ヨコハマ・イン・コード――心旅の果てに、港は語る――

しらかわからし

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第1章:餃子と出会いの街──心旅、横浜より始まる

第2話:言葉と香りの記憶と北の旅

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稲盛恵子が初めて和聖の店に現れたのは、雑誌の取材帰りだった。
「駅前で焼いてる餃子って、なんだか気になって」
そう言って買って帰った餃子を、彼女は商業雑誌に記事として掲載した。
「駅前の小さな店から漂うニンニクの香りに、幼い頃の食卓の記憶がふと重なった。忘れられない味――それは、家族の温もりそのものだった」
その文章は、和聖の心に静かに響いた。
それ以来、恵子は頻繁に店に顔を出すようになり、二人は少しずつ言葉を交わすようになった。
「今日も記事を読みました。まるで小説みたいですね」
「小説家を目指してたからね」
そんな短いやり取りを積み重ねるたび、和聖の胸には、熱した鉄板から漂う香りとは違う、微かな期待が立ち上るようになった。

◇◆◇

ある日、和聖は高校の夏休みにヒッチハイクの一人旅で行った北海道の思い出を語った。
そこに来た恵子に訊いた。
「旅行とか、行かれないんですか?」
恵子は笑って答えた。
「取材では行くけど、北海道だけは行ったことがないの。いつか行ってみたいと思ってる」
その言葉が、和聖の胸に残った。

彼は店で使っていた軽ワゴンを自宅のガレージに持ち込み、夜な夜なDIYを始めた。
走行充電器を設置し、ベッドを組み、簡易トイレを備え、断熱材を貼り、カーテンを百円ショップで揃えた。
「餃子屋の三代目が作ったキャンピングカーなんて、笑えますよね? 北海道、一緒に行ってくれませんか?」
そう言って恵子を誘った和聖の顔は、少年のように輝いていた。

◇◆◇

夏に入って、灼熱の日々に二人は横浜を出発した。
目的地は、恵子がまだ見ぬ北の大地――北海道。
道中、和聖は各地の道の駅の営業終了後に餃子を焼いて無料で振る舞い、恵子はその様子を小説のネタ帳に書き留めた。
「この旅が終わったら、物語にするね」
そう言った彼女の横顔に、和聖は未来を感じていた。

北海道に入る前、津軽海峡フェリーに予約を取り、大間フェリーターミナルへ向かう前にサンホテル大間で宿泊。
近所の有名店で本マグロ丼を食べ、二人は満面の笑みを浮かべた。

明くる日は津軽海峡フェリーに乗船した。二等席でくつろぎながら、和聖はふと恵子の年齢を尋ねた。

「女性に歳を聞くのも失礼だとは思うんですけど、恵子さんっていくつなんですか?」
「え、言ってなかったっけ? いくつに見える?」
「うーん、私が二十五ですから……三つ下の二十二歳くらいでしょうか?」とお世辞を言った。
「えぇ! 白川さんって二十五歳だったの? もっと上かと思ってた」
「髪が薄くて髭が濃いからでしょうか。昔から年上に見られるんですよ」

恵子は爆笑した。

「笑うところではないですよ」
「私は白川さんより十歳年上の三十五歳。幻滅した?」
「いやいや、見えないですよ。俺は年上の女性が好きですから、ちょうどいいです。今までお付き合いさせていただいた方も年上ばかりでしたし」
「どうして年上がよかったの?」
「たまたま言い寄られる女性が年上だっただけです。でも恵子さんに関しては、美人だったから誘ったんです。年齢なんて関係なかったし、お話ししてみて気が強いところもぴったりだったからです」
「私が、気が強いってどうしてわかったの?」
「誰でもわかると思いますよ。本人だけが自覚されてないんじゃないでしょうか?」
「確かに母にもよく言われるし、近所の人にも母と性格がそっくりって言われるから」
「でしょう?」

二人は笑いながら話を続けた。
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