突かれたティグラーブは小さく宙を舞い、そして静かに墜落した。
「ふふ…やりやがるじゃない、レイナ…。」
自分を倒した相手の治療を受けながら、仰向けのティグラーブが呟く。
「まさか一撃でぶっ倒されちまうなんて思わなかったわ…おいどん、頑丈さには自信あったんだけどね…。」
「ティグラーブさんがほんの一瞬動揺されていたお蔭で、このような結果になったのです。もしも私が脱出した直後に次の攻撃を受けていたら…。」
ふっと、寂しげな笑いが漏れる。
「お情けでくだらねー謙遜してんじゃねーわよ。とっておきがまともに当たってほとんどダメージなしじゃ、何発食らわせても結果は同じだわ…。」
麗奈は言葉を紡げない。
軽すぎる怪我しか残っていない身体が、圧勝を物語ってしまっていたから。
「…ティグラーブさん…。」
「こら。勝ったヤローが、シケたツラしてんじゃねーわよ。」
ティグラーブにごく軽く頭を小突かれた麗奈が、気まずそうに患部を撫でた。
「おいどん、感心してんのよ。ほとんどズブの素人状態からほんの1週間修行した位でこれだけ強くなったなんてすげーわ、ってね。」
「ま、それだけ才能がずば抜けてるって事だな。」
「いちいち天狗にならんと気が済まんのか、てめぇは…。」
「いえ、ランジンの言う通りよ。だからおいどん、この通り惨敗だった訳だし。」
ティグラーブの声音にも面持ちにも、悔しさは微塵もない。
むしろ、清々しさが溢れていた。
「ふふ…一か八か、テメーらに付き合うのも面白そうだわ!約束通り、今後に期待してやるわよ!」
「賭けの話、乗ってくれるんだな。じゃ、これからよろしく頼むぞ!」
「ええ、こちらこそ。しっかり活躍しやがりなさいよ!」
かくして魔界進出初日ながら、強力な仲間を得た。
「そんじゃ頼むぜ、魅月嬢。」
「あれだけ大見得切ったんだ。絶対負けてくれるなよ。」
「はい!」
紅炎や僕の声援を背に受けながら、麗奈は木製の薙刀を構える。
「ルールは単純に、先にぶっ倒れた方が負けってことにしましょう。良いわね、レイナ?」
「承知しました。―では、参ります!」
開戦早々正面から突っ込んだ麗奈が、光を宿した薙刀でティグラーブの面を打ちにかかる。
「ふんっ!」
苦も無く命中すると思われた一撃は、ティグラーブの足払いに邪魔立てされた。
麗奈自身は後方へ跳んで難なく避けたものの、素早く接近して来たティグラーブに背後を取られてしまう。
握り拳に固められた右手は魄力に加えて、妙な圧力も帯びていた。
「くらいやがりなさい!」
麗奈は機敏に振り向き、ティグラーブの殴打を薙刀で防いだ。
「まだまだ、こんなもんじゃねーわよ!!」
ティグラーブの攻勢は緩まず、矢継ぎ早に拳が繰り出される。
対する麗奈の守りも堅固で、戦況は膠着するかに見えたが。
「…うっ…!」
程なくして、異変が生じる。
麗奈が苦しげに呻いたと思うと、両手をだらりと下げてしまったのだ。
「月アネゴ!?」
自然、握られた薙刀も降下する。
切っ先が触れた地面は、さながら重量武器で叩き付けたかの様に、深く陥没した。
「スキあり!!」
ティグラーブが振り下ろした渾身のパンチを、麗奈は薙刀を引き摺るようにしながら、すんでのところで逃れる。
ただ、彼女の代わりに直撃を受けた地表は、巨大な岩にのしかかられた如く圧し潰された。
「うわぁ…!あんなのまともにくらったら、全身つぶされちゃうよ!」
「やっぱり、油断できねぇ奴だな…。」
氷華君や風刃が動じる通り、ティグラーブの力は当人の自己申告よりも幾分か強い。
「けど、魅月嬢にも十分勝ちの目あるぜ~。」
「ああ。」
動きを鈍らせられてもなお強烈な拳をかわせたのは、麗奈の身体能力がティグラーブより上を行っている証。
