12 / 81
第1章 夏の始まりと塀の向こうの少年
第4-2話 ホームランバーと祭りの予感
しおりを挟む
「はいよ、アイスね」
冷凍ショーケースの中にミルク味のホームランバーを見付けた綾香は取り出して「これを二本下さい」
祖母から預かった百円玉を渡して八十円のお釣りをもらって店を後にした。
学校の校庭を見ると、龍児は鉄棒に右手のし指一本だけでぶら下がっていて、その後はその指だけで大車輪をし出した。
綾香は目をまん丸くして近付くと龍児は回るのをやめて、ポンと目の前に飛んできた。
「龍児は本当に運動神経抜群なんだね?」
「まぁな」とそう言って得意げな顔をした龍児。
「暑いから食べようよ」と龍児に渡すと、彼はその銀紙の包みを器用に開けて、「食べ終わったら棒に当たりがあるんだよな」と言った。
「食べた事が無いのに知っているの?」と綾香。
「うん。知っているよ。何度も人間で生まれて来ては死んだのを繰り返していたから」と龍児。
「何でもお見通しなんだね」と綾香。
「まぁね。俺のは、外れたけど、綾香のにはホームランの焼き印が付いているから、もう一本貰って幸子に持って行くといいよ」と龍児。
小川に足を投げ出して二人で座って、「今更だけれど、現川村には遊べる施設がないよね」と綾香が言うと龍児がアイスを口から離した。
「現川祭りっていう、俺たち妖怪を祓うお祭りがあるんだよ」
それを聞いて綾香がアイスを口から離して、「えっ、そんなのがあるんだ?」
「妖怪を信じてない人間が増えてきているらしいけど、昔から続けている現川村の最大のイベントなんだ」
答えた龍児に綾香は尋ねた。
「お祭りか、屋台とかあるのかな?」
「俺が言うのも変だけど。あるよ。村の青年団のお兄さんたちが、綿飴とか金魚すくいとかやっているから」
「花火とかもあるのかな?」
「うん。毎年あるよ」
「花火! いいなあ! 行きたいな!」
由来こそ妖怪のお祓いのようだが、内容は普通の縁日みたいなもののようだ。
「いつやるの?」
「毎年、八月の最後の土曜日だよ」
「その頃、まだ綾香はこっちにいるよね。行けばいいんじゃない?」
「うん」
食べ終ると綾香の棒にホームランの焼き印が付いていた。
「龍の言った通りだ!」
「だろ。幸子に持って行くといいよ。俺に食べさせたのは内緒にしろよな」
それにしても龍は様々な魔法をもっているようだ。今回は透視だった。こんなド田舎でも綾香にとって楽しみができた。
商店に行って、焼き印の付いた棒を渡してもう一本貰って振り返ると、いつの間にか龍児の姿は消えていた。(あれっ)と見渡してみたが、どこにもいなかった。
◇◆◇
家に戻って台所で野菜を洗っている祖母にお釣りと溶けたアイスを渡すと祖母が「何買ったの?」と訊いた。
「ホームランバーだよ」と綾香。
「確が一本十円でねがった?」と祖母。
「そうだけど、二本買って食べたからお釣りは八十円だよ」と綾香。
「お祖母ぢゃんのはえがったども」と祖母。
「折角、買って来たんだから食べてよ」と綾香と優しい目で言った。
「どうもな」と祖母はにこやかに笑った。
「商店で教わったんだけど、現川祭りに行くことにしたよ」と綾香。
流しの中にザルに入った野菜に当たって撥ね返る水がキラキラと反射していた。
「えわね。がりっと妖怪あやがしお祓いしねどね。んだ。お祖母ぢゃんも浴衣着るがら綾香も着るべよ」と言って、祖母が目を輝かせて言った。
綾香も東京では浴衣を着る事もなかったので、「うん、着たい」と言いながら、龍児に可愛い姿を見せたかったからだ。
「そういえば、以前さ綾香のためさ縫っておいだんだ。白地さ赤や黄色のハイビスカスの模様染めであるめんけ浴衣があるのよ 綾香さ絶対似合うがら」
火が点いてしまった祖母は、洗っていた野菜を放り出して、浴衣を探しに廊下に出て小走りに部屋に向かって叫んだ。
「綾香、おいで」
「はい」
「着せでけるわね」
「良ぐ似合ってらでね」
「そうかな」と言って縁側に出ると、龍児が立っていた。
「あっ、龍児、さっきはなんで急に消えたの?」
「祭の日が分かったから、神社はもう準備で始まっているのかと思って、様子を見に行っていたんだ」
綾香はここに来た日に見た森の奥の神社だ。
「誰ど話してらの?」と祖母が。
「誰とも話してないよ」と綾香。
冷凍ショーケースの中にミルク味のホームランバーを見付けた綾香は取り出して「これを二本下さい」
祖母から預かった百円玉を渡して八十円のお釣りをもらって店を後にした。
学校の校庭を見ると、龍児は鉄棒に右手のし指一本だけでぶら下がっていて、その後はその指だけで大車輪をし出した。
綾香は目をまん丸くして近付くと龍児は回るのをやめて、ポンと目の前に飛んできた。
「龍児は本当に運動神経抜群なんだね?」
「まぁな」とそう言って得意げな顔をした龍児。
「暑いから食べようよ」と龍児に渡すと、彼はその銀紙の包みを器用に開けて、「食べ終わったら棒に当たりがあるんだよな」と言った。
「食べた事が無いのに知っているの?」と綾香。
「うん。知っているよ。何度も人間で生まれて来ては死んだのを繰り返していたから」と龍児。
「何でもお見通しなんだね」と綾香。
「まぁね。俺のは、外れたけど、綾香のにはホームランの焼き印が付いているから、もう一本貰って幸子に持って行くといいよ」と龍児。
小川に足を投げ出して二人で座って、「今更だけれど、現川村には遊べる施設がないよね」と綾香が言うと龍児がアイスを口から離した。
「現川祭りっていう、俺たち妖怪を祓うお祭りがあるんだよ」
それを聞いて綾香がアイスを口から離して、「えっ、そんなのがあるんだ?」
「妖怪を信じてない人間が増えてきているらしいけど、昔から続けている現川村の最大のイベントなんだ」
答えた龍児に綾香は尋ねた。
「お祭りか、屋台とかあるのかな?」
「俺が言うのも変だけど。あるよ。村の青年団のお兄さんたちが、綿飴とか金魚すくいとかやっているから」
「花火とかもあるのかな?」
「うん。毎年あるよ」
「花火! いいなあ! 行きたいな!」
由来こそ妖怪のお祓いのようだが、内容は普通の縁日みたいなもののようだ。
「いつやるの?」
「毎年、八月の最後の土曜日だよ」
「その頃、まだ綾香はこっちにいるよね。行けばいいんじゃない?」
「うん」
食べ終ると綾香の棒にホームランの焼き印が付いていた。
「龍の言った通りだ!」
「だろ。幸子に持って行くといいよ。俺に食べさせたのは内緒にしろよな」
それにしても龍は様々な魔法をもっているようだ。今回は透視だった。こんなド田舎でも綾香にとって楽しみができた。
商店に行って、焼き印の付いた棒を渡してもう一本貰って振り返ると、いつの間にか龍児の姿は消えていた。(あれっ)と見渡してみたが、どこにもいなかった。
◇◆◇
家に戻って台所で野菜を洗っている祖母にお釣りと溶けたアイスを渡すと祖母が「何買ったの?」と訊いた。
「ホームランバーだよ」と綾香。
「確が一本十円でねがった?」と祖母。
「そうだけど、二本買って食べたからお釣りは八十円だよ」と綾香。
「お祖母ぢゃんのはえがったども」と祖母。
「折角、買って来たんだから食べてよ」と綾香と優しい目で言った。
「どうもな」と祖母はにこやかに笑った。
「商店で教わったんだけど、現川祭りに行くことにしたよ」と綾香。
流しの中にザルに入った野菜に当たって撥ね返る水がキラキラと反射していた。
「えわね。がりっと妖怪あやがしお祓いしねどね。んだ。お祖母ぢゃんも浴衣着るがら綾香も着るべよ」と言って、祖母が目を輝かせて言った。
綾香も東京では浴衣を着る事もなかったので、「うん、着たい」と言いながら、龍児に可愛い姿を見せたかったからだ。
「そういえば、以前さ綾香のためさ縫っておいだんだ。白地さ赤や黄色のハイビスカスの模様染めであるめんけ浴衣があるのよ 綾香さ絶対似合うがら」
火が点いてしまった祖母は、洗っていた野菜を放り出して、浴衣を探しに廊下に出て小走りに部屋に向かって叫んだ。
「綾香、おいで」
「はい」
「着せでけるわね」
「良ぐ似合ってらでね」
「そうかな」と言って縁側に出ると、龍児が立っていた。
「あっ、龍児、さっきはなんで急に消えたの?」
「祭の日が分かったから、神社はもう準備で始まっているのかと思って、様子を見に行っていたんだ」
綾香はここに来た日に見た森の奥の神社だ。
「誰ど話してらの?」と祖母が。
「誰とも話してないよ」と綾香。
0
あなたにおすすめの小説
月弥総合病院
僕君☾☾
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。
また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。
(小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
月影に濡れる
しらかわからし
現代文学
和永の志、麻衣子の葛藤、美月の支えが交錯し、島から国へ未来を紡ぐ物語
第1章〜第14章 あらすじ
第1章:静かな日常の中で芽生える違和感が、人生の選択を問い直すきっかけとなる。
第2章:離島で始まる新しい暮らし。温かな笑顔の裏に潜む共同体の影が見えてくる。
第3章:再会を果たした二人は、島の人々との交流を通じて「人の顔が見える暮らし」に触れる。
第4章:料理と人の心が重なり合い、祝福と再生の中で未来への一歩が描かれる。
第5章:新生活の誓いを胸に、困難に直面しながらも夫婦として島での未来を築こうとする。
第6章:選挙の現実と店の繁盛。失望と希望が交錯し、島の暮らしに新しい仲間が加わる。
第7章:過去の影に揺れる心と、村政を学び直す決意。母としての光と女としての罪が交錯する。
第8章:仲間たちの告白と絆が語られ、村人と旧友の心が一つになる夜が訪れる。
第9章:若者の挑戦が認められ、未来への希望が芽生える。成長の声が島に響く。
第10章:政治の闇と里親制度の現実。信頼と交流の中で、島の未来を守る決意が強まる。
第11章:母の帰郷と若者の成長。教育と生活に新しい秩序と希望が芽生える。
第12章:正月を迎えた島で、新たな議員としての歩みが始まり、医療体制の改善が進む。
第13章:冬の嵐の中で議員としての決意を固め、産業と人材育成に未来を見出す。
第14章:議会の最終局面で村の課題が次々と浮かび上がり、未来への問いが刻まれる。
第15章以降は只今鋭意執筆中です。
※本作は章ごとに副題や登場人物、あらすじが変化し、主人公や語り口(一人称・三人称)も異なります。各章の冒頭で改めてご案内いたします。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる