現(うつつ)の夢

しらかわからし

文字の大きさ
25 / 92
第1章 夏の始まりと塀の向こうの少年

第7-2話 姉弟の記憶と寺子屋の扉

しおりを挟む
「この前、絶対に死んでいるよと言って、切り捨ててごめんネ!」と綾香。

「うん、そんな事、気にするなよ。生まれ変わりの姉貴に逢えたんだし、溺れているのまで助けられたんだからさ」と笑顔で応えた龍児。

 トウモロコシの粒が、口の周りに張り付いていたので、綾香は「子供みたい」と笑いながら取った。

「美奈ちゃんと私が東京に帰ったら龍児はどうするの?」と綾香。

「長老に許しを貰って二人の傍に行くと思うよ。ただそれが直ぐかどうかや、今のこの姿かどうかは、わからないけどね」と龍児。

 龍児は答えながら、途中で言葉を切ってトウモロコシをかじった。

「人間の美奈ちゃんと妖怪あやかしの龍児が、昔々に姉弟きょうだいだったと言う事が分かっただけでも、この夏休みに私と龍が逢えた重要な意味になると思うんだけど」と綾香は嬉しそうに。

「それはそうだよな。そう言う意味では本当に綾香に感謝しているよ」と龍児。

「あっ、美奈ちゃん、おはよう!」と綾香。

「綾ちゃん、龍児、おはよう!」と美奈子が縁側に座った。

「おはよう! 姉貴」と龍児。

「美奈ちゃんもトウモロコシ食べる?」と綾香。

「うん。ありがとう」と美奈子。

  ◇◆◇

 綾香は、祖母がボランティアで営んでいる寺子屋の本棚を思い出した。

 一般人の文献なんて中々ないと思うが、もしかしたら美奈子と龍児に繋がるヒントくらいならあるかもしれないと思ったからだ。

「そうだ! お祖母ちゃんが持っている本の中に記録があるかも!」

「本?」龍児は分かってはいたが、初めて知ったような素っ頓狂な声を上げた。

 綾香は勢いよく捲し立てた。

「いつもいる家の隣に寺子屋があって、その片方の部屋に、壁いっぱいの大きな本棚があるの。お祖父ちゃんが集めた本の上にさらにお祖母ちゃんが集めた、小中学生の漫画や本の他に妖怪の伝説や宗教の本が沢山入っていて、妖怪あやかし坂にまつわる本もあった。昔のことが書いてある本なら、龍児や美奈子さんのことも何か書いてあるかもしれないから!」と綾香。

「そうか、当時にこの地に居た人だとしたら、本に書いてある可能性はあるよな」と龍児が言うと美奈子も頷いた。

 綾香はすぐさま、玄関の引き戸を開けた。

「お祖母ちゃーん! 寺子屋の本棚の本、見てもいいかなー!?」

 大声で尋ねながら龍児と美奈子も、綾香のあとに続いた。

 ◇◆◇

 「ほれ、けれ~!どうぞ!」と祖母が言ってくれたので、綾香たちは早速、寺子屋に行った。

 本棚の部屋に入った。

 戸を開けた途端、「うわっ、凄い本の数よね! こんなにたくさんあったら、何年かかっても読み切れないわよね」と美奈子は本棚を見上げて感嘆した。

 祖母は、どれでも好きなものを読んでいいと言ってくれた。こんなに沢山あったら、どれから読もうか迷ってしまう。しばらく目線を漂わせていたが、隣にいた龍児がさっさと一冊選んでバサッと広げた。龍児の行動を皮切りに綾香と美奈子もそっと本を手にした。

 綾香もボロボロの表紙の本を一冊取ってみると、中は妖怪の図鑑のようなもので、筆で描かれた妖怪あやかしが丁寧に説明されていた。パラパラと捲ってみると、お化けのページもあった。ひと口にお化けと言っても、地域差や階級があるみたいで、読んでいると興味が湧いた。祖母がお化けや妖怪あやかしにハマるのも分かる気がしていた綾香だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【短編集】こども病院の日常

moa
キャラ文芸
ここの病院は、こども病院です。 18歳以下の子供が通う病院、 診療科はたくさんあります。 内科、外科、耳鼻科、歯科、皮膚科etc… ただただ医者目線で色々な病気を治療していくだけの小説です。 恋愛要素などは一切ありません。 密着病院24時!的な感じです。 人物像などは表記していない為、読者様のご想像にお任せします。 ※泣く表現、痛い表現など嫌いな方は読むのをお控えください。 歯科以外の医療知識はそこまで詳しくないのですみませんがご了承ください。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

とある男の包〇治療体験記

moz34
エッセイ・ノンフィクション
手術の体験記

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

英雄の番が名乗るまで

長野 雪
恋愛
突然発生した魔物の大侵攻。西の果てから始まったそれは、いくつもの集落どころか国すら飲みこみ、世界中の国々が人種・宗教を越えて協力し、とうとう終息を迎えた。魔物の駆逐・殲滅に目覚ましい活躍を見せた5人は吟遊詩人によって「五英傑」と謳われ、これから彼らの活躍は英雄譚として広く知られていくのであろう。 大侵攻の終息を祝う宴の最中、己の番《つがい》の気配を感じた五英傑の一人、竜人フィルは見つけ出した途端、気を失ってしまった彼女に対し、番の誓約を行おうとするが失敗に終わる。番と己の寿命を等しくするため、何より番を手元に置き続けるためにフィルにとっては重要な誓約がどうして失敗したのか分からないものの、とにかく庇護したいフィルと、ぐいぐい溺愛モードに入ろうとする彼に一歩距離を置いてしまう番の女性との一進一退のおはなし。 ※小説家になろうにも投稿

処理中です...