16 / 92
第1章 夏の始まりと塀の向こうの少年
第4-6話 夕陽の坂道と未来の気配
しおりを挟む
「 『龍』さんと書いてあったのは、龍児のご先祖さんかな?」
「それはどうだか分からないよ。聞いた事はないし、元々俺は人間だったみたいだからさ」
「そっか、そう言う事は聞かされてないんだね」
「うん、でも他の妖怪は皆、龍の体なんだけど、俺と長老だけ羽があるんだよ。だから多分、俺もそう勝手には思っているんだ」
「でも私が龍児とキスをするだけで、あんなに気持ち良くなるんだから、龍児はその『龍』さんには、それなりに関係はしているんだろうね?」
「そういう事なのかもしれないね。キスをしたのは綾香が最初だったし、その他の人間とキスをした事もないから分からないからさ」
「確かに、そうだよね」
「足はもう大丈夫なのか?」
「うん、キスをしたら治っちゃった。本当に不思議な力を持っているんだね。龍児は」
「こればかりは自分じゃ分からないからな」
「確かにそうだよね」と言って二人は石段を下りだした。
帰り道の石段に覆いかぶさる葉っぱのトンネルの隙間から傾いた夕陽の光が柔らかなオレンジ色となって石段を斑に照らし、相変わらず蝉の声がシャワーのように降り注いでいた。
「人間の住む村と妖怪の住む山との間に、あの坂で境界線を引かれているのに龍児がその境界線を越えてきているんだから、あの神社はあまり効力がないのは分かるけど、龍児はどうして村に来たのかなー、って思うんだけど?」
綾香が間延びした言葉で尋ねると、龍児は夕陽色に染まった顔で、ジロッと彼女を睨んだ。
「どうして……って……、『一緒に遊ぼう』って、綾香が言ったからだろ?」
「あっ!」
そういえば初めてあった日にそう言った。
「だから遊びに来てくれたんだ」
「それに綾香を見ていたら、姉の美奈子のことをやたら鮮明に思い出した。なんか、待っているだけじゃダメなんだって思ったんだよな」とフゥ~とため息を吐きながら目線を綾香から紅い空に向けた。
「姉の美奈子を村に出て行ってでも能動的に探さないといけないのではと思ったからさ」とポツリと付け足して、沈みかけの太陽を悲しそうな目で見詰めた。
綾香も同じ方を向いて、「美奈子さん……」と一言、呟いた。
そういえば、龍児は綾香をその人と間違えるほど、必死に彼女を捜しているのだ。
「あのさ、綾香。俺は妖怪だけど、人間には悪さをしないから、もう少しだけ村にいさせてくれないかな?」と龍児がポツリと言った。
「もうすぐ、姉貴に会える気がするんだ」
「私が居させるとか言えた義理じゃないけど、私だってずっと龍児と過ごしていたいのは山々だから夏休みが終わるまで一緒にいたいよ」
夕日を浴びた龍児の残切り頭の髪がキラキラと透き通って見えた。
「姉の……美奈子に、今なら会えそうな気がするんだよ。そういう理由がなきゃ、俺だって村になんかに下りて来ないしさ」
東京品川区西五反田の氷川神社の雷の火事でとっくに死んだ弟が生きているとも死んでいるとも分からない姉を捜してどうするんだろう。よく分からないけれど、龍児には彼なりの理由があって、わざわざ村にまでやってきたのだ。
「なんかよく分からないけど……、それに龍児が悪さするなんて、初めから思ってないし、いつも私を助けてくれるスーパーマンだから」
そう返すと、龍児はチラッとだけ彼女に目をやって、ヘヘヘッと笑った。
目の前の夕陽が眩しくて目を瞑った。彼の瞼の裏に未来の綾香と美奈子ともう一人の女性の世界が広がって見えていた。そしてこの時に彼は目の前の将来の綾香と結婚をする事が見えていた。しかしそれはずっと先の事だった。
「それはどうだか分からないよ。聞いた事はないし、元々俺は人間だったみたいだからさ」
「そっか、そう言う事は聞かされてないんだね」
「うん、でも他の妖怪は皆、龍の体なんだけど、俺と長老だけ羽があるんだよ。だから多分、俺もそう勝手には思っているんだ」
「でも私が龍児とキスをするだけで、あんなに気持ち良くなるんだから、龍児はその『龍』さんには、それなりに関係はしているんだろうね?」
「そういう事なのかもしれないね。キスをしたのは綾香が最初だったし、その他の人間とキスをした事もないから分からないからさ」
「確かに、そうだよね」
「足はもう大丈夫なのか?」
「うん、キスをしたら治っちゃった。本当に不思議な力を持っているんだね。龍児は」
「こればかりは自分じゃ分からないからな」
