ヨコハマ・イン・コード――心旅の果てに、港は語る――

しらかわからし

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第6章:仮の人生と赦しの影――幻想の果てに再生はあるか

第7話:過去の影、現在の罠と金と孤独が絡み合う記憶

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過去の借金、家族との断絶、そして綾香への想い。村瀬は飯島の正体に疑念を抱きながらも、判断を曇らせていく。孤独と欲望が、彼をさらに深い罠へと導く。

 飯島が帰ったあと、村瀬はひとり思案に沈んだ。ろくに調べもせず定款と決算書を渡してしまったことを、もし妻が知れば、ひと悶着どころの騒ぎではすまないだろう。
五年前、仕事に行き詰まった村瀬は、自宅のドアに貼られていた一枚の広告に目を留めた。そこには「即日融資」「審査不要」「十日で一割」とだけ書かれていた。半ば衝動的に電話をかけ、三百万円を借りた。

「十日で一割(トイチ)」——その利息は年利換算で三六五パーセントにもなる。そんな数字が現実に存在するとは、当時の村瀬には想像もつかなかった。借入金は短い間に倍々に膨れ上がり、返済の目処はすぐに立たなくなった。
あのとき、妻の実家が肩代わりしてくれなければ、いまの暮らしはなかった。あの一件以来、村瀬は金に関することには慎重になったはずだった。はずだったのに——。

 綾香は言った。いまの暮らしに飽き飽きしていると――。

妻との関係は、もう何年も前から形だけのものになっていた。会話は必要最低限、触れ合いは皆無。正月や盆に妻の親戚が集まる席にも、村瀬は顔を出さなくなった。居心地の悪さに耐えきれず、居間の笑い声が遠くに聞こえるたび、寝室に閉じこもるようになった。

思春期を迎えた娘との距離も、年々広がっていった。村瀬がたまに昔馴染みの三宅と酒を飲み、千鳥足で帰宅しようものなら、娘は顔をしかめ、汚いものでも見たような顔をして何も言わずに自室へと逃げ込んだ。まるで、見知らぬ男に触れられたかのような拒絶の仕方だった。

家の中に居場所はない。声をかける相手もいない。
このまま、誰にも触れられず、誰にも必要とされず、人生が過ぎてゆくのか――。

その日のうちに飯島から催促の電話がかかった。月々の会費はともかく、入会金の五十万円を至急、振り込んでほしいというのだ。
「連休に入ると、どこの会社も事務関係はストップします。いまがチャンスなんです。いまなら、検討してもらえますから」
自動的に、抜かりない調査結果が依頼主に送付されるとつけ足したのだ。
村瀬は手渡された名刺の裏を見る。「振込み先の社名が、違うようなんですが。『WSF』となっているんですけど?」
飯島は待ってましたとばかりに、「和信わしんファイナンスのW、しんのS。Fは、ファイナンスを縮めて、当社では、ダブリューエスエフと略称しております。はい……」
「代表者の名前が、三島雄二なんですが?」 
「いまのところは」と、飯島は言った。「三島は、ネットスーパーの営業部長を兼務しておりましたが、不祥事がありまして北海道に左遷されるのです。はい……」

「左遷……?」

「はい、そうですが……、何か? それでですね、お急ぎいただきたいと申し上げているんです。はい……」

飯島が言うには、営業部長の愛人が、傷害事件を起こして警察に逮捕されたという。新聞にも載っていると強調した。名前を訊くと、「滝川悦子」と言った。綾香とどういう関係なのだろう?
「ネットスーパーの専務が厳格な方ですので、定款の原本をお渡しいただいたんです――写しでは信用がもうひとつ――すぐにお返ししますので」

飯島の口ぶりに、焦りが感じられた。内心では気づいていた。彼のもちかけた話が事実かどうか、確かめるべきだと。ネットスーパーの営業部に直接、問えば、ただちに判明することだ。

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