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第1章 夏の始まりと塀の向こうの少年
第4-3話 神社への道とふたりの秘密
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綾香は小さな声になって「龍、ちょっと待ってて」と言って部屋に入って浴衣を脱いで洋服を着ながら「お祖母ちゃん、遊んでくるね」と綾香。
「うん。行ってらっしゃい」と祖母。
綾香はそのまま玄関から外に出て、門の外で待っていた龍児に話し掛けた。
「神社って、村の入口にある、あの大きな所だよね?」と綾香。
「そうだよ、川の向こうの。あそこがお祭の会場なんだ。まだいつもどおりで雑草が生えていて、なんにも変わってなかったけどな」と龍児。
「そうか、龍児はお祭で祓われる側の妖怪だから、特別に用心しているんだよね?」と心配した綾香。
「この辺の村人が、妖怪を嫌っているなんて話は、本当の妖怪からしたら悲しかったよね。ごめんね」と綾香は話しを続け謝った。
龍児は平気な顔で言った。
「気にすんなって。嫌われているのは昔から知っているし。俺ら妖怪も人間嫌いが多いから、お互い様だよ。でも俺は綾香、お前だけは好きだけどな」と龍児。
「自分たちをお祓いされるお祭なんてやっている人間が好きな訳ないよね?」と綾香は悲しそうな顔で。
「だから、俺は他の人間は好きではないけど、いやどうでもいいけど、綾香だけは好きだから」と顔を真っ赤にした龍児。
「ありがとう。私も龍児の事が好きだよ」と綾香は本当にそう思ったし、これが初恋なのかとさえ思っていた。
「そっか、それは有難いな。それにさっきの浴衣姿は最高に可愛かったぞ!」と龍児。
「本当にそう思ってくれたの?」と綾香。
「あぁ。最高に綺麗だったし、可愛かったよ」と龍児。
「ありがとう。ねえ、龍、現川神社に行かない?」と綾香。
「うん、いいよ。現川神社はお祭の会場で、妖怪が村に来ないように建てられた神社なんだよ」と龍児。
「なんか滑稽だよね。妖怪を神様のつかいとして有難く祀っている神社は聞いたことあるけど、妖怪をお祓いするための神社に、本物の妖怪と一緒に行くなんてね」と綾香。
そういえば、祖母もそんなような事を言っていたと思い出した。奈良時代に神社ができて、妖怪が村に降りてこないように術をかけたとか。
「うん。連れて行くよ」と龍児。
綾香たちは現川神社に向かって二人で歩き出した。
綾香は、ふと隣の龍児に目をやった。
「そういえば龍児は、大丈夫なの? 妖怪をお祓いするために作られたんでしょ。さっき様子見てきたって言っていたけど、妖怪を祓う神社なら龍児は近付けないんじゃないの?」と心配した綾香。
「いや、全くと言って良いほど大丈夫だよ。クサノオウやムラサキケマンなどの毒草が伸び放題であんまり手入れされてないから。妖怪避けというのは人間だけの妄信で、その効力は発揮されていない感じだったからね」と龍児。
「毒草?」と綾香。
「うん、家畜なんかが、いや人間もそうだけど食べたら、死に至る毒草ばかりが生えているから不思議だけどね。ま、毒草も使い方を間違えなければ薬になるんだけどね。でも黄色とピンクの花で綺麗だよ」と龍児。
「龍児が村に下りてきている時点で力が働いていない証拠だというのに、この村の人は誰も妖怪である龍児に気付いていない訳だもんね」と綾香。
「うん。そうだよ」と龍児。
この秘密を自分しか知らないと思うと、彼女は何だか可笑しかった。
◇◆◇
細く流れる小川の畔には鬱蒼と茂る木々が立ち並んでいたので、畑の畦道よりかは涼しく感じた。山への入り口の坂の前には経年劣化して朱色が薄くなった木製の鳥居が建っていた。鳥居の向こうには長い石段が高く積まれて、所々が崩れ掛けていて、ミーンミーンと蝉の声が降り注いでいた。
前を行く龍児は鳥居の手前の端で一礼をして、綾香は前を行く龍児に続いて鳥居の前で一礼をしてくぐると蝉の声がさらに大きくなり二人を包み込んだ。石段は暗い木々の中に呑み込まれて、先の方は全く見えなかった。
「龍児、何で鳥居の前で端に立って一礼をしたの?」と綾香。
「綾香、お前、人間なのに知らないの?」と龍児。
「えっ、何?」と素っ頓狂な声で訊いた綾香。
「鳥居の真ん中は神様だけが通れる道で、鳥居の前で一礼するのは神様に対して、『神社の中に入らせて頂きます』と挨拶をするからだよ。お前、本当に知らないの?」と龍児が神妙な顔で言った。
「うちの家族は無宗教者だから、そんな事なんて知らないし、私の東京の家の近くには氷川神社があって、ママはその神社が経営していた幼稚園を卒園したから、私は小さい時からその境内で遊んでいたんだけど、鳥居の前で一礼もした事ないし、鳥居の端から入った事もないから」と綾香。
「うん。行ってらっしゃい」と祖母。
綾香はそのまま玄関から外に出て、門の外で待っていた龍児に話し掛けた。
「神社って、村の入口にある、あの大きな所だよね?」と綾香。
「そうだよ、川の向こうの。あそこがお祭の会場なんだ。まだいつもどおりで雑草が生えていて、なんにも変わってなかったけどな」と龍児。
「そうか、龍児はお祭で祓われる側の妖怪だから、特別に用心しているんだよね?」と心配した綾香。
「この辺の村人が、妖怪を嫌っているなんて話は、本当の妖怪からしたら悲しかったよね。ごめんね」と綾香は話しを続け謝った。
龍児は平気な顔で言った。
「気にすんなって。嫌われているのは昔から知っているし。俺ら妖怪も人間嫌いが多いから、お互い様だよ。でも俺は綾香、お前だけは好きだけどな」と龍児。
「自分たちをお祓いされるお祭なんてやっている人間が好きな訳ないよね?」と綾香は悲しそうな顔で。
「だから、俺は他の人間は好きではないけど、いやどうでもいいけど、綾香だけは好きだから」と顔を真っ赤にした龍児。
「ありがとう。私も龍児の事が好きだよ」と綾香は本当にそう思ったし、これが初恋なのかとさえ思っていた。
「そっか、それは有難いな。それにさっきの浴衣姿は最高に可愛かったぞ!」と龍児。
「本当にそう思ってくれたの?」と綾香。
「あぁ。最高に綺麗だったし、可愛かったよ」と龍児。
「ありがとう。ねえ、龍、現川神社に行かない?」と綾香。
「うん、いいよ。現川神社はお祭の会場で、妖怪が村に来ないように建てられた神社なんだよ」と龍児。
「なんか滑稽だよね。妖怪を神様のつかいとして有難く祀っている神社は聞いたことあるけど、妖怪をお祓いするための神社に、本物の妖怪と一緒に行くなんてね」と綾香。
そういえば、祖母もそんなような事を言っていたと思い出した。奈良時代に神社ができて、妖怪が村に降りてこないように術をかけたとか。
「うん。連れて行くよ」と龍児。
綾香たちは現川神社に向かって二人で歩き出した。
綾香は、ふと隣の龍児に目をやった。
「そういえば龍児は、大丈夫なの? 妖怪をお祓いするために作られたんでしょ。さっき様子見てきたって言っていたけど、妖怪を祓う神社なら龍児は近付けないんじゃないの?」と心配した綾香。
「いや、全くと言って良いほど大丈夫だよ。クサノオウやムラサキケマンなどの毒草が伸び放題であんまり手入れされてないから。妖怪避けというのは人間だけの妄信で、その効力は発揮されていない感じだったからね」と龍児。
「毒草?」と綾香。
「うん、家畜なんかが、いや人間もそうだけど食べたら、死に至る毒草ばかりが生えているから不思議だけどね。ま、毒草も使い方を間違えなければ薬になるんだけどね。でも黄色とピンクの花で綺麗だよ」と龍児。
「龍児が村に下りてきている時点で力が働いていない証拠だというのに、この村の人は誰も妖怪である龍児に気付いていない訳だもんね」と綾香。
「うん。そうだよ」と龍児。
この秘密を自分しか知らないと思うと、彼女は何だか可笑しかった。
◇◆◇
細く流れる小川の畔には鬱蒼と茂る木々が立ち並んでいたので、畑の畦道よりかは涼しく感じた。山への入り口の坂の前には経年劣化して朱色が薄くなった木製の鳥居が建っていた。鳥居の向こうには長い石段が高く積まれて、所々が崩れ掛けていて、ミーンミーンと蝉の声が降り注いでいた。
前を行く龍児は鳥居の手前の端で一礼をして、綾香は前を行く龍児に続いて鳥居の前で一礼をしてくぐると蝉の声がさらに大きくなり二人を包み込んだ。石段は暗い木々の中に呑み込まれて、先の方は全く見えなかった。
「龍児、何で鳥居の前で端に立って一礼をしたの?」と綾香。
「綾香、お前、人間なのに知らないの?」と龍児。
「えっ、何?」と素っ頓狂な声で訊いた綾香。
「鳥居の真ん中は神様だけが通れる道で、鳥居の前で一礼するのは神様に対して、『神社の中に入らせて頂きます』と挨拶をするからだよ。お前、本当に知らないの?」と龍児が神妙な顔で言った。
「うちの家族は無宗教者だから、そんな事なんて知らないし、私の東京の家の近くには氷川神社があって、ママはその神社が経営していた幼稚園を卒園したから、私は小さい時からその境内で遊んでいたんだけど、鳥居の前で一礼もした事ないし、鳥居の端から入った事もないから」と綾香。
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