「確かにそうだよね」と言って二人は石段を下りだした。
帰り道の石段に覆いかぶさる葉っぱのトンネルの隙間から傾いた夕陽の光が柔らかなオレンジ色となって石段を斑に照らし、相変わらず蝉の声がシャワーのように降り注いでいた。
「人間の住む村と妖怪の住む山との間に、あの坂で境界線を引かれているのに龍児がその境界線を越えてきているんだから、あの神社はあまり効力がないのは分かるけど、龍児はどうして村に来たのかなー、って思うんだけど?」
綾香が間延びした言葉で尋ねると、龍児は夕陽色に染まった顔で、ジロッと彼女を睨んだ。
「どうして……って……、『一緒に遊ぼう』って、綾香が言ったからだろ?」
「あっ!」
そういえば初めてあった日にそう言った。
「だから遊びに来てくれたんだ」
「それに綾香を見ていたら、姉の美奈子のことをやたら鮮明に思い出した。なんか、待っているだけじゃダメなんだって思ったんだよな」とフゥ~とため息を吐きながら目線を綾香から紅い空に向けた。
「姉の美奈子を村に出て行ってでも能動的に探さないといけないのではと思ったからさ」とポツリと付け足して、沈みかけの太陽を悲しそうな目で見詰めた。
綾香も同じ方を向いて、「美奈子さん……」と一言、呟いた。
そういえば、龍児は綾香をその人と間違えるほど、必死に彼女を捜しているのだ。
「あのさ、綾香。俺は妖怪だけど、人間には悪さをしないから、もう少しだけ村にいさせてくれないかな?」と龍児がポツリと言った。
「もうすぐ、姉貴に会える気がするんだ」
「私が居させるとか言えた義理じゃないけど、私だってずっと龍児と過ごしていたいのは山々だから夏休みが終わるまで一緒にいたいよ」
夕日を浴びた龍児の残切り頭の髪がキラキラと透き通って見えた。
「姉の……美奈子に、今なら会えそうな気がするんだよ。そういう理由がなきゃ、俺だって村になんかに下りて来ないしさ」
東京品川区西五反田の氷川神社の雷の火事でとっくに死んだ弟が生きているとも死んでいるとも分からない姉を捜してどうするんだろう。よく分からないけれど、龍児には彼なりの理由があって、わざわざ村にまでやってきたのだ。
「なんかよく分からないけど……、それに龍児が悪さするなんて、初めから思ってないし、いつも私を助けてくれるスーパーマンだから」
そう返すと、龍児はチラッとだけ彼女に目をやって、ヘヘヘッと笑った。
目の前の夕陽が眩しくて目を瞑った。彼の瞼の裏に未来の綾香と美奈子ともう一人の女性の世界が広がって見えていた。そしてこの時に彼は目の前の将来の綾香と結婚をする事が見えていた。しかしそれはずっと先の事だった。
1
あなたにおすすめの小説
【短編集】こども病院の日常
moa
キャラ文芸
ここの病院は、こども病院です。
18歳以下の子供が通う病院、
診療科はたくさんあります。
内科、外科、耳鼻科、歯科、皮膚科etc…
ただただ医者目線で色々な病気を治療していくだけの小説です。
恋愛要素などは一切ありません。
密着病院24時!的な感じです。
人物像などは表記していない為、読者様のご想像にお任せします。
※泣く表現、痛い表現など嫌いな方は読むのをお控えください。
歯科以外の医療知識はそこまで詳しくないのですみませんがご了承ください。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
英雄の番が名乗るまで
長野 雪
恋愛
突然発生した魔物の大侵攻。西の果てから始まったそれは、いくつもの集落どころか国すら飲みこみ、世界中の国々が人種・宗教を越えて協力し、とうとう終息を迎えた。魔物の駆逐・殲滅に目覚ましい活躍を見せた5人は吟遊詩人によって「五英傑」と謳われ、これから彼らの活躍は英雄譚として広く知られていくのであろう。
大侵攻の終息を祝う宴の最中、己の番《つがい》の気配を感じた五英傑の一人、竜人フィルは見つけ出した途端、気を失ってしまった彼女に対し、番の誓約を行おうとするが失敗に終わる。番と己の寿命を等しくするため、何より番を手元に置き続けるためにフィルにとっては重要な誓約がどうして失敗したのか分からないものの、とにかく庇護したいフィルと、ぐいぐい溺愛モードに入ろうとする彼に一歩距離を置いてしまう番の女性との一進一退のおはなし。
※小説家になろうにも投稿
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる