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第1章 夏の始まりと塀の向こうの少年
第5-1話 雷鳴の記憶と川辺の奇跡
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綾香は母に電話をして、氷川神社の大鳥居を潜って右側に雷が落ちて屋根に大きな穴が空いていた家があった事を聞くと、母は「あったよ」と答えた。
(龍児が言っていた事は本当だったんだ)と思い、縁側に出て龍児を呼ぶと、「何、綾香?」と塀の上に座って相変わらず足をブラブラさせて笑顔で言った。
「ママに電話して訊いたら、東京・西五反田の氷川神社の参道右横の境内の中に、雷が落ちた家で火事にあって、そこの息子さんが亡くなったって言っていたよ」
「息子が死んだことと、その家があったと言う事だけは確かだったろ?」
「うん」
そしていつの間にか龍児はいなくなっていた。
◇◆◇
「幸子オバちゃん! すみませ~ん!」
玄関から廊下を突き抜けるような甲高い子供の声がした。
祖母が返事をする声が遠くから聞こえた直後に綾香を呼んだ。
「綾香、来てけれ!」
障子を開けて廊下へ出た綾香は、「お祖母ちゃん! どうしたの?」と言いながら玄関の方を見ると、出迎えている祖母の背中とその向こうに小さな人影が見えた。
綾香を手招きした祖母の横に駆け寄ると、玄関口まで来ていた人と対面した。綾香よりも小さい男の子だった。
「どうしただ?」と祖母。
「従姉が川に流されて今……木に掴まっているんだけど……流れが早くて僕では助けられないから!」と泣きながら訴えた男の子は短髪に日焼けした顔で、息が荒く言葉が途切れ途切れだった。
祖母と綾香は取る物も取らずに慌てて走って数分の家の横に流れる川に向かった。
「綾香、浮き輪とバスタオル持ってくるがら、先に行ってけれ!」と祖母が叫び、慌てて家へ引き返した。
綾香が川縁に駆けつけると、少女が激しい流れに揉まれながら、必死に木の枝にしがみついていた。水面に顔を出したかと思えば、すぐに沈み、また浮かび上がる。その姿はまるで命の灯が風に揺れるようだった。
その時、川に飛び込んだ少年がいた。綾香が目を凝らすと、それは龍児だった。
龍児は流れに逆らいながら、何度も沈みかけ、顔をしかめながらも少女に向かって泳ぎ続けた。水しぶきが上がり、彼の姿が見えなくなるたびに綾香の胸が締め付けられた。
ようやく少女の傍に辿り着いた龍児は、彼女を仰向けにして首に腕を絡めると、流れに乗るようにして向こう岸へ泳ぎ始めた。
綾香と男の子は五十メートルほど下流にある橋を渡り、息を切らして少女の傍に駆け寄った。
「ありがとうございます……」と少女が震える声で言うと、龍児は「後は綾香が来るから!」と叫び、再び川を泳いで渡ると、そのまま姿が見えなくなった。
祖母が走ってコッチに向かっているのが見えた綾香は、もう一度来た道を走って戻ってバスタオルを貰いに行った。
綾香が溺れた少女にバスタオルで体を拭いて上げて、一緒に祖母の家に連れて帰った。
歩きながら事情を聞くと、東京から親戚の男の子の家に遊びに来た、美奈子と言う子で綾香と同い年の十二歳だった。
祖母が「あの助けた男の子は何処に行ったが?」と訊くと、助けられた美奈子は「知らない子」と言ったので綾香は、「村の子だよ。昨日、ウツツガワ商店で逢ったから」と慌てて言った。
「あの子は見だことねぇけど、分校にはいねぇよ」と男の子が言った。
「もしかしたら妖怪かも?」と祖母が怪訝そうな顔をして言った。
「そんなことないよ。昨日、ウツツガワ商店の人と普通に話してたから。それに妖怪は人間の敵で、人助けなんかしないでしょ」と綾香は怪訝そうな顔をして言った。
