光の翼

シリウス

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第2章 飛躍の翼

不穏の足音

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「へえ。テメーにしちゃ、なかなか口が上手かったのね。そいつも、弟への愛ってやつのなせる業かしら?」

「…当然…。」

ファラーム城の事件の一部始終を報告すると、ティグラーブが感心を露わに舞を見た。

監視を引き受けるからと執行猶予を付けさせ、ユナを味方に引き込んだ舞。

それはカオス=エメラルドだけでなく、自分の弟を捜索させるのも狙っての事だった。

ちなみにジャボンは、情報収集に必要であれば時に悪事も辞さないが、無用な悪さをした関係者にはどんな軽い罪でも厳罰を与えるという。

ユナは言い逃れしようもなく後者だが、執行猶予期間を無事に過ごせば許すと言われたらしく、予定通り情報収集役として使える事になった。

「でも、水さん。ティグラーブさんが味方してくれてるのに、ユナまで必要あります?大体、ホントに役に立つかどうかも…。」

「むっ…ジャボンの忍びに向かって、ご挨拶だね!そんな態度するなら、あなたのこと色々喋っちゃおうか?」

「色々って、ボクの何を知ってるのさ。会ったこともないのに。」

「ふふーん、すぐに分かるよ♪えーっと…ユキハラヒョウカさん、だったよね。」

ユナはスマートフォンを操作し、「ジャボン秘録」なる見慣れないアプリを起動した。

画面に無数の人物の写真と、氏名や年齢や職業が表示される。

「あ、これだね。」

その中にあった氷華君の顔をタッチすると、より細かい情報がずらずらと現れた。

「雪原氷華さん、海園中学校2年4組の出席番号44番。12月23日生まれ、やぎ座の満13歳、血液型はA型。住所は白砂町の湊川みなとがわ4丁目1の2…。」

「え…?いや、えっ…!?」

住所を読み上げられたところで氷華君は動転を極めたが、ユナの攻勢はまだ止まらなかった。

「身長155センチ、体重48キロ。得意科目は国語と体育と美術と音楽、苦手科目は数学と理科と地歴と家庭科。英語と技術は苦手ってほどじゃないけど、得意なわけでもなし。好きな歌は童謡とアニメソング。将来の夢は幼稚園から小学校3年生くらいまではアイドル歌手、4年生頃から今はキャリアウーマン。応援してるグラビアアイドルはバスト92センチの小町真美こまちまみさん…。」

「ちょっ…あんた、ストーカー!?何でそんなの調べられたのさ!!」

「教えられませーん☆調査方法はナ・イ・ショ♡…ぐえっ!!」

「人の秘密バラしまくっといて何がナイショだよ、このヘンシツ者―!!」

唇の前で人差し指を立ててウインクを飛ばしたユナに、怒りと恥ずかしさで顔を真っ赤にした氷華君がヘッドロックを決めた。

「…へえ…氷華ちゃん…小町真美…好きなんだ…ふふ…ばすと…92も…あったら…憧れちゃうよね…しかも…あのぐらどる…昔は…胸…ちっちゃかった…らしいし…。」

「そのネタ、一番スルーしてほしかったんですけど!!」

「あ…ご、ごめんなさい!!」

涙目で抗議する氷華君に、舞が全力で頭を下げた。

「本当に悪気なく抉りに行くな、お前…。」

「悪気がねぇんだか、学習能力がねぇんだか…。」

「…がふっ…。」

呆れを隠さない風刃のぼやきに、舞が巨大な胸に手を当てて咳き込む。




一方、氷華君の身体を叩いてギブアップの意思を示すユナは、紅炎と麗奈の横入りでようやく救出され、荒い息を吐いていた。

「もー、こいつサイテー!!こんな犯罪者と組むなんて、ジョウダンじゃないよ!!」

「そりゃ、前科者と喜んで組めとは言わねーけどね。『使えるモンは何でも使う』くらいの気持ちでやらねーと、カオス=エメラルドなんか集められねーわよ。それに今更そいつが実刑になったら、執行猶予付けさせたマイの面目も丸潰れだしさ。」

