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第1章

28話-3 大家さんのご主人と韓国に出国

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ヒョリの車に乗ると、ある古ぼけたアパートの前に車を停めたので、「ここは?」と訊くと彼女が家族と離れて一人で住んでいるアパートだと説明してくれた。

独身女性の住む部屋に男の私が上がる訳にはいかなかったので、私は咄嗟に「ダメですよ」と言うと、「久留実野さんは紳士なので安心だし私の事を分かってもらうには、これしかないと思ったので」と彼女。

分かるも何もヒョリの住む部屋に上がったところで彼女の事が分かる筈もなく、「ここではなくて、喫茶店に行きませんか?」と私。

「私の部屋でお茶しましょうよ」と彼女は頑なだった。

ヒョリは、簡単に言えば娼婦だ。

その娼婦が自身の住む部屋に客である男を、それも会ったばかりの男である私を入れるには相当の覚悟が無くてはならないが、彼女のその思いに応えることにして素直に従った私だった。
 
六畳ほどの部屋に入ると、隅に煎餅布団が綺麗に畳まれていて化粧品を入れた古ぼけたボックスが一つあってストーブが置かれていて、小さなテレビと座卓があった。

正に質素な生活をしているかのようだった。
 
座卓の横に一枚の座布団を出して座らされ、彼女には座布団はなかった。
 
お茶を淹れてくれて飲むと、こんな美味しいお茶を飲んだことがなかったので感動して、「これは?」と訊くとトウモロコシのお茶と言われた。

ヒョリの中学高校時代のアルバムの写真を見せてもらい、その中にあった家族の写真も見せてもらった。
 
ヒョリは中学、高校時代はバスケットをやっていたそうで、背も高く手足も細く長く、まさに女優さんのような容姿だ。

彼女を求めるお客さんも多いのではないかと思ったが、何故にこんな質素な生活をしているのかが疑問だったので、その点を何気に訊いてみた。
 
彼女が高校二年生の時に父親が胃がんを発症し手術して摘出したが、それ以降、働くことができなく母親がパートで働き家計を助けていたそうで彼女は高校を卒業して大学に進むつもりだったが断念した。
 
資格を持っていない彼女が手っ取り早くお金を稼げるのは、これしかないと思いこの世界に飛び込んだとのことで客から貰った報酬の殆どを親に送っているとのことだった。

両親も彼女がこの世界で働いていることも知っているとのことで父親は早く働けるようになるから、それまでは申し訳ないと涙を流して彼女に言っているとのことだった。
 
この話を聞いて、私の大学生活は如何に恵まれているのかと反省させられた。

私は両親からは蔑まれていたが、祖母からの援助で大学生活を満喫させてもらっていて、彼女のような苦しみはないので胸が引き裂かれるような思いで話を聞いていた。

この事を知ったからこそ余計に彼女を抱く気持ちにはならなかった。

つづく
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