現(うつつ)の夢

しらかわからし

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第1章 夏の始まりと塀の向こうの少年

第8-3話 祟りの坂とお土産

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第8-3話 祟りの坂とお土産

「あぁ、ごめん。置いていくとこだったよ。お土産なんかいいって言ったじゃん」と龍児が振り向いて、立ち止まって綾香を待った。
「こんなところに置き去りにされたら困るよ。それよりもこの紙袋を持ってよ。レディーファーストって言葉を知らないの?」と綾香。
 笑いながら龍児に歩み寄って、ふいに足を滑らせる。

「ひゃっ!」と綾香。
 体が地面に倒れそうになるのを木に掴まって何とか止めた。
「転ぶなよ、大丈夫か? 転んだら綾香も妖怪あやかしになって人間には戻れないからな」と龍児が言った。
「その話しなんだけど、家族で墓参りに行った時にお祖母ちゃんから言われたのは墓の中で転ぶと死ぬって」と綾香。
「それと同じような事だよ。俺の手に掴まれよ」と龍児。
「うん」と綾香。
「昭和の時代に、飯島なんとかと言う人気女性タレントがいて、兄妹分と豪語していた、島田なんとかと言うお笑いタレントでMCをやっている有名な男が、京都の清水寺での撮影の時にふざけて『転んでみたら?』と言った時に飯島はふざけて転んだ振りをしたんだ。そしたら飯島はその三年後に他界したんだよ。そういう祟りがあるから綾香はくれぐれも気を付けてくれよ」と龍児。
「うん、ありがとう」と綾香。
 龍児は紙袋を受け取って、また体を前に向けて歩き出した。

 ◇◆◇

 坂道を進むにつれて、どんどん暗くなっていった。足場は細くなって、足元を見るともはや道らしい道は通っていなかった。
「暗いね。今、何時くらい?」
「まだ昼過ぎだよ。この辺りは木が生い茂っていて暗いからすごく遅い時間に感じるけどな」
 暗いし道もないし、時間の感覚もなくなる。振り向いたら、自分がどこから来たのかも分からない。うっかり置き去りにされたら、いよいよ自力で帰れない。道を分かっている龍児だけが頼りだ。なんだか頭が痛くて、手足に力が入らなくなった。
「そろそろ、ちょっと意識が朦朧としてきたんじゃないか?」
 龍児が綾香に言った。
「この辺は、人間の地図には載ってない、妖怪あやかしのエリアなんだよ。長老の放つ気が強いところにいると、耐性のない人間は意識が飛ぶ感じになるんだよ」
 蝉の声が降り注いで声と声が重なって、ワオンワオンと森中で反響し耳から入って来る音が頭をおかしくさせていた。ボーッとしていた。気が付くと龍児の手から手が離れてしまった。
「あとは迷う道じゃないから」
 手が遠くなるのが不安で全身がズッシリして声が出ない。瞼が重くて落ちていた。
 その時に突然、龍児が立ち止まった。

「連れてきました、長老!」
 綾香は閉じてかけていた目を開いて思わず息をのんだ。
 綾香の身長よりも遥かに大きな、五メートルは有ろうか、真っ黒な龍が一匹、木々の隙間に座っていた。
 体はまさしく大蛇に似て、全身が鱗で覆われ、四本の足 、二本の角と耳があり、長い口 髭をもつ。全てが夜のように真っ黒で、こちらをじっと見つめる瞳は、炎のような深い赤だった。
 なんて美しいのだろう。そこにいるだけで体が強ばるような、圧倒されるほどの威厳を放っている。
 すぐに分かった。この龍が、妖怪あやかしの隠れ里のボス、龍児が「長老」と呼ぶその妖怪あやかしに違いない。
「紹介するよ。この方が長老だ」
 龍児が長老を手で示した。綾香はまだ、目の前の黒い龍に圧倒されていて、声が出なかった。
 緊張で体がビリビリする。妖怪あやかしのエリアとやらの所為で重くなっていた体が更にどうしようもなく重くなっていた。
 龍児が長老の横に綾香の土産を置いて「ボス、この子の祖母が作った生で食べられるトウモロコシです」
「それはありがとう。綾香殿」と長老が言った。
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