ヨコハマ・イン・コード――心旅の果てに、港は語る――

しらかわからし

文字の大きさ
26 / 76
第5章:港に刻まれた記憶と未来への証言――心旅は、希望を運ぶ闘いへ

第2話:父の承認と、裏帳簿の証

しおりを挟む
恵子は父親の手をそっと握った。
「お父さん、もうすぐ……全部、終わらせるから。いや私ではなくて白川さんっていう人が終わらせてくれるの」
「恵子、その白川って人は初めて聞く名前だけど」
「一緒に北海道の車旅に行った誠実な人」
「母さんは知っているのか?」
「まだ紹介していないけど、お父さんが先に会って」
「あぁ、分かったよ。お前が選んだ人だったら喜んで会うよ」
その会話は全て和聖には聞こえていた。
恵子は和聖を呼んだ。

「白川さん、来て」
「お父さん、はじめまして白川和聖しらかわかずきと申します。今、恵子さんとお付き合いをさせて頂いています。今後ともどうぞ宜しくお願い致します」
「ずいぶん、若いんだね」
「はい。恵子さんとは一回り弱下ですが、恵子さんをいやご家族も含めて幸せにしますので、お付き合いをお許し下さい」
「お父さんの治療費も白川さんが出してくれたのよ」
「そうでしたか。ありがとう。わかったよ。若いが中々しっかりしてると見えた。こんな娘で良ければどうぞ、もらって下さい」
「お父さん、ありがとうございます」
これで晴れて恵子は自分の妻として迎えられると和聖は思っていた。

◇◆◇

和聖は恵子と一緒に東京新宿区に向かった。
歌舞伎町の街は、横浜とは違う熱気を帯びていた。人の流れ、車の騒音、そして見えない力が渦巻く中、和聖と恵子そして村瀬の三人は田代の影を追い始める。

和聖は、達川の紹介を受けて港湾関係者と接触し、アヴァンによる不正契約の証拠を掴んだ。

その接触は、辰栄運輸の元契約担当者の古賀との密談だった。古賀は退職後も契約書の控えを保管しており、和聖にそれを差し出した。
「この帳簿、俺が作ったんだが、実際に動いた金は別だ。上からの指示で、裏帳簿に記録された」
古賀の声は震えていた。
「これが、証拠になるかは分からん。でも、あんたらが本気なら、使ってくれ」

和聖は深く頭を下げた。
「ありがとうございます。これは、港を変える第一歩です」

その契約は、田代が恵子に頼んだレシピをもとに立ち上げようと計画した餃子専門店に関するものであり、同店は神港インターナショナルホールディングス株式会社(東証一部・大証一部上場)の傘下に組み込まれていた。

同社は横浜港の物流・貿易を掌握する老舗財閥系企業で、飲食部門では鉄板焼「港の炎」、海鮮懐石「神潮」、カフェ・ド・ハーバーといった高級路線を展開している。
しかし今回の餃子店だけは、傘下企業であるアヴァンが独自に開発を進める意向を示していた。そして、和聖が手にしたのは、まさにその裏帳簿だった。

「これがあれば、田代は逃げられない」
だが、和聖は暴力に頼らなかった。彼は証拠をもとに、アヴァンの幹部に直接交渉を仕掛ける。

「このまま表沙汰になれば、御社の株価は暴落します。田代を引き渡してもらえれば、情報は封印します」
幹部は沈黙した。

そして、数時間後──田代祐介は、和聖と恵子の前に姿を現した。

「……久しぶりだな、恵子」
その声には、かつての余裕はなかった。

「貴方に呼び捨てされる仲じゃないでしょうよ」と言った恵子は、静かに田代を見つめた。

「あなたが壊したもの、私たちが取り戻すから」

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

熟女教師に何度も迫られて…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
二度と味わえない体験をした実話中心のショート・ショート集です

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

御曹司との交際0日婚なんて、聞いてません!──10年の恋に疲れた私が、突然プロポーズされました【完結】

日下奈緒
恋愛
10年付き合った恋人と別れ、恋に臆病になっていた30歳の千尋。そんな彼女に、取引先で出会った御曹司・神楽木律が突然のプロポーズ。「交際0日で結婚しよう」なんて冗談でしょ?──戸惑いながら始まった新婚生活。冷めた仮面夫婦のはずが、律の一途な想いに千尋の心は少しずつほどけていく。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

処理中です...