41 / 76
第6章:仮の人生と赦しの影――幻想の果てに再生はあるか
第8話:消えた希望と綾香の影と飯島の沈黙
しおりを挟む
飯島の連絡が途絶え、綾香も姿を消す。三宅との再会で、裏切りと過去の因縁が明かされる。希望は遠ざかり、村瀬の心は荒廃していく。
せっついて心証を悪くしたくない気持ちもあった。ネットで、事件の有無を確かめた。四十一歳の無職の女性が、内縁の夫を殺めたとある。顔写真を見ると、綾香とどことなく似ていた。母子なのかもしれないと思った。貧困ゆえの犯行なのだろう。
こういった時には自分にとって良いように判断してしまうものだ。
村瀬は唯一、のこった友人の三宅に連絡し、借金を申し込んだが、失職中だと言われて断られた。仕方なく高利の金に手を出し、飯島の指定した口座に振りこんだ。
三日が経ち、一週間が経ち、一か月が経ち、十月の連休が過ぎても、ネットスーパーの営業部から何の音沙汰もなかった。むろん飯島からも。
村瀬は、飯島の名刺にあった携帯番号に連絡を入れたが、呼び出しているのに応答がなかった。
しばらく待つと、メールが返ってきた。
「現在、ノロウイルスに感染し、嘔吐と下痢の為、当分出社できません」
「話は進展しているのか?」
「調査の内容は気密事項に属します。担当者にしか是非はわかりかねます」
「入院先の病院はどこだ?」
「ノロウイルス患者を受けいれていることが知れると、この病院に迷惑がかかります。ご承知おきください。メールも今後はお控えください」
それっきり、電話は通じなくなった。
頭をかすめた不安が的中した。
飯島を捜し出し、問い詰めても振りこんだ金はもとより、定款の原本ももどらないだろう。紛失届を申請すれば済むことだが、釈然としない気持ちは否めなかった。
村瀬は、綾香がいるかもしれないビジネス街へ行ってみた。はじめからいなかったかのように姿を消していた。ネットスーパーに問い合わせると、三島は四月末で退職していた。綾香が紹介すると言ったとき、すでに在籍していなかったことになる。
思い余った村瀬は、二十数年来の友、三宅を事務所に呼び出し、事の顛末を打ち明けた。他に相談できる相手もいない。村瀬が以前勤めていた警察を辞めた際に損保会社の研修生になるように勧められた時に世話になった。三宅がいなければ、今の自分がいないこともわかっていた。
代理店を辞めた理由も知りたかったが、三宅は溜息をついただけで、語ろうとしなかった。
「しょうもないことやったなぁ」と見慣れたスーツ姿ではなく、薄汚れたジャージ姿だった。
「何かまずいことでも、あったのか」
案ずると、三宅は頭をふり、村瀬の軽率さを責めた。
持参した缶ビールを飲みながら咳こみ、痩せこけた頬の顔をしかめる。
「ありきたりな手口にコロッと引っ掛かったんだな。おまえのとこ、有限会社だっただろ?おれが、世話して、知り合いの廃業する会社から譲ってもらったんだろ。いまはもう有限会社はつくれないからな。「複雑な仕事を扱う業界では、意外とこういうものにニーズがあるんだよ。」
そう言えば、名義変更にかかる費用も先方が持ってくれた。接待という名目で、売上の一部を還元していたから、こちらとしてもそれが当然の流れのように感じていた。
三宅は目を据えて、村瀬を睨んでいた。
「おれの言う通りにして、そっちの損した分以上の金が手に入ったら、その半分は、おれにくれるか?」
「お前は代理店のときと変わらないな」
「やるか、やらないのか、はっきりしろよ」
村瀬は唇を固く噛みしめ、無言で頷いた。報復の機会があるなら、手段など選ぶ気はなかった。汚かろうが卑劣だろうが、相手を叩き潰せるなら、どんな手でも使ってやる——そう腹の底で決めていた。
せっついて心証を悪くしたくない気持ちもあった。ネットで、事件の有無を確かめた。四十一歳の無職の女性が、内縁の夫を殺めたとある。顔写真を見ると、綾香とどことなく似ていた。母子なのかもしれないと思った。貧困ゆえの犯行なのだろう。
