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第1章 夏の始まりと塀の向こうの少年
第7-4話 疑いと確信、そして家族の到着
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人間から怖がられている、その事実を受け止めるために、見たくないものにも向き合う。そういうことだろうかと綾香は思った。
そして逆に綾香たち人間は、妖怪に対して真摯に向き合えているのだろうか。妖怪は綾香たち人間を、どう見ているんだろうか。村の人間が、妖怪を異形の者として嫌がるのと同じで、彼らも人間を忌み嫌っているかもしれない。先程の本のあの白い龍に火を放ったのは、人間であり、人間が妖怪に火を放ったのが飛び火して村が焼け野原になったのだと、祖母が言っていた。
妖怪の龍児は人間と仲良くしていきたいと言ったが……。そんなことを考えていたら、龍児が真っ赤な顔になって照れくさそうに下を向いた。
「まぁ……でも、村を焼いた妖怪の話の時に、綾香がチラッと俺を見ただろ? そのとき一瞬、俺のこと嫌いになったのかなと不安になった……のは、事実なんだ」
「えっ?」
「でも綾香はすぐこうして、こっちに来てくれた。綾香は俺のこと、嫌いになってなかったんだ」
「……当たり前でしょ。今までで一番、愛しているし大好きだから」と綾香。
「はいはい、ご馳走様!」と美奈子が笑って言った。
龍児の言葉が擽っくすぐったくて、綾香も下を向いて耳を真っ赤にした。こんな風に言ってくれるのなら、綾香は龍児には嫌われてはいない……と、思っていいだろうか。
龍児がすっと立ち上がる。
「さて、そろそろ帰るか」
それから彼は、「あぁー!」と縁側で立ち上がって背伸びした。
「なあ、綾香!」
龍児が塀の先に見える、山道を指さした。
「あれ、お前のパパじゃないのか?」とグラグラ左右に揺らしながら下りてくる、水色の車が見えた。
「あっ! 忘れていた!」
間違いない。あれはパパの車だ。もうそこまで向かってきていたのだ。本棚のある部屋に戻って壁掛け時計を見ると、チクタックチクタックと音がして正午を回っていた。
「わぁ、こんな時間!」
綾香の声に反応して、龍児と美奈子も同時に時計を見た。美奈子は昼食を取る為に家に帰り、祖母は既に慌ただしくお昼の支度を始める為に母屋の台所で作業をしていた。龍児はというと、いつの間にか姿を消していた。
◇◆◇
数分後、両親がやってきた。
「パパ、ママ、久しぶり!」
なんだかすごく懐かしい感じがしていた綾香だった。見慣れた服も、祖母の家の縁側玄関が背景だと不思議に違和感があった。
「元気にしていたか? 綾香。いや、お前は元気じゃない時なんてないもんな!」
優しい微笑みを浮かべた父親が、一瞬誰かと重なった。誰かに似ていると思ったら、仏壇で見た写真のお祖父ちゃんだった。輪郭なんかはあまり似ていなかったけど、目元や表情や、面影が似ている気がしたし、父親は髪が薄いのはお祖母ちゃんの家系なのかとも思った。
「ほれなぁ、『もうすぐ着ぐど』ってひと言でも寄こしてければいがったのによ~!」と祖母は不満げに言った。
「電話ぐらいすれば良かったよね。でもこの田舎には公衆電話がないから仕方ないよね」と父親。
母親が祖母に手土産を渡す。
「お義母さん、綾香がお世話になっています」
「こっちこそなぁ、綾香がええ子で手伝いもようしてけるがら、ほんと助かってらんしなぁ」
祖母が褒めてから、意地悪な笑みを綾香に向けた。
「ちょっとばっかし、お転婆すぎてなぁ、すぐ近所の子どもらと遊びさ行ってしまうんだど。宿題なんて、すっかり忘れでらんしなぁ」
それを聞いて父親がジロリと睨んできたので、綾香は目を泳がせて、そそくさと縁側へと逃げた。
綾香が外を見ていると祖母は昼食の支度をしていた。台所からほんのり、料理の匂いが漂っていた。
祖母が食器を運びつつ、あっと声を上げた。
「あらまぁ、そうだったなぁ。さっきまで縁側で扇いでだ酢飯、そこさ置いできてしまったわ。綾香、持ってきてけれなぁ?」
「うん!」
酢飯の入った桶を祖母に持って行った。
そして逆に綾香たち人間は、妖怪に対して真摯に向き合えているのだろうか。妖怪は綾香たち人間を、どう見ているんだろうか。村の人間が、妖怪を異形の者として嫌がるのと同じで、彼らも人間を忌み嫌っているかもしれない。先程の本のあの白い龍に火を放ったのは、人間であり、人間が妖怪に火を放ったのが飛び火して村が焼け野原になったのだと、祖母が言っていた。
妖怪の龍児は人間と仲良くしていきたいと言ったが……。そんなことを考えていたら、龍児が真っ赤な顔になって照れくさそうに下を向いた。
「まぁ……でも、村を焼いた妖怪の話の時に、綾香がチラッと俺を見ただろ? そのとき一瞬、俺のこと嫌いになったのかなと不安になった……のは、事実なんだ」
「えっ?」
「でも綾香はすぐこうして、こっちに来てくれた。綾香は俺のこと、嫌いになってなかったんだ」
「……当たり前でしょ。今までで一番、愛しているし大好きだから」と綾香。
「はいはい、ご馳走様!」と美奈子が笑って言った。
龍児の言葉が擽っくすぐったくて、綾香も下を向いて耳を真っ赤にした。こんな風に言ってくれるのなら、綾香は龍児には嫌われてはいない……と、思っていいだろうか。
龍児がすっと立ち上がる。
「さて、そろそろ帰るか」
それから彼は、「あぁー!」と縁側で立ち上がって背伸びした。
「なあ、綾香!」
龍児が塀の先に見える、山道を指さした。
「あれ、お前のパパじゃないのか?」とグラグラ左右に揺らしながら下りてくる、水色の車が見えた。
「あっ! 忘れていた!」
間違いない。あれはパパの車だ。もうそこまで向かってきていたのだ。本棚のある部屋に戻って壁掛け時計を見ると、チクタックチクタックと音がして正午を回っていた。
「わぁ、こんな時間!」
綾香の声に反応して、龍児と美奈子も同時に時計を見た。美奈子は昼食を取る為に家に帰り、祖母は既に慌ただしくお昼の支度を始める為に母屋の台所で作業をしていた。龍児はというと、いつの間にか姿を消していた。
◇◆◇
数分後、両親がやってきた。
「パパ、ママ、久しぶり!」
なんだかすごく懐かしい感じがしていた綾香だった。見慣れた服も、祖母の家の縁側玄関が背景だと不思議に違和感があった。
「元気にしていたか? 綾香。いや、お前は元気じゃない時なんてないもんな!」
優しい微笑みを浮かべた父親が、一瞬誰かと重なった。誰かに似ていると思ったら、仏壇で見た写真のお祖父ちゃんだった。輪郭なんかはあまり似ていなかったけど、目元や表情や、面影が似ている気がしたし、父親は髪が薄いのはお祖母ちゃんの家系なのかとも思った。
「ほれなぁ、『もうすぐ着ぐど』ってひと言でも寄こしてければいがったのによ~!」と祖母は不満げに言った。
「電話ぐらいすれば良かったよね。でもこの田舎には公衆電話がないから仕方ないよね」と父親。
母親が祖母に手土産を渡す。
「お義母さん、綾香がお世話になっています」
「こっちこそなぁ、綾香がええ子で手伝いもようしてけるがら、ほんと助かってらんしなぁ」
祖母が褒めてから、意地悪な笑みを綾香に向けた。
「ちょっとばっかし、お転婆すぎてなぁ、すぐ近所の子どもらと遊びさ行ってしまうんだど。宿題なんて、すっかり忘れでらんしなぁ」
それを聞いて父親がジロリと睨んできたので、綾香は目を泳がせて、そそくさと縁側へと逃げた。
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祖母が食器を運びつつ、あっと声を上げた。
「あらまぁ、そうだったなぁ。さっきまで縁側で扇いでだ酢飯、そこさ置いできてしまったわ。綾香、持ってきてけれなぁ?」
「うん!」
酢飯の入った桶を祖母に持って行った。
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