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第2章 飛躍の翼
忌まわしき追憶
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午後1時、ファラームの外れにて。
「父親は大体夜10時前に帰ってたんだけど、その日は俺が帰った時…4時20分には車が戻っててな。」
修行の前に、4年前の話を伝える事にした。
虫酸が走る思い出話を、努めて淡々と。
「体調崩したのかとか、忘れ物したのかとか思いながら家に入ったら、父親に『来るな』って叫ばれて…耳貸さねぇで近付いたら、親と変な2人組が睨み合ってた。」
「…それが黒い鎧のジジイと、金髪と黒髪ゴチャ混ぜのヤローとやらか。」
天城に浅く頷き、続けた。
「鎧のジジイが父親に『従え』って言って…父親が突っぱねて、ジジイが俺に向けて右手を開いたと思ったら、紙クズみてぇに吹き飛ばされた。体中切り刻まれてな。その時は痛みばっかりで何されたかてんで分からなかったけど、野郎も風使いなのかもな…。」
「…その後は?」
「ジジイにもう1発浴びせられるところだったのを、父親に庇われた。父親は物凄い声で怒鳴ったけど、ジジイは『お前が従わないからお前の家族が苦しむ』『従えばもう手荒な真似はしない』って返した。『息子に手を出しておいて』って文句言った母親は、金髪と黒髪混ざった野朗の汚い杖で殴られて倒れた…。」
「…それで…竜刃さまは…鎧の男に…従ったの…?」
「…ええ。」
皆が舞さんを見やり、俺も言葉が止まったが、ひとまず話を進めた。
「奴が母親を人質にとって『従わないなら妻も餓鬼も殺す』って言ったら、父親は『今後は身内に手を出すな』って答えて…そしたらジジイの身体からどす黒い煙が出て、父親に張り付いた。父親は目付きも声も口調も、ジジイと同じになった。」
「身体を乗っ取られた、ッてとこか…。」
「そうらしいな。意地で身体動かしてジジイに向かって行ったけど、頭を1発殴られた途端に物凄い痛みがして…次に気が付いた時は、病院にいた。」
「嵐刃が1時間くらいしてから帰って、救急車呼んだって話だったよな。」
「ああ。で、病室で今の話を聞いた。」
「…と、大体こんなところかな…何か、疑問でもあるか?」
誰もが俯き、視線は交わらない。
ややあって沈黙を破ったのは、ユナだった。
「…ジャボンの調べだと、ヒョウカさんとカケルさんにはずっと黙ってたみたいだね。どうして今になって話したの?」
「…ストーカーのてめぇらなら、それも察しが付くんだろ。」
「付かないから聞いてるの。言葉にも文字にもされてないこと…特に人の気持ちは、本人に聞かないと分からないでしょ。」
「あれれー。ストーカーなのは認めるのー?」
「違う…って言いたいけどあんまり否定できないし、その辺はもうご自由に。」
煽る氷華と、疲れと諦めを露わに匙を投げたユナに、皆が苦笑する。
俺も少しだけ、肩の力が抜けた思いで答えた。
「何で今になって、か…色々な意味で、てめぇが理由かもな。」
「私?」
「事情を話さねぇ奴のために引っかき回されるのがどれだけ迷惑か、てめぇの件で身に染みたからな。同じ馬鹿はやりたくねぇって思ったんだよ。」
「…そう。反面教師にしてもらえるなら、私の間違いも全くのムダじゃなかったかな。」
ユナは両目を閉じて少しだけ寂しげに、しかしどこか嬉しそうに微笑んだ。
「何より連れの前でジジイと杖野朗を探せなんて言ったんじゃ、もう話さねぇ訳にいかねぇだろ。…まあ、余計な口出しされてなきゃ、まだタイミングに悩んでたかもしれねぇけど。」
「何が余計だ、こら。」
「どうだ?引っ張りに引っ張った話、少しは面白かったか?」
兄を無視して嘴の下で自嘲の笑いをこぼし、氷華と天城に問う。
「…この流れで面白エなンて言えるほど、シャレた育ちしてねエよ…。」
「…ごめんね。そんな大変な理由だなんて思わないで、今まで軽々しく聞いちゃって…。」
「…別に。兄弟2人暮らしなんてしてりゃ親はどうしてるって思われて当たり前だし、気にしてねぇよ。学校の連中みたく、ニュースで知ってるくせにわざとらしく訊いてたなら別だけどな。」
視線を外し、短く息を吐いた。
「こっちこそ、さっさと喋れば済むもんを黙ってて悪かったな。面白くも何ともない家庭の事情なんか聞いた方も困るだけとか、言ったところでどうなる訳でもないとか理由付けてたけど…要は、情けない有様を話したくねぇだけだったんだ…。」
「…話してくれてありがとね。もしその2人組が見つかったら、絶対たたきのめしちゃおう!」
「そこは賛成だ。たッぷり焼き入れてやるゼ!」
「…気合い入れるのは良いが、用心しとけよ。今話した鎧のジジイが、ディザーって野郎かもしれねぇからな。」
俺がさらりと告げた一言に、全員が固まった。
「…何でそう思うンだ?」
「家の父親、太っても痩せてもない褪せた水色髪の50代だからさ。」
「それって、ティグラーブさんが言ってた…!」
「やっぱり分かってたんじゃないか。全く…黙ってて取り返しの付かない事になったら、どうするつもりだったんだ。」
「抑えろって。そうならねえで済んだんだし、ゴチャゴチャ言わねえでやれよ。」
始まりかけた兄の説教は、紅炎さんに遮られて不発に終わった。
「…そっか。じゃ、思い切りきたえないとね!」
「…おい、ちゃんと聞いてたか?ディザーって奴かもしれねぇって…。」
「聞いてたよ。それがどうかした?」
「どうって、お前…そいつが魄力250万っての、忘れたんじゃねぇだろうな…。」
「それより強くなっちゃえばいいじゃんか。嵐兄さんや水さんもそう言ったでしょ。」
呆れながら言ったが、柔軟体操を始めた氷華はあっけらかんとしていた。
「…もし鎧のジジイがディザーなら、俺が落とし前を付けるのが筋だ。お前等が首突っ込む問題じゃねぇんだぞ。」
「何言ってンだ。オレらだッて無関係じゃねエゼ。ディザーとやらを含めてロクでもねエ連中を潰せるかッてのが、ティグラーブとの賭けなンだからよ。」
「だから、その賭けも俺1人で…。」
不安を抱えつつ宣言しようとしたが、兄にごく軽く頭を叩かれた。
「何度も同じ事言わせるな。お前1人でそんな真似できる訳ないだろ。」
「そもそも1人でも抜ければ、撤回禁止の約束に違反します。筋のお話をなさるなら、『この先何があっても逃げるな』と仰るのが筋ではありませんか?」
挑戦的な笑顔を浮かべながら魅月さんが言う。
この人も割と口が上手いなと内心歯噛みしながら反論しようとしたところ、紅炎さんが先手を打って来た。
「お前さんなりに俺らを心配してくれてんだよな。サンキュー、フウ坊。けどもし俺らが殺されたって、お前さんが責任とか感じる必要ねえよ。元々みんな、その可能性も覚悟で魔界まで来たはずだしな。」
紅炎さんの言葉に、皆を見やる。
全員が、迷いも恐れもない笑みを浮かべていた。
「…馬鹿女は拒否権なしとして、舞さんまで降りないつもりですか?」
「…あらまあ…むしろ…何で…私だけ…抜けても…せーふ扱い…なのでしょう…?」
「そりゃ、舞さんはティグラーブと賭けた訳じゃないですから。今ならまだ…。」
「…ディザーから…逃げられるって…?…そんな…情けないセリフ…言ったら…弟に…顔向け…できません…。」
「ジャボンの調べ以上のブラコンさんだね、マイさんって…今、弟さんは関係ないでしょ…。」
「…関係…大あり…。」
苦笑いするユナに、舞さんは至極真面目に返す。
「…カオス=エメラルド探し…手伝うから…弟を捜してって…私から…言ったのに…今更…ディザーが…怖いから…さよならとか…勝手すぎ…そんな姉…自慢に思う…弟なんか…いるわけ…ないでしょ…。」
「あ、それはそっか。」
「…まあ、そこまで言うなら御自由に。」
皆に背中を向け、腕組みをした。
「防げる無駄死にを防げなかったら責任取れないから、伝える事は全部伝えた。それでも退かないなら、どこのどいつに殺されようが知りませんよ。」
「…うっ…相変わらず…冷たい…お弟子さんですな…しくしく…。」
「誰が弟子ですか!」
あまりにもわざとらしい嘘泣きと覚えのない門下生扱いに反射的に振り向き、木刀で右切り上げを放つ。
勢い良く飛び出した風の斬撃が土煙を立ち込めさせた時、舞さんはもう俺の背後を取っていた。
「…これから…みんなで…鍛えるんでしょ…?…今の…戦力的に…私が…先生役に…なりそうだし…それなら…みんな…封殺者になるのと…同じじゃない…?」
「折角だけど、僕等は封殺者にはならないぞ。めんどそうだしな。お前に世話になるのは、単に修行の相手としてだ!」
模造刀を抜いた兄が翼を広げて直進し、唐竹割りを仕掛ける。
舞さんは強めに地を蹴って跳ぶと、兄目掛けて水の弾丸を放った。
「父親は大体夜10時前に帰ってたんだけど、その日は俺が帰った時…4時20分には車が戻っててな。」
修行の前に、4年前の話を伝える事にした。
虫酸が走る思い出話を、努めて淡々と。
「体調崩したのかとか、忘れ物したのかとか思いながら家に入ったら、父親に『来るな』って叫ばれて…耳貸さねぇで近付いたら、親と変な2人組が睨み合ってた。」
「…それが黒い鎧のジジイと、金髪と黒髪ゴチャ混ぜのヤローとやらか。」
天城に浅く頷き、続けた。
「鎧のジジイが父親に『従え』って言って…父親が突っぱねて、ジジイが俺に向けて右手を開いたと思ったら、紙クズみてぇに吹き飛ばされた。体中切り刻まれてな。その時は痛みばっかりで何されたかてんで分からなかったけど、野郎も風使いなのかもな…。」
「…その後は?」
「ジジイにもう1発浴びせられるところだったのを、父親に庇われた。父親は物凄い声で怒鳴ったけど、ジジイは『お前が従わないからお前の家族が苦しむ』『従えばもう手荒な真似はしない』って返した。『息子に手を出しておいて』って文句言った母親は、金髪と黒髪混ざった野朗の汚い杖で殴られて倒れた…。」
「…それで…竜刃さまは…鎧の男に…従ったの…?」
「…ええ。」
皆が舞さんを見やり、俺も言葉が止まったが、ひとまず話を進めた。
「奴が母親を人質にとって『従わないなら妻も餓鬼も殺す』って言ったら、父親は『今後は身内に手を出すな』って答えて…そしたらジジイの身体からどす黒い煙が出て、父親に張り付いた。父親は目付きも声も口調も、ジジイと同じになった。」
「身体を乗っ取られた、ッてとこか…。」
「そうらしいな。意地で身体動かしてジジイに向かって行ったけど、頭を1発殴られた途端に物凄い痛みがして…次に気が付いた時は、病院にいた。」
「嵐刃が1時間くらいしてから帰って、救急車呼んだって話だったよな。」
「ああ。で、病室で今の話を聞いた。」
「…と、大体こんなところかな…何か、疑問でもあるか?」
誰もが俯き、視線は交わらない。
ややあって沈黙を破ったのは、ユナだった。
「…ジャボンの調べだと、ヒョウカさんとカケルさんにはずっと黙ってたみたいだね。どうして今になって話したの?」
「…ストーカーのてめぇらなら、それも察しが付くんだろ。」
「付かないから聞いてるの。言葉にも文字にもされてないこと…特に人の気持ちは、本人に聞かないと分からないでしょ。」
「あれれー。ストーカーなのは認めるのー?」
「違う…って言いたいけどあんまり否定できないし、その辺はもうご自由に。」
煽る氷華と、疲れと諦めを露わに匙を投げたユナに、皆が苦笑する。
俺も少しだけ、肩の力が抜けた思いで答えた。
「何で今になって、か…色々な意味で、てめぇが理由かもな。」
「私?」
「事情を話さねぇ奴のために引っかき回されるのがどれだけ迷惑か、てめぇの件で身に染みたからな。同じ馬鹿はやりたくねぇって思ったんだよ。」
「…そう。反面教師にしてもらえるなら、私の間違いも全くのムダじゃなかったかな。」
ユナは両目を閉じて少しだけ寂しげに、しかしどこか嬉しそうに微笑んだ。
「何より連れの前でジジイと杖野朗を探せなんて言ったんじゃ、もう話さねぇ訳にいかねぇだろ。…まあ、余計な口出しされてなきゃ、まだタイミングに悩んでたかもしれねぇけど。」
「何が余計だ、こら。」
「どうだ?引っ張りに引っ張った話、少しは面白かったか?」
兄を無視して嘴の下で自嘲の笑いをこぼし、氷華と天城に問う。
「…この流れで面白エなンて言えるほど、シャレた育ちしてねエよ…。」
「…ごめんね。そんな大変な理由だなんて思わないで、今まで軽々しく聞いちゃって…。」
「…別に。兄弟2人暮らしなんてしてりゃ親はどうしてるって思われて当たり前だし、気にしてねぇよ。学校の連中みたく、ニュースで知ってるくせにわざとらしく訊いてたなら別だけどな。」
視線を外し、短く息を吐いた。
「こっちこそ、さっさと喋れば済むもんを黙ってて悪かったな。面白くも何ともない家庭の事情なんか聞いた方も困るだけとか、言ったところでどうなる訳でもないとか理由付けてたけど…要は、情けない有様を話したくねぇだけだったんだ…。」
「…話してくれてありがとね。もしその2人組が見つかったら、絶対たたきのめしちゃおう!」
「そこは賛成だ。たッぷり焼き入れてやるゼ!」
「…気合い入れるのは良いが、用心しとけよ。今話した鎧のジジイが、ディザーって野郎かもしれねぇからな。」
俺がさらりと告げた一言に、全員が固まった。
「…何でそう思うンだ?」
「家の父親、太っても痩せてもない褪せた水色髪の50代だからさ。」
「それって、ティグラーブさんが言ってた…!」
「やっぱり分かってたんじゃないか。全く…黙ってて取り返しの付かない事になったら、どうするつもりだったんだ。」
「抑えろって。そうならねえで済んだんだし、ゴチャゴチャ言わねえでやれよ。」
始まりかけた兄の説教は、紅炎さんに遮られて不発に終わった。
「…そっか。じゃ、思い切りきたえないとね!」
「…おい、ちゃんと聞いてたか?ディザーって奴かもしれねぇって…。」
「聞いてたよ。それがどうかした?」
「どうって、お前…そいつが魄力250万っての、忘れたんじゃねぇだろうな…。」
「それより強くなっちゃえばいいじゃんか。嵐兄さんや水さんもそう言ったでしょ。」
呆れながら言ったが、柔軟体操を始めた氷華はあっけらかんとしていた。
「…もし鎧のジジイがディザーなら、俺が落とし前を付けるのが筋だ。お前等が首突っ込む問題じゃねぇんだぞ。」
「何言ってンだ。オレらだッて無関係じゃねエゼ。ディザーとやらを含めてロクでもねエ連中を潰せるかッてのが、ティグラーブとの賭けなンだからよ。」
「だから、その賭けも俺1人で…。」
不安を抱えつつ宣言しようとしたが、兄にごく軽く頭を叩かれた。
「何度も同じ事言わせるな。お前1人でそんな真似できる訳ないだろ。」
「そもそも1人でも抜ければ、撤回禁止の約束に違反します。筋のお話をなさるなら、『この先何があっても逃げるな』と仰るのが筋ではありませんか?」
挑戦的な笑顔を浮かべながら魅月さんが言う。
この人も割と口が上手いなと内心歯噛みしながら反論しようとしたところ、紅炎さんが先手を打って来た。
「お前さんなりに俺らを心配してくれてんだよな。サンキュー、フウ坊。けどもし俺らが殺されたって、お前さんが責任とか感じる必要ねえよ。元々みんな、その可能性も覚悟で魔界まで来たはずだしな。」
紅炎さんの言葉に、皆を見やる。
全員が、迷いも恐れもない笑みを浮かべていた。
「…馬鹿女は拒否権なしとして、舞さんまで降りないつもりですか?」
「…あらまあ…むしろ…何で…私だけ…抜けても…せーふ扱い…なのでしょう…?」
「そりゃ、舞さんはティグラーブと賭けた訳じゃないですから。今ならまだ…。」
「…ディザーから…逃げられるって…?…そんな…情けないセリフ…言ったら…弟に…顔向け…できません…。」
「ジャボンの調べ以上のブラコンさんだね、マイさんって…今、弟さんは関係ないでしょ…。」
「…関係…大あり…。」
苦笑いするユナに、舞さんは至極真面目に返す。
「…カオス=エメラルド探し…手伝うから…弟を捜してって…私から…言ったのに…今更…ディザーが…怖いから…さよならとか…勝手すぎ…そんな姉…自慢に思う…弟なんか…いるわけ…ないでしょ…。」
「あ、それはそっか。」
「…まあ、そこまで言うなら御自由に。」
皆に背中を向け、腕組みをした。
「防げる無駄死にを防げなかったら責任取れないから、伝える事は全部伝えた。それでも退かないなら、どこのどいつに殺されようが知りませんよ。」
「…うっ…相変わらず…冷たい…お弟子さんですな…しくしく…。」
「誰が弟子ですか!」
あまりにもわざとらしい嘘泣きと覚えのない門下生扱いに反射的に振り向き、木刀で右切り上げを放つ。
勢い良く飛び出した風の斬撃が土煙を立ち込めさせた時、舞さんはもう俺の背後を取っていた。
「…これから…みんなで…鍛えるんでしょ…?…今の…戦力的に…私が…先生役に…なりそうだし…それなら…みんな…封殺者になるのと…同じじゃない…?」
「折角だけど、僕等は封殺者にはならないぞ。めんどそうだしな。お前に世話になるのは、単に修行の相手としてだ!」
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