ならば攻撃さえ当てれば、それで雌雄は決する。
「…ティグラーブさん…重さを変える魄能をお持ちのようですね…。」
「ええ。おいどん、重力をいじれるのよ。直径20メートルの範囲内で、だけどね。」
掌を下に向けると、夥しい石が浮遊する。
大小様々のそれらはティグラーブの右手が真っ直ぐ伸ばされるや、一斉に麗奈へと襲い掛かった。
「く…うっ…。」
半ば根性で薙刀を振るって石の大群を退けようとした麗奈だったが、絵に描いた様な多勢に無勢であり、加重された武器を操るのも重労働。
その場に留まり、身を固めるほかなくなるのは、あっという間だった。
「あら、もう打つ手なしの防戦一方かしら?」
麗奈の瞳は変わらず闘志を燃やしているが、その口から反論は飛ばされない。
「…残念ね。そんな有様じゃ、賭けるどころじゃねーわよ!」
ティグラーブは麗奈に向けて、開いた両の手を突き出す。
すると暗い紫色をした球状の空間が現れ、地面諸共、麗奈を覆った。
「うっ…く…ああああああああ…!!!!!」
「魅月嬢!」
現れた空間は地響きのような音と共に、麗奈を攻め立てる。
「ぐ…ッ…!」
「けっこう…はなれてるのに…!」
外部にいる僕達にすら、それなりの重圧が届く。
ましてその内部では、渦巻く力は比較にもなるまい。
「…勝負あり、か?」
「あの技で、麗奈が潰されたらな。」
浮かない表情の弟に、ごく端的に応じる。
「聴こえてやがるかしら、レイナ!?とっとと降参しやがりなさい!こいつの中で叫ぶしかねーようじゃ、すぐにくたばっちまうわよ!」
「…そういう…訳には…参りません…!」
「テメーね…!強がってる場合じゃ―」
ティグラーブが声を荒げかけた時、球状空間に複数のヒビが入り、眩いほどの純白の光が何条も溢れ出す。
それらは一層輝きを増すと、次いで爆風の如き衝撃を起こし、ティグラーブの技を粉砕した。
「そんな、おいどんのクラッシュワールドを…はっ!」
脱出を果たした麗奈は、呆然とするティグラーブに一瞬で詰め寄った。
「月華閃!!」
光を灯した薙刀で喉元を突かれたティグラーブは小さく宙を舞い、そして静かに墜落した。
「ふふ…やりやがるじゃない、レイナ…。」
自分を倒した相手の治療を受けながら、仰向けのティグラーブが呟く。
「まさか一撃でぶっ倒されちまうなんて思わなかったわ…おいどん、頑丈さには自信あったんだけどね…。」
「ティグラーブさんがほんの一瞬動揺されていたお蔭で、このような結果になったのです。もしも私が脱出した直後に次の攻撃を受けていたら…。」
ふっと、寂しげな笑いが漏れる。
「お情けでくだらねー謙遜してんじゃねーわよ。とっておきがまともに当たってほとんどダメージなしじゃ、何発食らわせても結果は同じだわ…。」
麗奈は言葉を紡げない。
軽すぎる怪我しか残っていない身体が、圧勝を物語ってしまっていたから。
「…ティグラーブさん…。」
「こら。勝ったヤローが、シケたツラしてんじゃねーわよ。」
ティグラーブにごく軽く頭を小突かれた麗奈が、気まずそうに患部を撫でた。
「おいどん、感心してんのよ。ほとんどズブの素人状態からほんの1週間修行した位でこれだけ強くなったなんてすげーわ、ってね。」
「ま、それだけ才能がずば抜けてるって事だな。」
「いちいち天狗にならんと気が済まんのか、てめぇは…。」
「いえ、ランジンの言う通りよ。だからおいどん、この通り惨敗だった訳だし。」
ティグラーブの声音にも面持ちにも、悔しさは微塵もない。
むしろ、清々しさが溢れていた。
「ふふ…一か八か、テメーらに付き合うのも面白そうだわ!約束通り、今後に期待してやるわよ!」
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