「…チッ。このアマもオレらも、選択肢はねエッてことか…。」

「それで丁度良いだろ。さっきも言ったが、舐めた真似しやがった分、たっぷりこき使ってやるだけだ。」

冷然と言い放つ風刃を、ユナが見やる。

その視線は反発や不満の色がなく、純粋にしげしげと観察しているものだった。

「…何だ。」

「…いえ。ジャボンの情報的に、あなたとあなたのお兄さんは利用価値があったって私と関わりたくないって言うと思ってたから、ちょっとびっくりっていうか…。」

「…正直、感情論で行けばそう言いたいぞ?けど、僕達はお前を放り出せる立場じゃないし、放り出せたとして他の奴に飼われでもしたら良い事ないからな。」

「はあ、なるほど。…カオス=エメラルドとか、マイさんの弟さんとは別に調べさせたいことがありそうに見えるのは、気のせいでしょうかね?」

「…ふっ。狂言誘拐なんかやる馬鹿でも、それくらいの知恵は回るか。なら―」

先延ばしにしないではっきり言おうと口にしかけて、止めた。

「…風刃、お前から言え。ここらが大概、頃合いだろ。」

「頃合いって…この流れで、割といきなりじゃねぇのか?…まあ、いつかは話さねぇとって思ってたけどよ…。」

風刃は短い溜息を吐くと、ユナに命じた。

「黒い鎧着たジジイと、金髪と黒髪ごちゃ混ぜで汚い杖持った野郎について調べろ。どういう連中か、今どこにいやがるのか。」

「はい、分かりました。お任せを。」

ユナがスマートフォンのメモ帳を開き、書き留める。

「…何なンだ、そいつら?」

「4年前、うちの親をさらいやがった連中だ。」

努めて淡々と答える風刃に、氷華君と駆君と舞が声もなく驚く。

「…それって…4年前の…いつごろ…?」

「9月20日の午後4時20分です。」

「わっ。ずいぶん細かいところまで覚えてるんだね。」

ユナが目を丸くした。

「目の前で親をさらわれた挙句、無様にのされた日だぞ。忘れたくても忘れられるか。」

「…そっか。だから、ユナと王子様にあそこまで怒ってたんだね…。」

「はいはい、その話はまた今度にしやがりなさい。」

ティグラーブが2回手を叩き、話を遮った。

「ミズカワタイキだけでも手を焼いてんのに新しい仕事まで増えちゃ、いくらジャボンを味方にしたからって簡単に片付きやしねーわ。3日ほど、修行でもして待ってやがりなさい。」

「3日?3日でうちに来た連中の事、分かるのか?」

事が進むかと期待して聞いたところ、ティグラーブは頭を掻きながら詫びた。

「…悪い、言葉足らずだったわね。フウジンの言う連中の方はまだ期待しねーで、3日ほど待ってやがりなさい。」

「…じゃ…うちの弟は…。」

「ええ。そろそろカタを付けましょう。もし危ねえヤローが絡んでてもどうにかできるように、短い間で目一杯腕を上げ―」

「了解!思い切り強くなってくる!」

やる気に燃えて魄力を上げる舞に、皆が少し引いた。

「…それじゃ、私もマイさんの弟さん捜しを優先した方がいいかな?」

「何言ってやがんの、ユナ。テメーも一緒に鍛えるのよ。」

「え、何で!?」

「速さはともかくとして、鍛錬と経験を積むほど伸びるのが魄力ってことくらい、知ってやがるでしょ。いざって時、それなりに戦えるようによ。」

「ああ、それも良いな。安全圏でのんびりさせとくのも腹立つと思ってたし。」

僕が明るく笑って告げると、ユナは観念したように苦笑いする。

「…でも、調べ物はどうするの?」

「余計な心配よ。ミズカワタイキに絞れば、ジャボンに頼るまでもねーわ。」

「だってさ、ユナ。ゴチャゴチャ言ってないで、一緒に楽しく修行しよ☆」

氷華君が満面の、しかし威圧感のある笑顔でユナの肩に手を乗せる。

さっき恥をかかせてもらったお礼にたっぷりしごいてあげるから覚悟しなよ、と言いたがっているのが誰の目にも明らかだった。





―嵐刃達が去って、程なく。

「…と、こんなところで構わねーかしら?」

「上出来だ。」

ティグラーブの隣に、霞が空間を溶かすようにして現れた。

「しかし8人もいて気付かせねーとは、テメーもなかなかやりやがるわね。」

「奴等がまだまだ未熟なだけだ。」

「ま、それも否定はできねーけど…本当にいいの?一歩しくじりゃ、テメーの望みも水の泡なのよ?」

「そうならないための策を考えていると言っただろう。計画通りに事を運ぶのはディザーや災厄の刃クラディースではない。この僕だ。」

霞は拳を握り、静かに強く宣言した。












持ち込まれた松明以外に、照明はない。

4つの檻が備え付けられた暗い地下室は壁が黒ずみ、床には赤黒い染みが点々としている。

「ぐぐ…。」

檻のうちの1つに、黒髪の少年は囚われていた。

うつ伏せのままで苦しげに呻く彼は、身体中に打撲痕と切り傷をこさえている。

薄くなりつつあるものもあれば、ほんの少し前に付けられた真新しいものまで、鮮度は様々だった。

「どうだ、シクロスよ。返事は変わったか?」

金髪と黒髪の混ざったロングヘアをした粗暴な男が、くすんだ紫色の杖を右手で弄びながらやって来た。

「マだだ。こイツ、意地と根性は相当なモんダぜ…。」

黄色い身体をした邪鬼イヴィルオーガのシクロスが、疲れを隠さずぼやく。

「はア…もう、いい加減ジれっタい!そろソろ止めを刺さセロよ!生かサず殺さずっテノも、骨が折れルんだゾ!」

「文句言うな。派手なオチが盛り上がるのも、長々とタメにタメてこそだろうが。」

「ったク、とコトン享楽主義だナ…おっ?」

通知音に気付いたシクロスが、ジーンズのポケットからスマートフォンを取り出した。

「どうした。どこぞの女からデートの誘いでも来たか?」

「…ルドルス。タールの奴から報告ダ。強盗ラダンが、ミズカワマイに捕マっタんだと。」

「―何だと!?ちっ、あのアマ…!そろそろスカウトってタイミングだったのに…1度ならず2度までも興を削ぐマネしやがって!」

ルドルスは杖を握り締めた右手で壁を殴り付け、穴を空けた。

「へへ…いい気味だな…。」

「…何だと?」

薄ら笑う少年を、ルドルスが睨み付ける。

「思い通りにならなくていい気味だな、って言ったんだ…!いくら強くたって、悪さしてればこういうバチが当たるんだよ…!」

「…ククク。そうか、こいつが天罰か。なら、カミサマとやらの御慈悲に感謝しねえとな。これっぽっちの事で悪を裁いたつもりになってくださりありがとうございます、ってよ。」

ルドルスは人差し指でいい加減に十字を切り、白々しく両手を組んだ。

「ふん、強がるなよ…!戦力が強化できなかったんだ…きつくないわけないだろ…!」

「クク…オレは興を削がれたと言っただけなんだが、聞いてなかったか?オレらの組織にとっちゃ、頭領カシラの消滅が唯一無二の痛手…いや、致命傷だ。それ以外は、何のダメージにもならねえ。まして、スカウト予定のヤツを潰されたくらいの事なんざな。」

黒髪の少年もはっきりと感じた。

ルドルスは強がりでも冗談でもなく、本気で言っている。そして過信でも油断でもなく、実際にリーダーが生き延びる限り、彼らに消滅の危機はないと。

「ところで、だ。延々と痛めつけられるだけってのも、つまらねえだろ?そろそろ外に出たくねえか?雑兵にしろ雑用にしろ、面白い働きができるようなら長生きさせてやるぜ?」

「断る!!おれだって封殺者だ!!お前らなんかに協力できるか!!」

「ほう、威勢がいいな。」

吠える少年に、ルドルスは獰猛な笑みを浮かべていた。
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