6 / 81
第1章 夏の始まりと塀の向こうの少年
第3-1話 ヒロシを探して
しおりを挟む
翌朝、綾香は祖母の家のすぐ前にある畑を案内された。畑と言っても、広めの家庭菜園といった大きさだ。
「綾香にお願いする仕事は、このトマトどミニトマトの畑のお手入れど、ご飯の支度のお手伝い。それがらお掃除どお洗濯も手伝ってほしぇしほしいし、あどヒロシの餌ど水ね」
「ヒロシ?」
「まだ会ってねがったがしらなかったかしら。うぢの雄鶏の烏骨鶏でいう品種よ」
祖母の家は広いので、まだ入ってない部屋もあるし、同居の烏骨鶏すら見つけられていなかった。それにしても鶏を家の中で飼っている祖母もやはり変わり者だと思っていた。綾香は荷解きを多少進めて、それからヒロシを捜しはじめた。会ってみたい。
居間の壁沿いに置かれたヒロシの餌入れは空になっていた。まず、居間から繋がっている台所を覗き込む。祖母は料理好きらしく、調理器具がプロ用の珍しい物までたくさんあった。
オーブンの上に籠があり、中にはたくさんの野菜や果物が詰まっていた。冷蔵庫には麦茶がポットの中に入っていた。
ヒロシは見当たらないので、台所を出る。隣はお風呂で、人間用はもちろん、烏骨鶏用のシャンプーは犬猫用と書いてあったし、鶏用のオムツだろうか一枚が干してあった。白地の布で黄色い大きな蝶ネクタイとパイナップルの模様がついていて意外に可愛いデザインだった。
後で祖母に訊くと鶏は三歩歩くと忘れるというので犬や猫と違ってトイレの躾けが出来ないから、家の中で飼う場合はフライトスーツと言って間にトイレのチリ紙を挟んで使うとの事で、町に出てペットショップで買うとの事だった。
廊下を歩いて、引き戸で区切られた他の部屋をひととおり開けてみた。綾香と祖母が寝る部屋を見た。畳が広がる室内はすっきりと片付いていて、布団や座椅子が押し入れに仕舞われていた。壁に向かって小さな卓袱台が立てかけられていて、これは綾香が宿題をやる時にでも使ってほしいと祖母が出してくれたものだ。
部屋の奥の障子を開けると縁側に出た。そこには豚の形をした蚊取り線香の煙が舞っていた。祖母の緑豊かな庭が、夏のオレンジ色の陽射しの中でより緑を明るく光らせていた。軒先の風鈴が風を受けてチリンチリンと涼しげに鳴った。
昨日は暗くてよく見えなかったけど、庭の木々はきちんと剪定されてきれいに整えられていた。
樹木の向こうに見える塀で、敷地と道路が区切られていた。
縁側を歩いて地続きの隣の家を覗き、綾香は思わず息を呑んだ。
その家の大きな表札には寺子屋となっていて、片方の部屋は黒板があり、十個ほどの座卓が置かれ、片方の部屋にはものすごい量の本が納められていた。窓以外の壁に沿ってコの字型に並べられていた本棚は、天井に着くほど高かった。その中にびっしりと本が詰まっていたのだ。それでも入り切らない本が床にも何十冊も積まれていた。本だらけの空間で、怖ささえ感じる程の圧迫感があった。
それは綾香にとって今まで読んだ事もない、妖怪と宗教に特化した本の中に小中学生が読むような本や漫画もあった。まるで五反田図書館を小さくしたような別の世界に足を踏み入れた感じだった。
本棚の中から目の高さに妖怪・宗教コーナーとあって。「日本妖怪辞典」と書かれていた。その横の本は「妖怪の誕生」、その隣は「まよけの民俗誌」「ときめく妖怪図鑑」「あやかしの恋煩い」「日本の十大新宗教」「日本の宗教」。妖怪と宗教の本ばかりだ。
「綾香にお願いする仕事は、このトマトどミニトマトの畑のお手入れど、ご飯の支度のお手伝い。それがらお掃除どお洗濯も手伝ってほしぇしほしいし、あどヒロシの餌ど水ね」
「ヒロシ?」
「まだ会ってねがったがしらなかったかしら。うぢの雄鶏の烏骨鶏でいう品種よ」
祖母の家は広いので、まだ入ってない部屋もあるし、同居の烏骨鶏すら見つけられていなかった。それにしても鶏を家の中で飼っている祖母もやはり変わり者だと思っていた。綾香は荷解きを多少進めて、それからヒロシを捜しはじめた。会ってみたい。
居間の壁沿いに置かれたヒロシの餌入れは空になっていた。まず、居間から繋がっている台所を覗き込む。祖母は料理好きらしく、調理器具がプロ用の珍しい物までたくさんあった。
オーブンの上に籠があり、中にはたくさんの野菜や果物が詰まっていた。冷蔵庫には麦茶がポットの中に入っていた。
ヒロシは見当たらないので、台所を出る。隣はお風呂で、人間用はもちろん、烏骨鶏用のシャンプーは犬猫用と書いてあったし、鶏用のオムツだろうか一枚が干してあった。白地の布で黄色い大きな蝶ネクタイとパイナップルの模様がついていて意外に可愛いデザインだった。
後で祖母に訊くと鶏は三歩歩くと忘れるというので犬や猫と違ってトイレの躾けが出来ないから、家の中で飼う場合はフライトスーツと言って間にトイレのチリ紙を挟んで使うとの事で、町に出てペットショップで買うとの事だった。
廊下を歩いて、引き戸で区切られた他の部屋をひととおり開けてみた。綾香と祖母が寝る部屋を見た。畳が広がる室内はすっきりと片付いていて、布団や座椅子が押し入れに仕舞われていた。壁に向かって小さな卓袱台が立てかけられていて、これは綾香が宿題をやる時にでも使ってほしいと祖母が出してくれたものだ。
部屋の奥の障子を開けると縁側に出た。そこには豚の形をした蚊取り線香の煙が舞っていた。祖母の緑豊かな庭が、夏のオレンジ色の陽射しの中でより緑を明るく光らせていた。軒先の風鈴が風を受けてチリンチリンと涼しげに鳴った。
昨日は暗くてよく見えなかったけど、庭の木々はきちんと剪定されてきれいに整えられていた。
樹木の向こうに見える塀で、敷地と道路が区切られていた。
縁側を歩いて地続きの隣の家を覗き、綾香は思わず息を呑んだ。
その家の大きな表札には寺子屋となっていて、片方の部屋は黒板があり、十個ほどの座卓が置かれ、片方の部屋にはものすごい量の本が納められていた。窓以外の壁に沿ってコの字型に並べられていた本棚は、天井に着くほど高かった。その中にびっしりと本が詰まっていたのだ。それでも入り切らない本が床にも何十冊も積まれていた。本だらけの空間で、怖ささえ感じる程の圧迫感があった。
それは綾香にとって今まで読んだ事もない、妖怪と宗教に特化した本の中に小中学生が読むような本や漫画もあった。まるで五反田図書館を小さくしたような別の世界に足を踏み入れた感じだった。
本棚の中から目の高さに妖怪・宗教コーナーとあって。「日本妖怪辞典」と書かれていた。その横の本は「妖怪の誕生」、その隣は「まよけの民俗誌」「ときめく妖怪図鑑」「あやかしの恋煩い」「日本の十大新宗教」「日本の宗教」。妖怪と宗教の本ばかりだ。
0
あなたにおすすめの小説
月弥総合病院
僕君☾☾
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。
また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。
(小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
月影に濡れる
しらかわからし
現代文学
和永の志、麻衣子の葛藤、美月の支えが交錯し、島から国へ未来を紡ぐ物語
第1章〜第14章 あらすじ
第1章:静かな日常の中で芽生える違和感が、人生の選択を問い直すきっかけとなる。
第2章:離島で始まる新しい暮らし。温かな笑顔の裏に潜む共同体の影が見えてくる。
第3章:再会を果たした二人は、島の人々との交流を通じて「人の顔が見える暮らし」に触れる。
第4章:料理と人の心が重なり合い、祝福と再生の中で未来への一歩が描かれる。
第5章:新生活の誓いを胸に、困難に直面しながらも夫婦として島での未来を築こうとする。
第6章:選挙の現実と店の繁盛。失望と希望が交錯し、島の暮らしに新しい仲間が加わる。
第7章:過去の影に揺れる心と、村政を学び直す決意。母としての光と女としての罪が交錯する。
第8章:仲間たちの告白と絆が語られ、村人と旧友の心が一つになる夜が訪れる。
第9章:若者の挑戦が認められ、未来への希望が芽生える。成長の声が島に響く。
第10章:政治の闇と里親制度の現実。信頼と交流の中で、島の未来を守る決意が強まる。
第11章:母の帰郷と若者の成長。教育と生活に新しい秩序と希望が芽生える。
第12章:正月を迎えた島で、新たな議員としての歩みが始まり、医療体制の改善が進む。
第13章:冬の嵐の中で議員としての決意を固め、産業と人材育成に未来を見出す。
第14章:議会の最終局面で村の課題が次々と浮かび上がり、未来への問いが刻まれる。
第15章以降は只今鋭意執筆中です。
※本作は章ごとに副題や登場人物、あらすじが変化し、主人公や語り口(一人称・三人称)も異なります。各章の冒頭で改めてご案内いたします。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる