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第1章 夏の始まりと塀の向こうの少年
第4-1話 アイスとマムシと村案内
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この村に来て五日目の午後。綾香は細かいお金がないからと言った祖母から貰った百円玉を持って出掛けようとしたがお店屋が分からないと気付いた。
「龍が来ないかな!?」と呟くと。
そこに龍児が、「どうした?」と言ってニッと笑いながら現れた。
「お祖母ちゃんがアイス買いなって言ってくれたんだけど、お店屋さんを知らないから、案内してほしいんだけど」と綾香。
綾香はまだ、祖母の家やその周辺しか歩いていなくて土地勘がなかった。
「いいよ、教えてやるよ。ついでに村を案内するよ」と言ってまた塀をヒョイッと向こう側に跳んだので、綾香も慌てて門から外に出ていった。
「お祖母ちゃん、アイス買って来るので出掛けていいかな?」と綾香が部屋の障子を開けて言う。
「気付げで行ってらっしゃい。とごろでお店屋さんはどうやって行ったらわがるの?」と祖母が訊いた。
「散歩がてら近所の人に訊きながら行ってくるから」と綾香が言う。
「そうね。それもええわね」と祖母が言った。
石ころが転がっている砂利道の丸い石を蹴飛ばしながら、近くの民家の洗濯物を干す小母さんや野菜を収穫している小父さんに挨拶して細い道を歩いた。小さなこの村では、全員が顔見知りだと言うが龍児と綾香が挨拶をすると皆、不思議な顔をした。
それもその筈で、龍児は妖怪だし、綾香は余所者だから当然、見た事のない子供からの挨拶だからだ。
周りの風景が畑から田んぼに変わって、緑色の稲穂が頭を垂れ始めていて二人が近付くとイナゴの大群が飛び散った。畦道の向こうの民家に比べて、ひと際大きい木造の建物とグラウンドが見えた。その建物を指さして龍児が言った。
「あれがこの村の子供たちが通っている小中学校だよ」
平屋造りの小さな木造の校舎と、その横に畑と小さなジャングルジムやブランコが。見通しのいい道のお陰で、遠くからでもそれだけはハッキリと確認できた。
畦道を歩いている内に、傍に生えていた枯れた姫竹を一本、むしり取った。普通の大人の男でも細いタケノコを根元からむしり取る事などは絶対にできないが、龍児には魔術があるのでいとも簡単にやってのけるのだ。
その先をマムシの頭に突き刺して反対側の先を地面に突き刺した。
「何で蛇なんか取るの?」
「これはマムシって言うんだけど、食べても美味しいし、生きたまま焼酎に漬けたり、干して乾燥させたりして、すりおろせば薬にもなるんだよ。火傷や擦り傷につければあっと言う間に治るからさ。綾香が東京に帰る日までに薬にして持たせてやろうと思ってさ」
「そんなの要らないよ。東京には全世界からの有りとあらゆる薬があるんだから」
「俺の秘密を守ってくれる綾香に俺がこの地で、今してやれる事って言ったらこんなことぐらいだからさ」
「そっか、そういう気持ちなら有難く頂くね」
「そう言ってくれると嬉しいよ」
「あと、この秋田で『タケノコ』と言えば、この『ひめたけ』で別名を、『ねまがりたけ』とも言うんだ。幸子は旬になると煮物などにして公民館の老人会の集まりに持って行ったんじゃないのかな」
そんな話しをしていると、あっという間に学校の前に着いた。
「で、学校の向かいにあるのがウツツガワ商店だよ。ここでしか人間が食べるアイスを買う事ができないんだ。もっとも俺はアイスなるものをここでは食べた事はないけどな」
龍児の言うウツツガワ商店は、学校から道路を挟んで目と鼻の先にある。こちらも木造の古い家屋だった。薄汚れた看板に、レトロなペンキの文字で『ウツツガワ商店』と店の名前が掲げられていた。手前に塗装の剥げた赤い木製のコカ・コーラの看板が付いたベンチが置かれていて、腰が曲がり杖を持ったお爺さんがひとりで休んでいた。
「俺は学校の校庭で遊んでるから」と龍児が言った。
綾香は車通りのない道路を渡って、すりガラスの扉を開けると店内は暗くそれでも認識できるだけでも豊富な商品が並んでいた。
綾香が店に入りながら店主に声をかける。
「こんにちは、アイスください」
「お姉ちゃんは何処の子だい?」
「幸子お祖母ちゃんの家に泊まりに来ています」
「幸子さんのお孫さんね」
綾香が店の中をグルッと見て歩くと、文房具とか野菜とか、お惣菜や手作りのドーナツなども売っていて、村人はここで買い物をするみたいで、所々が禿げた三和土の床に木製の商品棚が並ぶ。
ノートが各種並んでいたかと思えば駄菓子もずらりと並び、奥には氷を入れたショーケースに入った冷たい飲み物も充実していた。
「龍が来ないかな!?」と呟くと。
そこに龍児が、「どうした?」と言ってニッと笑いながら現れた。
「お祖母ちゃんがアイス買いなって言ってくれたんだけど、お店屋さんを知らないから、案内してほしいんだけど」と綾香。
綾香はまだ、祖母の家やその周辺しか歩いていなくて土地勘がなかった。
「いいよ、教えてやるよ。ついでに村を案内するよ」と言ってまた塀をヒョイッと向こう側に跳んだので、綾香も慌てて門から外に出ていった。
「お祖母ちゃん、アイス買って来るので出掛けていいかな?」と綾香が部屋の障子を開けて言う。
「気付げで行ってらっしゃい。とごろでお店屋さんはどうやって行ったらわがるの?」と祖母が訊いた。
「散歩がてら近所の人に訊きながら行ってくるから」と綾香が言う。
「そうね。それもええわね」と祖母が言った。
石ころが転がっている砂利道の丸い石を蹴飛ばしながら、近くの民家の洗濯物を干す小母さんや野菜を収穫している小父さんに挨拶して細い道を歩いた。小さなこの村では、全員が顔見知りだと言うが龍児と綾香が挨拶をすると皆、不思議な顔をした。
それもその筈で、龍児は妖怪だし、綾香は余所者だから当然、見た事のない子供からの挨拶だからだ。
周りの風景が畑から田んぼに変わって、緑色の稲穂が頭を垂れ始めていて二人が近付くとイナゴの大群が飛び散った。畦道の向こうの民家に比べて、ひと際大きい木造の建物とグラウンドが見えた。その建物を指さして龍児が言った。
「あれがこの村の子供たちが通っている小中学校だよ」
平屋造りの小さな木造の校舎と、その横に畑と小さなジャングルジムやブランコが。見通しのいい道のお陰で、遠くからでもそれだけはハッキリと確認できた。
畦道を歩いている内に、傍に生えていた枯れた姫竹を一本、むしり取った。普通の大人の男でも細いタケノコを根元からむしり取る事などは絶対にできないが、龍児には魔術があるのでいとも簡単にやってのけるのだ。
その先をマムシの頭に突き刺して反対側の先を地面に突き刺した。
「何で蛇なんか取るの?」
「これはマムシって言うんだけど、食べても美味しいし、生きたまま焼酎に漬けたり、干して乾燥させたりして、すりおろせば薬にもなるんだよ。火傷や擦り傷につければあっと言う間に治るからさ。綾香が東京に帰る日までに薬にして持たせてやろうと思ってさ」
「そんなの要らないよ。東京には全世界からの有りとあらゆる薬があるんだから」
「俺の秘密を守ってくれる綾香に俺がこの地で、今してやれる事って言ったらこんなことぐらいだからさ」
「そっか、そういう気持ちなら有難く頂くね」
「そう言ってくれると嬉しいよ」
「あと、この秋田で『タケノコ』と言えば、この『ひめたけ』で別名を、『ねまがりたけ』とも言うんだ。幸子は旬になると煮物などにして公民館の老人会の集まりに持って行ったんじゃないのかな」
そんな話しをしていると、あっという間に学校の前に着いた。
「で、学校の向かいにあるのがウツツガワ商店だよ。ここでしか人間が食べるアイスを買う事ができないんだ。もっとも俺はアイスなるものをここでは食べた事はないけどな」
龍児の言うウツツガワ商店は、学校から道路を挟んで目と鼻の先にある。こちらも木造の古い家屋だった。薄汚れた看板に、レトロなペンキの文字で『ウツツガワ商店』と店の名前が掲げられていた。手前に塗装の剥げた赤い木製のコカ・コーラの看板が付いたベンチが置かれていて、腰が曲がり杖を持ったお爺さんがひとりで休んでいた。
「俺は学校の校庭で遊んでるから」と龍児が言った。
綾香は車通りのない道路を渡って、すりガラスの扉を開けると店内は暗くそれでも認識できるだけでも豊富な商品が並んでいた。
綾香が店に入りながら店主に声をかける。
「こんにちは、アイスください」
「お姉ちゃんは何処の子だい?」
「幸子お祖母ちゃんの家に泊まりに来ています」
「幸子さんのお孫さんね」
綾香が店の中をグルッと見て歩くと、文房具とか野菜とか、お惣菜や手作りのドーナツなども売っていて、村人はここで買い物をするみたいで、所々が禿げた三和土の床に木製の商品棚が並ぶ。
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