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第2章 飛躍の翼
夜半の警鐘
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情報によれば、ファラームから程近くにある「白夜の泉」と、ファラーム城。そして広大な樹海を抜けた先のスクムルトなる村に、カオス=エメラルドの欠片が1つずつ確認されているらしい。
移動の手間を考えてスクムルトを最後に回し、ファラーム周辺にある2つの欠片を優先しようという事で、目下の方針が固まった矢先。
「もしディザーに出くわすことがあっても、絶対に戦うんじゃねーわよ。何が何でも逃げやがりなさい。」
ティグラーブからの警告に、全員が押し黙った。
「…ティグラーブさん、ボクたちに賭けてくれたんじゃなかったの?」
「テメーらの将来に賭けたから、今不用意なマネしてもらっちゃ困るって話をしてんのよ。」
「…今の俺等じゃディザーって奴には勝てねえ、っつーわけね?」
「…残念ながらね。」
僅かに俯いたティグラーブが、言葉少なに返す。
「ディザー、か…強い強いって言うけど、そんなに凄ぇのか?」
「…そうね。こういう話は、数字があった方がいいでしょう。」
酒や文書を収納した棚から、黒く薄い端末機器が取り出された。
「それは…スマートフォンでしょうか?」
「いえ。よく似てるけど、こいつは魄測計って機械よ。画面に映したヤツの魄力を数値化できる機械でね…。」
「魄力を数値化だと!?すげエじゃねエか!!」
「わっ、ビックリしたぁ!なに急にテンション上がってるのさ!」
「オイ、ティグラーブよ!魄力を数値にッて、一体どういう仕組みなンだ!?」
「…ん、ああ。魄力ってモンにも、ある程度の熱はあってね。その温度を元に計測すんのよ。」
ティグラーブから手渡された魄測計に自分を映し、皆が魄力の値を調べてみる。
結果は僕が19万、風刃が18万、紅炎と氷華君と駆君がいずれも17万、麗奈が16万と算出された。
「18万か…俺も結構捨てたもんじゃねぇかもな。」
「そうだな。この超絶天才兄上様の次なんだから、悪くないんじゃないか?」
「けっ、抜かしてろ!絶対追い越してやるわ!」
「はは、楽しみにしててやるよ。…ところで、ティグラーブ。この魄振数ってやつ、何だ?」
魄測計を返却しながら、各々の魄力の強さと共に計測されていた数値に触れた。
麗奈が1分間に49回、駆君が76回、他の4人は100回越えとなっているが、それが何を意味しているのかはさっぱり読み取れない。
「…ああ、気にする事ねーわよ。そいつは魄力の強弱と関係ない、どうでもいい数値だからね。」
「バカな。どうでもいい数値をわざわざ測る機械なンざ、作られるかよ。何か意味があるから計測してンだろ?」
「そんな事より、もっとでけー問題がありやがるわよ。テメーらの才能はずば抜けてるけど、今のままじゃディザーのヤローとは勝負にもならねーって、データで証明されちまったわ。」
棚に魄測計を収めたティグラーブが、努めて冷静に言い放つ。
「…幾つなんだ?ディザーって奴の魄力…。」
何とも言い難い重苦しいものを抱えて訊ねると、ややあって回答がなされた。
「…250万。」
「な…!?」
氷華君をはじめとして言葉を失う面々に、しかもそれは復活直後の計測結果に過ぎないと補足が入る。
「最新の魄力値はなかなか裏が取れねーけど、復活から4年も経った今じゃ、またどれだけ強くなってやがるか…。」
「…4年…?」
ごく小さく疑念の声をこぼした風刃を見やったのは、僕だけだった。
「これで分かったでしょ。ヤツとやり合うのは、まだまだずっと先にしねーとならねーってわけよ。」
「…御忠告、重く受け止めます。ところで、そのディザーという人物がどんな格好をしているか、御存知でしょうか?」
「ええ。情報によると中肉中背の50代くらいの男で、褪せた水色と白髪混ざりの頭してやがるそうよ。」
「…ふーん。随分変わった髪のおっさんみたいだな。」
「…ですね。そンな格好してるなら、すぐ分かりそうだ。」
隣席の弟を横目に見ると、些か視線が下がり、目付きが鋭くなっていた。
「ちなみに、もし賭けを白紙にするなら、今しか受け付けねーわよ。よこした情報の倍額払えば、今日の話は全部なかった事に…。」
「言っただろ。誰が相手だろうが、邪魔なら黙らせるさ。ディザーって奴もぶちのめせる位、強くなってやるよ。」
「ふっ、頼もしいじゃねーのよ。…他の連中も、ランジンに賛成で良いのかしら?」
「どんな苦難も背負うつもりで、賭けのお話を申し上げたのです。私達から取り止めをお願いする事などできませんよ。」
「大体、60万も金持ってねエしな…。」
「そこ、余計なこと言わない!」
「…そう。じゃ、今後はお互い撤回禁止ね。」
ティグラーブが、期待と不安の混ざり合った微笑みを浮かべた。
「さて。今の内に言っとく事は、こんなとこかしら。適当に好きな部屋使って構わねーから、これ以上遅くならねー内にとっとと寝やがりなさい。」
誰ともなしに骨董品と思しき壁掛け時計を見やると、時刻は午後10時を回っていた。
「…そうさせてもらうか。じゃ、お先に。」
風刃が真っ先に腰を上げ、挨拶もそこそこに立ち去る。
「…何か風くん、暗くない?」
「…それはいつもの事だよ。」
「いえ…何て言うか、こう…怒ってるみたいな…。」
「あア、そいつは同感だ。ディザーッてヤローより魄力が低くて腹立てた、とかか…?」
「気にしすぎだって、お二人さん。多分ありゃ、疲れただけだろ。魔界に来るなり色々ありまくったもんな。」
「ええ。知らない土地への旅は、自覚する以上に心身を削りますからね。私達も夜更かしは禁物です。」
無言で顔を見合わせた氷華君と駆君は、なおも思うところがある様子だったが。
「…そうか…そうだな。きッと、考え過ぎだ。」
「…すみません、嵐兄さん。ヘンなこと言っちゃって。」
すぐに固い笑顔になり、空々しい納得を示した。
「気にしないでくれ。詫びを貰うところじゃないさ。」
「どうも…それじゃみんな、お休みなさい。」
「うん、お休み。」
「また明日な~。」
「良い夢を御覧になれますように。」
2人の姿が見えなくなると、僕は小さく息を吐く。
「…悪いな、気を遣わせて。」
「いえ…。」
「フウ坊がその気になってねえのに、俺らがペラペラ喋るわけにいかねえしさ。」
「…でも、どうなんだろうな。確かに今のとこは蒼空家の問題だけど、もしもそうじゃなくなったら…。」
「こら。若い衆に夜更かし禁止とか言ったそばから、年長者が長々起きてやがるんじゃねーわよ。」
「おっと、いけねえ。話はまたにするか~。」
「そうですね。それでは嵐刃さん、紅炎さん。今日はこれにて失礼致します。」
「ああ、お休み。」
紅炎と麗奈が席を外したのを見届けてから、ティグラーブに問うた。
「…ところでティグラーブって、人間界の事は詳しいか?」
「いいえ、そっちはほとんど。魔界に関係する動き…それも、よっぽどとんでもねーもんなら、流石に分かるけどね。」
「…じゃ、蒼空家の事は?」
「…今のとこ、特に話せる事はねーわ。ご期待に添えなくて悪いけどね。」
一時ティグラーブを凝視し、そしてすぐに力の抜けた笑いを漏らした。
「…そうか。分かった。こっちこそ、変な事訊いて悪かったな。」
「いいえ。」
再び小さな息を吐いて、酒場兼賭博場の装いとなっているエントランスを後にした。
我ながら馬鹿馬鹿しい。
物証の1つも伴わない邪推など、的中する筈がないだろうに。
そう、自分に言い聞かせながら。
ティグラーブは銀色のスマートフォンを手にすると、「ヴォルグジイさん」という連絡先を選び、発信した。
「…ああもしもし、ジイさん?ティグラーブだけど。」
「おお、ティグラーブさん。如何なさいましたかな?」
「悪いわね、こんな時間になっちまって。そっちの貨物列車に乗った客が、おいどんの所に来やがったんだけどさ…。」
移動の手間を考えてスクムルトを最後に回し、ファラーム周辺にある2つの欠片を優先しようという事で、目下の方針が固まった矢先。
「もしディザーに出くわすことがあっても、絶対に戦うんじゃねーわよ。何が何でも逃げやがりなさい。」
ティグラーブからの警告に、全員が押し黙った。
「…ティグラーブさん、ボクたちに賭けてくれたんじゃなかったの?」
「テメーらの将来に賭けたから、今不用意なマネしてもらっちゃ困るって話をしてんのよ。」
「…今の俺等じゃディザーって奴には勝てねえ、っつーわけね?」
「…残念ながらね。」
僅かに俯いたティグラーブが、言葉少なに返す。
「ディザー、か…強い強いって言うけど、そんなに凄ぇのか?」
「…そうね。こういう話は、数字があった方がいいでしょう。」
酒や文書を収納した棚から、黒く薄い端末機器が取り出された。
「それは…スマートフォンでしょうか?」
「いえ。よく似てるけど、こいつは魄測計って機械よ。画面に映したヤツの魄力を数値化できる機械でね…。」
「魄力を数値化だと!?すげエじゃねエか!!」
「わっ、ビックリしたぁ!なに急にテンション上がってるのさ!」
「オイ、ティグラーブよ!魄力を数値にッて、一体どういう仕組みなンだ!?」
「…ん、ああ。魄力ってモンにも、ある程度の熱はあってね。その温度を元に計測すんのよ。」
ティグラーブから手渡された魄測計に自分を映し、皆が魄力の値を調べてみる。
結果は僕が19万、風刃が18万、紅炎と氷華君と駆君がいずれも17万、麗奈が16万と算出された。
「18万か…俺も結構捨てたもんじゃねぇかもな。」
「そうだな。この超絶天才兄上様の次なんだから、悪くないんじゃないか?」
「けっ、抜かしてろ!絶対追い越してやるわ!」
「はは、楽しみにしててやるよ。…ところで、ティグラーブ。この魄振数ってやつ、何だ?」
魄測計を返却しながら、各々の魄力の強さと共に計測されていた数値に触れた。
麗奈が1分間に49回、駆君が76回、他の4人は100回越えとなっているが、それが何を意味しているのかはさっぱり読み取れない。
「…ああ、気にする事ねーわよ。そいつは魄力の強弱と関係ない、どうでもいい数値だからね。」
「バカな。どうでもいい数値をわざわざ測る機械なンざ、作られるかよ。何か意味があるから計測してンだろ?」
「そんな事より、もっとでけー問題がありやがるわよ。テメーらの才能はずば抜けてるけど、今のままじゃディザーのヤローとは勝負にもならねーって、データで証明されちまったわ。」
棚に魄測計を収めたティグラーブが、努めて冷静に言い放つ。
「…幾つなんだ?ディザーって奴の魄力…。」
何とも言い難い重苦しいものを抱えて訊ねると、ややあって回答がなされた。
「…250万。」
「な…!?」
氷華君をはじめとして言葉を失う面々に、しかもそれは復活直後の計測結果に過ぎないと補足が入る。
「最新の魄力値はなかなか裏が取れねーけど、復活から4年も経った今じゃ、またどれだけ強くなってやがるか…。」
「…4年…?」
ごく小さく疑念の声をこぼした風刃を見やったのは、僕だけだった。
「これで分かったでしょ。ヤツとやり合うのは、まだまだずっと先にしねーとならねーってわけよ。」
「…御忠告、重く受け止めます。ところで、そのディザーという人物がどんな格好をしているか、御存知でしょうか?」
「ええ。情報によると中肉中背の50代くらいの男で、褪せた水色と白髪混ざりの頭してやがるそうよ。」
「…ふーん。随分変わった髪のおっさんみたいだな。」
「…ですね。そンな格好してるなら、すぐ分かりそうだ。」
隣席の弟を横目に見ると、些か視線が下がり、目付きが鋭くなっていた。
「ちなみに、もし賭けを白紙にするなら、今しか受け付けねーわよ。よこした情報の倍額払えば、今日の話は全部なかった事に…。」
「言っただろ。誰が相手だろうが、邪魔なら黙らせるさ。ディザーって奴もぶちのめせる位、強くなってやるよ。」
「ふっ、頼もしいじゃねーのよ。…他の連中も、ランジンに賛成で良いのかしら?」
「どんな苦難も背負うつもりで、賭けのお話を申し上げたのです。私達から取り止めをお願いする事などできませんよ。」
「大体、60万も金持ってねエしな…。」
「そこ、余計なこと言わない!」
「…そう。じゃ、今後はお互い撤回禁止ね。」
ティグラーブが、期待と不安の混ざり合った微笑みを浮かべた。
「さて。今の内に言っとく事は、こんなとこかしら。適当に好きな部屋使って構わねーから、これ以上遅くならねー内にとっとと寝やがりなさい。」
誰ともなしに骨董品と思しき壁掛け時計を見やると、時刻は午後10時を回っていた。
「…そうさせてもらうか。じゃ、お先に。」
風刃が真っ先に腰を上げ、挨拶もそこそこに立ち去る。
「…何か風くん、暗くない?」
「…それはいつもの事だよ。」
「いえ…何て言うか、こう…怒ってるみたいな…。」
「あア、そいつは同感だ。ディザーッてヤローより魄力が低くて腹立てた、とかか…?」
「気にしすぎだって、お二人さん。多分ありゃ、疲れただけだろ。魔界に来るなり色々ありまくったもんな。」
「ええ。知らない土地への旅は、自覚する以上に心身を削りますからね。私達も夜更かしは禁物です。」
無言で顔を見合わせた氷華君と駆君は、なおも思うところがある様子だったが。
「…そうか…そうだな。きッと、考え過ぎだ。」
「…すみません、嵐兄さん。ヘンなこと言っちゃって。」
すぐに固い笑顔になり、空々しい納得を示した。
「気にしないでくれ。詫びを貰うところじゃないさ。」
「どうも…それじゃみんな、お休みなさい。」
「うん、お休み。」
「また明日な~。」
「良い夢を御覧になれますように。」
2人の姿が見えなくなると、僕は小さく息を吐く。
「…悪いな、気を遣わせて。」
「いえ…。」
「フウ坊がその気になってねえのに、俺らがペラペラ喋るわけにいかねえしさ。」
「…でも、どうなんだろうな。確かに今のとこは蒼空家の問題だけど、もしもそうじゃなくなったら…。」
「こら。若い衆に夜更かし禁止とか言ったそばから、年長者が長々起きてやがるんじゃねーわよ。」
「おっと、いけねえ。話はまたにするか~。」
「そうですね。それでは嵐刃さん、紅炎さん。今日はこれにて失礼致します。」
「ああ、お休み。」
紅炎と麗奈が席を外したのを見届けてから、ティグラーブに問うた。
「…ところでティグラーブって、人間界の事は詳しいか?」
「いいえ、そっちはほとんど。魔界に関係する動き…それも、よっぽどとんでもねーもんなら、流石に分かるけどね。」
「…じゃ、蒼空家の事は?」
「…今のとこ、特に話せる事はねーわ。ご期待に添えなくて悪いけどね。」
一時ティグラーブを凝視し、そしてすぐに力の抜けた笑いを漏らした。
「…そうか。分かった。こっちこそ、変な事訊いて悪かったな。」
「いいえ。」
再び小さな息を吐いて、酒場兼賭博場の装いとなっているエントランスを後にした。
我ながら馬鹿馬鹿しい。
物証の1つも伴わない邪推など、的中する筈がないだろうに。
そう、自分に言い聞かせながら。
ティグラーブは銀色のスマートフォンを手にすると、「ヴォルグジイさん」という連絡先を選び、発信した。
「…ああもしもし、ジイさん?ティグラーブだけど。」
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