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第1章 夏の始まりと塀の向こうの少年
第7-1話 仏壇の記憶と甘い夏
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祖母は、毎朝仏壇に手を合わせる。宗教の仏さんにも手を合わせ、お経を唱える。綾香も隣で手を合わせるけれど、足が痺れて、暫くすると横座りをする。遺影のお祖父ちゃんの事は良く知らない。どうやら小さい頃に一緒に遊んだことがあるらしいが、最後に顔を見たのはお祖父ちゃんのお葬式で綾香はまだ五歳だったので殆ど覚えていない。
お経が終わって、「お祖母ちゃん。お祖父ちゃんってどんな人だったの?」と仏壇の前で正座して遺影を見つめる祖母に尋ねた。
「綾香が生まれだ時な、ほんと嬉しぐで涙こぼして泣いでだんだぁ。ほんと、やさしい人だったべなぁ」
綾香はお祖父ちゃんを覚えていないのに、お祖父ちゃんは綾香が生まれたことをそんなに喜んでくれていたなんてと思うと不思議に感じていた。
もう一度、写真のお祖父ちゃんに向かって手を合わせる。遺影の中のお祖父ちゃんは、まん丸の顔に艶々の肌、黒い髪の中に所々に白いのが生えている胡麻塩の髪だった。優しそうに上がった口角と下がった目尻。きっと明るい人だったんだろうな、と思わせる満面の笑顔だ。
「ほれ綾香、着がえっぺなぁ」
祖母が立ち上がった。
「今日はな、パパとママ来る日だがらよ」
「うん! そうだ。今日はパパたちが来る」
毎年この時期になるとお盆休みを使って、祖母に逢いに行くのだ。去年までは、綾香がついて行きたがらなかったので、綾香にとってはお留守番の日だった。
着くのは昼前くらいになる。先にお墓参りに行き、それから合流してお昼を食べて、そしてすぐに帰ってしまう。
ずっと一緒に暮らしていたので父と母と会うのが三週間ぶりになるのが、なんだか変な感じがしていた綾香だった。
着替えを済ませて、ひと息つく。障子を開けると、風など殆どなくて、強い日差しが部屋に飛び込んできた。
朝食を食べたばかりだけれど、ちょっと小腹が空いていると言ったら、祖母が「家庭菜園のトウモロコシは生で食べられるから」と言った。
綾香は信じられなかったが、恐る恐る家庭菜園から採って来た。生で食せるというトウモロコシは緑の皮を剥いて赤ちゃんの柔らかい髪の毛のようなヒゲを綺麗に毟って一旦、井戸の水にスッと通して齧ると正にフルーツジュースのような甘い味が口いっぱいに広がった。
この時代にはまだ生食のトウモロコシは珍しかったが、他界した祖父の大学は農学部だった事で、祖父が長年掛けて独自で品種改良をして生食用が出来たのを祖母が引き継いだのだ。
ミーンミーンという蝉の声が暑さを際立たせていた。綾香は一人でトウモロコシを食べていると、塀の向こうから龍児が嗅ぎつけてきた。
「何を食ってるんだ?」
「おはよう。龍児も食べる?」
塀から見ている龍児にトウモロコシを見せると、彼はピョンッと庭に降り立ってきた。
綾香と龍児は家庭菜園に行ってトウモロコシを採って食べられるように皮を剥き井戸水に通して、彼に渡して綾香の隣に腰掛けた。
「じゃ遠慮なくもらうよ」
「うん」
トウモロコシの粒が、口の中で弾け、素材そのものの記憶に残るほどの強烈な甘さが口いっぱいに広がり龍児は目をまん丸にした。
「ねえ、龍児は美奈ちゃんを捜して村に下りてきたんだよね?」
トウモロコシを口に含みながら綾香が尋ねた。隣からも砕けるシャクッシャクシャクと連続した音が聞こえていた。
お経が終わって、「お祖母ちゃん。お祖父ちゃんってどんな人だったの?」と仏壇の前で正座して遺影を見つめる祖母に尋ねた。
「綾香が生まれだ時な、ほんと嬉しぐで涙こぼして泣いでだんだぁ。ほんと、やさしい人だったべなぁ」
綾香はお祖父ちゃんを覚えていないのに、お祖父ちゃんは綾香が生まれたことをそんなに喜んでくれていたなんてと思うと不思議に感じていた。
もう一度、写真のお祖父ちゃんに向かって手を合わせる。遺影の中のお祖父ちゃんは、まん丸の顔に艶々の肌、黒い髪の中に所々に白いのが生えている胡麻塩の髪だった。優しそうに上がった口角と下がった目尻。きっと明るい人だったんだろうな、と思わせる満面の笑顔だ。
「ほれ綾香、着がえっぺなぁ」
祖母が立ち上がった。
「今日はな、パパとママ来る日だがらよ」
「うん! そうだ。今日はパパたちが来る」
毎年この時期になるとお盆休みを使って、祖母に逢いに行くのだ。去年までは、綾香がついて行きたがらなかったので、綾香にとってはお留守番の日だった。
着くのは昼前くらいになる。先にお墓参りに行き、それから合流してお昼を食べて、そしてすぐに帰ってしまう。
ずっと一緒に暮らしていたので父と母と会うのが三週間ぶりになるのが、なんだか変な感じがしていた綾香だった。
着替えを済ませて、ひと息つく。障子を開けると、風など殆どなくて、強い日差しが部屋に飛び込んできた。
朝食を食べたばかりだけれど、ちょっと小腹が空いていると言ったら、祖母が「家庭菜園のトウモロコシは生で食べられるから」と言った。
綾香は信じられなかったが、恐る恐る家庭菜園から採って来た。生で食せるというトウモロコシは緑の皮を剥いて赤ちゃんの柔らかい髪の毛のようなヒゲを綺麗に毟って一旦、井戸の水にスッと通して齧ると正にフルーツジュースのような甘い味が口いっぱいに広がった。
この時代にはまだ生食のトウモロコシは珍しかったが、他界した祖父の大学は農学部だった事で、祖父が長年掛けて独自で品種改良をして生食用が出来たのを祖母が引き継いだのだ。
ミーンミーンという蝉の声が暑さを際立たせていた。綾香は一人でトウモロコシを食べていると、塀の向こうから龍児が嗅ぎつけてきた。
「何を食ってるんだ?」
「おはよう。龍児も食べる?」
塀から見ている龍児にトウモロコシを見せると、彼はピョンッと庭に降り立ってきた。
綾香と龍児は家庭菜園に行ってトウモロコシを採って食べられるように皮を剥き井戸水に通して、彼に渡して綾香の隣に腰掛けた。
「じゃ遠慮なくもらうよ」
「うん」
トウモロコシの粒が、口の中で弾け、素材そのものの記憶に残るほどの強烈な甘さが口いっぱいに広がり龍児は目をまん丸にした。
「ねえ、龍児は美奈ちゃんを捜して村に下りてきたんだよね?」
トウモロコシを口に含みながら綾香が尋ねた。隣からも砕けるシャクッシャクシャクと連続した音が聞こえていた。
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