「確かに言い伝えではそう言われでらげどな。人間にちょすと溶げでしまうって話もあるがら、妖怪ではなさそうだな」と祖母。
(龍児が言っていた事は本当だったんだ)と思い、縁側に出て龍児を呼ぶと、「何、綾香?」と塀の上に座って相変わらず足をブラブラさせて笑顔で言った。
「ママに電話して訊いたら、東京・西五反田の氷川神社の参道右横の境内の中に、雷が落ちた家で火事にあって、そこの息子さんが亡くなったって言っていたよ」
「息子が死んだことと、その家があったと言う事だけは確かだったろ?」
「うん」
そしていつの間にか龍児はいなくなっていた。
◇◆◇
「幸子オバちゃん! すみませ~ん!」
玄関から廊下を突き抜けるような甲高い子供の声がした。
祖母が返事をする声が遠くから聞こえた直後に綾香を呼んだ。
「綾香、来てけれ!」
障子を開けて廊下へ出た綾香は、「お祖母ちゃん! どうしたの?」と言いながら玄関の方を見ると、出迎えている祖母の背中とその向こうに小さな人影が見えた。
綾香を手招きした祖母の横に駆け寄ると、玄関口まで来ていた人と対面した。綾香よりも小さい男の子だった。
「どうしただ?」と祖母。
「従姉が川に流されて今……木に掴まっているんだけど……流れが早くて僕では助けられないから!」と泣きながら訴えた男の子は短髪に日焼けした顔で、息が荒く言葉が途切れ途切れだった。
祖母と綾香は取る物も取らずに慌てて走って数分の家の横に流れる川に向かった。
「綾香、浮き輪とバスタオル持ってくるがら、先に行ってけれ!」と祖母が叫び、慌てて家へ引き返した。
綾香が川縁に駆けつけると、少女が激しい流れに揉まれながら、必死に木の枝にしがみついていた。水面に顔を出したかと思えば、すぐに沈み、また浮かび上がる。その姿はまるで命の灯が風に揺れるようだった。
その時、川に飛び込んだ少年がいた。綾香が目を凝らすと、それは龍児だった。
龍児は流れに逆らいながら、何度も沈みかけ、顔をしかめながらも少女に向かって泳ぎ続けた。水しぶきが上がり、彼の姿が見えなくなるたびに綾香の胸が締め付けられた。
ようやく少女の傍に辿り着いた龍児は、彼女を仰向けにして首に腕を絡めると、流れに乗るようにして向こう岸へ泳ぎ始めた。
綾香と男の子は五十メートルほど下流にある橋を渡り、息を切らして少女の傍に駆け寄った。
「ありがとうございます……」と少女が震える声で言うと、龍児は「後は綾香が来るから!」と叫び、再び川を泳いで渡ると、そのまま姿が見えなくなった。
祖母が走ってコッチに向かっているのが見えた綾香は、もう一度来た道を走って戻ってバスタオルを貰いに行った。
綾香が溺れた少女にバスタオルで体を拭いて上げて、一緒に祖母の家に連れて帰った。
歩きながら事情を聞くと、東京から親戚の男の子の家に遊びに来た、美奈子と言う子で綾香と同い年の十二歳だった。
祖母が「あの助けた男の子は何処に行ったが?」と訊くと、助けられた美奈子は「知らない子」と言ったので綾香は、「村の子だよ。昨日、ウツツガワ商店で逢ったから」と慌てて言った。
「あの子は見だことねぇけど、分校にはいねぇよ」と男の子が言った。
「もしかしたら妖怪かも?」と祖母が怪訝そうな顔をして言った。
「そんなことないよ。昨日、ウツツガワ商店の人と普通に話してたから。それに妖怪は人間の敵で、人助けなんかしないでしょ」と綾香は怪訝そうな顔をして言った。
「確かに言い伝えではそう言われでらげどな。人間にちょすと溶げでしまうって話もあるがら、妖怪ではなさそうだな」と祖母。
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