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第1章 夏の始まりと塀の向こうの少年
第7-3話 炎の記録と龍児の涙
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綾香の横では、龍児がマジマジと真剣な顔になって本と睨めっこしていた。もしかして何か重要な資料を見つけたのかもと、綾香はドキドキしながら声を掛けた。
「龍、美奈ちゃんのこと、分かりそう?」と綾香。
「いいや」と龍児。
「そうだ、龍は特殊能力が有ったんだよね?」と綾香。
「えっ、そうなの?」と美奈子。
「うん、まぁね」と龍児。
たしかに、龍児が見ている本には妖怪と人間が、怖い顔で向き合っている絵が描かれていて、ところどころに書き込まれている説明文のようなもの以外、燃え上がる朱色の炎がびっしり紙面を覆い家に引火していた。その燃え盛る火の真ん中に、真っ白で大きな龍が書かれていた。龍の姿だが、これはきっと妖怪だろう。
「これは何の絵だろう。妖怪が燃やされているのかな?」と龍児は独り言を呟くと後ろから返事がした。
「違うど。人間がな、龍さ向がって火つけでらんし火をつけているんだよ。こごさ書いでる文さよれば、人間さ追い払われだ、あやかしが怒って荒れ狂ったんだども、人間はそのあやかしの態度が生意気だって言って火つけだってこったなぁ火を放ったっていうことよ」
皆は驚いて一斉に振り向くと、いつの間にか祖母がいた。綾香は祖母を見上げ、本の中の妖怪を指さした。
「この龍が、村を焼いたの?」
「違うど。人間がな、龍さ殺すつもりで火つけようとしたんだど。それが家さ燃え移ってな、村じゅう火事になって焼け野原さなったんだども」
綾香は思わず、横目で龍児を見て気にした。龍児も綾香の方を見ており、目が合った途端、彼はふいっと顔を背けた。
「ちょっと、外の空気を吸ってくる」
ふらっと立ち上がって、龍児は部屋から縁側に出ていってしまった。結局は人間が村を焼いたのを、人間が自分たちの都合が良くなるように、妖怪の所為にしていた事が分かって頭に来たのだ。
「私たちもちょっと、休憩しようよ」
綾香は本を閉じて本棚に返した。
龍児は縁側に腰掛けて、庭の緑を眺めていた。
「龍児!」と綾香が声をかけて彼を挟んで美奈子と一緒に隣に座る。
「さっきの絵はショックだったけど、龍児が悪いことをしてないんだから、気にしなくていいんじゃないの」と綾香。
自分から誘ったことだが、申し訳ない気がしていた綾香だった。
「もし、龍児が見ていて辛いなら、文献探しは私と美奈ちゃんだけでするから。龍児は無理に見なくてもいいからね」と綾香。
「別に、気にしてないよ。村の人に嫌われているのはずっと昔から知っているからさ。俺たちを殺したいぐらいに憎んでいるんだろ。俺たちは人間と仲良くして暮らしたいだけなのにさ。異形の者同士尊敬し合ってね」と龍児。
そう呟いた龍児の背中に目をやると、服の下には羽の生えた龍の刺青のような模様が浮き出て見えた。その龍が最初は真っ白だったが真っ黒や真っ赤に変化していた。
「人間が妖怪に対して悪さしたのは本当だからな。それ以外の文献にはその逆の事が書かれていた。人間って奴はどうして自分たちを正当化するような本を書くんだろうと思ってさ」と憎々し気に龍児が履き捨てるように言って続けた。
「もう姉貴の美奈子に逢えたんだから、俺はいいよ」と龍児。
龍児は真っ直ぐに、庭の景色を見つめていたが目には涙を一杯溜めていた。
「この村の人間たちが、俺たち妖怪をどう思っているのか、知っておきたかったのもあるからさ」と龍児はポツリと言った。
ミーンミーンと木々の隙間から蝉の声がしていた。
「龍、美奈ちゃんのこと、分かりそう?」と綾香。
「いいや」と龍児。
「そうだ、龍は特殊能力が有ったんだよね?」と綾香。
「えっ、そうなの?」と美奈子。
「うん、まぁね」と龍児。
たしかに、龍児が見ている本には妖怪と人間が、怖い顔で向き合っている絵が描かれていて、ところどころに書き込まれている説明文のようなもの以外、燃え上がる朱色の炎がびっしり紙面を覆い家に引火していた。その燃え盛る火の真ん中に、真っ白で大きな龍が書かれていた。龍の姿だが、これはきっと妖怪だろう。
「これは何の絵だろう。妖怪が燃やされているのかな?」と龍児は独り言を呟くと後ろから返事がした。
「違うど。人間がな、龍さ向がって火つけでらんし火をつけているんだよ。こごさ書いでる文さよれば、人間さ追い払われだ、あやかしが怒って荒れ狂ったんだども、人間はそのあやかしの態度が生意気だって言って火つけだってこったなぁ火を放ったっていうことよ」
皆は驚いて一斉に振り向くと、いつの間にか祖母がいた。綾香は祖母を見上げ、本の中の妖怪を指さした。
「この龍が、村を焼いたの?」
「違うど。人間がな、龍さ殺すつもりで火つけようとしたんだど。それが家さ燃え移ってな、村じゅう火事になって焼け野原さなったんだども」
綾香は思わず、横目で龍児を見て気にした。龍児も綾香の方を見ており、目が合った途端、彼はふいっと顔を背けた。
「ちょっと、外の空気を吸ってくる」
ふらっと立ち上がって、龍児は部屋から縁側に出ていってしまった。結局は人間が村を焼いたのを、人間が自分たちの都合が良くなるように、妖怪の所為にしていた事が分かって頭に来たのだ。
「私たちもちょっと、休憩しようよ」
綾香は本を閉じて本棚に返した。
龍児は縁側に腰掛けて、庭の緑を眺めていた。
「龍児!」と綾香が声をかけて彼を挟んで美奈子と一緒に隣に座る。
「さっきの絵はショックだったけど、龍児が悪いことをしてないんだから、気にしなくていいんじゃないの」と綾香。
自分から誘ったことだが、申し訳ない気がしていた綾香だった。
「もし、龍児が見ていて辛いなら、文献探しは私と美奈ちゃんだけでするから。龍児は無理に見なくてもいいからね」と綾香。
「別に、気にしてないよ。村の人に嫌われているのはずっと昔から知っているからさ。俺たちを殺したいぐらいに憎んでいるんだろ。俺たちは人間と仲良くして暮らしたいだけなのにさ。異形の者同士尊敬し合ってね」と龍児。
そう呟いた龍児の背中に目をやると、服の下には羽の生えた龍の刺青のような模様が浮き出て見えた。その龍が最初は真っ白だったが真っ黒や真っ赤に変化していた。
「人間が妖怪に対して悪さしたのは本当だからな。それ以外の文献にはその逆の事が書かれていた。人間って奴はどうして自分たちを正当化するような本を書くんだろうと思ってさ」と憎々し気に龍児が履き捨てるように言って続けた。
「もう姉貴の美奈子に逢えたんだから、俺はいいよ」と龍児。
龍児は真っ直ぐに、庭の景色を見つめていたが目には涙を一杯溜めていた。
「この村の人間たちが、俺たち妖怪をどう思っているのか、知っておきたかったのもあるからさ」と龍児はポツリと言った。
ミーンミーンと木々の隙間から蝉の声がしていた。
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