こういった時には自分にとって良いように判断してしまうものだ。
村瀬は唯一、のこった友人の三宅に連絡し、借金を申し込んだが、失職中だと言われて断られた。仕方なく高利の金に手を出し、飯島の指定した口座に振りこんだ。
三日が経ち、一週間が経ち、一か月が経ち、十月の連休が過ぎても、ネットスーパーの営業部から何の音沙汰もなかった。むろん飯島からも。
村瀬は、飯島の名刺にあった携帯番号に連絡を入れたが、呼び出しているのに応答がなかった。
しばらく待つと、メールが返ってきた。
「現在、ノロウイルスに感染し、嘔吐と下痢の為、当分出社できません」
「話は進展しているのか?」
「調査の内容は気密事項に属します。担当者にしか是非はわかりかねます」
「入院先の病院はどこだ?」
「ノロウイルス患者を受けいれていることが知れると、この病院に迷惑がかかります。ご承知おきください。メールも今後はお控えください」
それっきり、電話は通じなくなった。
頭をかすめた不安が的中した。
飯島を捜し出し、問い詰めても振りこんだ金はもとより、定款の原本ももどらないだろう。紛失届を申請すれば済むことだが、釈然としない気持ちは否めなかった。
村瀬は、綾香がいるかもしれないビジネス街へ行ってみた。はじめからいなかったかのように姿を消していた。ネットスーパーに問い合わせると、三島は四月末で退職していた。綾香が紹介すると言ったとき、すでに在籍していなかったことになる。
思い余った村瀬は、二十数年来の友、三宅を事務所に呼び出し、事の顛末を打ち明けた。他に相談できる相手もいない。村瀬が以前勤めていた警察を辞めた際に損保会社の研修生になるように勧められた時に世話になった。三宅がいなければ、今の自分がいないこともわかっていた。
代理店を辞めた理由も知りたかったが、三宅は溜息をついただけで、語ろうとしなかった。
「しょうもないことやったなぁ」と見慣れたスーツ姿ではなく、薄汚れたジャージ姿だった。
「何かまずいことでも、あったのか」
案ずると、三宅は頭をふり、村瀬の軽率さを責めた。
持参した缶ビールを飲みながら咳こみ、痩せこけた頬の顔をしかめる。
「ありきたりな手口にコロッと引っ掛かったんだな。おまえのとこ、有限会社だっただろ?おれが、世話して、知り合いの廃業する会社から譲ってもらったんだろ。いまはもう有限会社はつくれないからな。「複雑な仕事を扱う業界では、意外とこういうものにニーズがあるんだよ。」
そう言えば、名義変更にかかる費用も先方が持ってくれた。接待という名目で、売上の一部を還元していたから、こちらとしてもそれが当然の流れのように感じていた。
三宅は目を据えて、村瀬を睨んでいた。
「おれの言う通りにして、そっちの損した分以上の金が手に入ったら、その半分は、おれにくれるか?」
「お前は代理店のときと変わらないな」
「やるか、やらないのか、はっきりしろよ」
村瀬は唇を固く噛みしめ、無言で頷いた。報復の機会があるなら、手段など選ぶ気はなかった。汚かろうが卑劣だろうが、相手を叩き潰せるなら、どんな手でも使ってやる——そう腹の底で決めていた。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
御曹司との交際0日婚なんて、聞いてません!──10年の恋に疲れた私が、突然プロポーズされました【完結】
日下奈緒
恋愛
10年付き合った恋人と別れ、恋に臆病になっていた30歳の千尋。そんな彼女に、取引先で出会った御曹司・神楽木律が突然のプロポーズ。「交際0日で結婚しよう」なんて冗談でしょ?──戸惑いながら始まった新婚生活。冷めた仮面夫婦のはずが、律の一途な想いに千尋の心は少しずつほどけていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる