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第1章 夏の始まりと塀の向こうの少年
第4-5話 神社の丘とふたりの誓い
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龍児が先に神様の前に行き、二礼、二拍手、(神様、姉の美奈子に必ず逢いますので見ていて下さい)と心で唱え一拍手をすると、綾香も見習って同じようにした。
「お辞儀を二回・拍手を二回・お辞儀を一回するの?」と綾香が訊いた。
「綾香は人間なのに何も知らないんだな? 大まかに説明すると、初めの二礼は、『神様に対する挨拶と感謝』で、次の二拍手は、『邪気払いや喜びの表現』で、最後の一礼は、『神様に対する感謝と見送り』を意味するんだよ」
「龍児は物知りだね」と綾香が感心した。
「それと神社によっては回数も違うんだけどね。それに本来は〇〇をして下さいではなくて、決意発表をしたり、大願成就をしたお礼をするんだよ」と龍児が不思議そうな顔をしながら教えた。
「そうなんだね。でも滑稽だよね。妖怪をお祓いすると言って人間が建てた神社の作法を祓われる、当の妖怪に教わっている人間がいるなんてね?」と苦笑して言った綾香だった。
「本当だよ」と龍児も笑って言った。
そして境内を見回して木々が切れている見晴らしの良い場所に二人で立つと、凄く高い場所にいる事が分かった。現川村の風景が一望できる。下まで見える石段とそれを囲む木々、そしてその向こうに広がる、真昼の現川。緑の畑とポツポツと立つ民家の赤茶色になった屋根の錆と真っ青な空のコントラストが美しかった。
広大な景色につい目が奪われた。田んぼの上に広がる大空を、白鷺の番いがさぁーっと飛んでいった。入道雲が重なり合った空に、鳥の影が小さくなっていった。息を呑む光景に、しばらく目を奪われていた二人だった。
「すごいだろ、村の全てが見えるんだよ。ここは!」
横から声をかけられて振り向くと、遅れてきた龍児だ。ざんぎり頭の金色に光る髪が汗で額に張り付いていた。
彼の背後には神社のお社と、それに続く石畳の参道。周りはやはり樹木に包まれて、その中で経年劣化したお社は神秘的な空気を放ち軒下にはスズメバチの巣が幾つも吊られていた。
龍児は膝に手をつき、大きく息を吐いていた。
「それにしても綾香、キスはないだろうよ」
「初キスは小学校時代に終わらしたかったから」
「俺で良かったのか?」
「龍児だから良かったんだよ」
「そっか。俺がまさか人間の女の子とキスなんかできるとは思ってもみなかったけどな」
「それは私の台詞セリフだよ。まさか妖怪とこんな関係になるとは思ってもいなかったし、それも妖怪をお祓いする神社でなんてね?」と言って苦笑すると、龍児も一緒に苦笑した。
「本当にキレイ。お祖母ちゃんのお家がちっちゃく見えるね」
「本当だ」
「龍児のお家はどこなの?」
「二つ山が見えるだろ、その山と山の間辺りだよ」
「行ってみたいな」
「うん。その内に見せるよ」
「ありがとう。その時に龍児を育ててくれた妖怪さんに逢わせてもらえるんでしょ?」
「うん、逢ってほしいよ。長老にね」
綾香が龍児の首にまた腕を回して唇を重ねると、また先ほど同様に唇を重ねた瞬間に、頭の先から足の爪先まで一気に電流が走り心地良い痺れを感じた。それは絶頂に至ってしまい、その場に腰から崩れてへたり込んでしまった。
「綾香、どうしたっていうんだよ?」
「龍児とキスすると、体が変になっちゃうの」
「痛いのか? 辛いのか?」
「ううん、気持ちが良すぎるの」
「ならいいんじゃないのか?」
「うん」
「それでさ。奥のお社の横に、妖怪伝説について書いてある看板が立ってるんだよ。結構長いけど、面白い話だから読んでみてよ」
参道を進み、お社の横に古びた看板が立っていた。
「現川神社の由来ね」
筆で書かれた文字は、板の看板に墨が滲んでいて読みにくかった。
「読むよ」
「うん」
「『かつて現川村の地は、『龍』と呼ばれる雄の妖怪に統治されていた。『龍』は多くの妖怪を率いて山の中で暮らしていた。『龍』の支配下の妖怪たちは、日頃から村の人間に悪さをしていた。
美味しくなった作物を荒らし、金品を強奪し、夫婦の妻たちだけを連れて来て『龍』に献上した。性欲が強かった『龍』はその妻たちを性奴隷にした後に返すと夫では満足できなくなった妻は当然二人の仲を悪くし、結局はその妻たちはまた『龍』の元に帰って行った。
また生娘だけを神隠しにして『龍』の子を孕ませて返した。村の人間は術者を呼び、妖怪が人間に悪さできないように、更には人間に触ることができないように術をかけた。そしてこの神社を建てて、村に降りて来られない境界としたのだ。
神社に近寄れない妖怪たちが人に近づける、もっとも近い場所が、村の入口の坂道である。あの坂には現川うつつがわ村の人間が通りかかるのを待ち、悪戯しようとする、あやかしが出る。あやかしが人を呼んでいるその坂は、『あやかし坂』と名付けられた」
「お辞儀を二回・拍手を二回・お辞儀を一回するの?」と綾香が訊いた。
「綾香は人間なのに何も知らないんだな? 大まかに説明すると、初めの二礼は、『神様に対する挨拶と感謝』で、次の二拍手は、『邪気払いや喜びの表現』で、最後の一礼は、『神様に対する感謝と見送り』を意味するんだよ」
「龍児は物知りだね」と綾香が感心した。
「それと神社によっては回数も違うんだけどね。それに本来は〇〇をして下さいではなくて、決意発表をしたり、大願成就をしたお礼をするんだよ」と龍児が不思議そうな顔をしながら教えた。
「そうなんだね。でも滑稽だよね。妖怪をお祓いすると言って人間が建てた神社の作法を祓われる、当の妖怪に教わっている人間がいるなんてね?」と苦笑して言った綾香だった。
「本当だよ」と龍児も笑って言った。
そして境内を見回して木々が切れている見晴らしの良い場所に二人で立つと、凄く高い場所にいる事が分かった。現川村の風景が一望できる。下まで見える石段とそれを囲む木々、そしてその向こうに広がる、真昼の現川。緑の畑とポツポツと立つ民家の赤茶色になった屋根の錆と真っ青な空のコントラストが美しかった。
広大な景色につい目が奪われた。田んぼの上に広がる大空を、白鷺の番いがさぁーっと飛んでいった。入道雲が重なり合った空に、鳥の影が小さくなっていった。息を呑む光景に、しばらく目を奪われていた二人だった。
「すごいだろ、村の全てが見えるんだよ。ここは!」
横から声をかけられて振り向くと、遅れてきた龍児だ。ざんぎり頭の金色に光る髪が汗で額に張り付いていた。
彼の背後には神社のお社と、それに続く石畳の参道。周りはやはり樹木に包まれて、その中で経年劣化したお社は神秘的な空気を放ち軒下にはスズメバチの巣が幾つも吊られていた。
龍児は膝に手をつき、大きく息を吐いていた。
「それにしても綾香、キスはないだろうよ」
「初キスは小学校時代に終わらしたかったから」
「俺で良かったのか?」
「龍児だから良かったんだよ」
「そっか。俺がまさか人間の女の子とキスなんかできるとは思ってもみなかったけどな」
「それは私の台詞セリフだよ。まさか妖怪とこんな関係になるとは思ってもいなかったし、それも妖怪をお祓いする神社でなんてね?」と言って苦笑すると、龍児も一緒に苦笑した。
「本当にキレイ。お祖母ちゃんのお家がちっちゃく見えるね」
「本当だ」
「龍児のお家はどこなの?」
「二つ山が見えるだろ、その山と山の間辺りだよ」
「行ってみたいな」
「うん。その内に見せるよ」
「ありがとう。その時に龍児を育ててくれた妖怪さんに逢わせてもらえるんでしょ?」
「うん、逢ってほしいよ。長老にね」
綾香が龍児の首にまた腕を回して唇を重ねると、また先ほど同様に唇を重ねた瞬間に、頭の先から足の爪先まで一気に電流が走り心地良い痺れを感じた。それは絶頂に至ってしまい、その場に腰から崩れてへたり込んでしまった。
「綾香、どうしたっていうんだよ?」
「龍児とキスすると、体が変になっちゃうの」
「痛いのか? 辛いのか?」
「ううん、気持ちが良すぎるの」
「ならいいんじゃないのか?」
「うん」
「それでさ。奥のお社の横に、妖怪伝説について書いてある看板が立ってるんだよ。結構長いけど、面白い話だから読んでみてよ」
参道を進み、お社の横に古びた看板が立っていた。
「現川神社の由来ね」
筆で書かれた文字は、板の看板に墨が滲んでいて読みにくかった。
「読むよ」
「うん」
「『かつて現川村の地は、『龍』と呼ばれる雄の妖怪に統治されていた。『龍』は多くの妖怪を率いて山の中で暮らしていた。『龍』の支配下の妖怪たちは、日頃から村の人間に悪さをしていた。
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