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第3話 その1:筍掘りと地下足袋の教訓
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当地の筍は出るのが遅い。以前、移動販売で行ったお宅の独居のお爺さんから「筍を掘りにおいで」と誘われていた。ボクの辞書に「NO」という言葉はない。お客様サービスの一環として、行くことにした。
週一の休みの日曜日、朝五時起きは正直辛い。だが仕方がない。筍は朝早く掘った方が良いらしい。
以前、親戚の竹山で筍を掘ったことがあった。その時は叔父さんが殆ど掘ってくれて、ボクは一本だけだったので良かった。しかし今日は十本、ボクも掘らせてもらった。お客さんは二十本掘っていた。
日頃やらない肉体労働だ。死ぬほど疲れた。腰が痛い。この二十五歳という歳で運動不足だと痛感した。
旬の季節より時期的に早く芽を出すこの筍を孟宗竹というそうだ。イネ科の植物で、まだ地面から頭を出していない若竹の幹のことらしい。ボクはそんなのを探せなかったので、頭が出ていたのを掘った。
筍は掘り立ての時期がとても柔らかい。六十分以内なら生で、刺し身で食べられるほどだという。お客さんが豪快に皮を剥いてくれた。包丁で頭の部分を切り、食べさせてくれた。
「甘くて本当に生で食べられるんですね」とボクが言うと、「美味しいだろう!」とお客さんは言った。
「丸焼きをするとまた格別なんだよ」ともおっしゃっていた。この日は忙しかったので、焚火はできなかった。
「筍掘りはどうしても服が汚れる。汚れても良い服装で来なさい」と言われていた。ボクは古い穴だらけのジーンズを穿いて行った。父親の仕事を手伝った時の長袖のシャツも着て行った。シャツにはペンキが付いている。
すると、そこのお客さんが「君は余程、貧乏なんだな?」と言った。新品のシャツを頂いてしまった。
土を掘るのは凄く大変だ。畑の土とは違ってカチンカチンに硬い。軍手が必要だったが、持っていかなかった。お客さんから頂いた。何から何まですみません。
軍手をしても、手には豆ができた。山の斜面なので足場も悪く、何度も転がった。お客さんは八十歳以上だ。転がることは一回もなかった。
ボクが転がる度に、お客さんは爆笑した。
「いやいや、久々に大声で笑わせてもらったよ」とおっしゃった。とても楽しそうだった。お客さんは地下足袋を穿いていた。ボクはスニーカーだった。そのせいだろうと思った。
今度呼ばれることがあったら、地下足袋を用意しようと思った。
掘った筍は一輪車に載せて家まで運んだ。運ぶのは楽だった。
筍掘りに使う道具は鍬とスコップだ。ボクはそれで掘った。お客さんはL字の専門の道具で掘っていた。
お客さんは頭が出ていない筍を掘り当てていた。訊いてみると「地割れしているんだよ」と一言教えてくれた。ボクにはその地割れが分からなかった。頭がちょこんと出ているのを掘った。
つづく
週一の休みの日曜日、朝五時起きは正直辛い。だが仕方がない。筍は朝早く掘った方が良いらしい。
以前、親戚の竹山で筍を掘ったことがあった。その時は叔父さんが殆ど掘ってくれて、ボクは一本だけだったので良かった。しかし今日は十本、ボクも掘らせてもらった。お客さんは二十本掘っていた。
日頃やらない肉体労働だ。死ぬほど疲れた。腰が痛い。この二十五歳という歳で運動不足だと痛感した。
旬の季節より時期的に早く芽を出すこの筍を孟宗竹というそうだ。イネ科の植物で、まだ地面から頭を出していない若竹の幹のことらしい。ボクはそんなのを探せなかったので、頭が出ていたのを掘った。
筍は掘り立ての時期がとても柔らかい。六十分以内なら生で、刺し身で食べられるほどだという。お客さんが豪快に皮を剥いてくれた。包丁で頭の部分を切り、食べさせてくれた。
「甘くて本当に生で食べられるんですね」とボクが言うと、「美味しいだろう!」とお客さんは言った。
「丸焼きをするとまた格別なんだよ」ともおっしゃっていた。この日は忙しかったので、焚火はできなかった。
「筍掘りはどうしても服が汚れる。汚れても良い服装で来なさい」と言われていた。ボクは古い穴だらけのジーンズを穿いて行った。父親の仕事を手伝った時の長袖のシャツも着て行った。シャツにはペンキが付いている。
すると、そこのお客さんが「君は余程、貧乏なんだな?」と言った。新品のシャツを頂いてしまった。
土を掘るのは凄く大変だ。畑の土とは違ってカチンカチンに硬い。軍手が必要だったが、持っていかなかった。お客さんから頂いた。何から何まですみません。
軍手をしても、手には豆ができた。山の斜面なので足場も悪く、何度も転がった。お客さんは八十歳以上だ。転がることは一回もなかった。
ボクが転がる度に、お客さんは爆笑した。
「いやいや、久々に大声で笑わせてもらったよ」とおっしゃった。とても楽しそうだった。お客さんは地下足袋を穿いていた。ボクはスニーカーだった。そのせいだろうと思った。
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掘った筍は一輪車に載せて家まで運んだ。運ぶのは楽だった。
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お客さんは頭が出ていない筍を掘り当てていた。訊いてみると「地割れしているんだよ」と一言教えてくれた。ボクにはその地割れが分からなかった。頭がちょこんと出ているのを掘った。
つづく
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