31 / 92
第1章 夏の始まりと塀の向こうの少年
第8-3話 祟りの坂とお土産
しおりを挟む
第8-3話 祟りの坂とお土産
「あぁ、ごめん。置いていくとこだったよ。お土産なんかいいって言ったじゃん」と龍児が振り向いて、立ち止まって綾香を待った。
「こんなところに置き去りにされたら困るよ。それよりもこの紙袋を持ってよ。レディーファーストって言葉を知らないの?」と綾香。
笑いながら龍児に歩み寄って、ふいに足を滑らせる。
「ひゃっ!」と綾香。
体が地面に倒れそうになるのを木に掴まって何とか止めた。
「転ぶなよ、大丈夫か? 転んだら綾香も妖怪になって人間には戻れないからな」と龍児が言った。
「その話しなんだけど、家族で墓参りに行った時にお祖母ちゃんから言われたのは墓の中で転ぶと死ぬって」と綾香。
「それと同じような事だよ。俺の手に掴まれよ」と龍児。
「うん」と綾香。
「昭和の時代に、飯島なんとかと言う人気女性タレントがいて、兄妹分と豪語していた、島田なんとかと言うお笑いタレントでMCをやっている有名な男が、京都の清水寺での撮影の時にふざけて『転んでみたら?』と言った時に飯島はふざけて転んだ振りをしたんだ。そしたら飯島はその三年後に他界したんだよ。そういう祟りがあるから綾香はくれぐれも気を付けてくれよ」と龍児。
「うん、ありがとう」と綾香。
龍児は紙袋を受け取って、また体を前に向けて歩き出した。
◇◆◇
坂道を進むにつれて、どんどん暗くなっていった。足場は細くなって、足元を見るともはや道らしい道は通っていなかった。
「暗いね。今、何時くらい?」
「まだ昼過ぎだよ。この辺りは木が生い茂っていて暗いからすごく遅い時間に感じるけどな」
暗いし道もないし、時間の感覚もなくなる。振り向いたら、自分がどこから来たのかも分からない。うっかり置き去りにされたら、いよいよ自力で帰れない。道を分かっている龍児だけが頼りだ。なんだか頭が痛くて、手足に力が入らなくなった。
「そろそろ、ちょっと意識が朦朧としてきたんじゃないか?」
龍児が綾香に言った。
「この辺は、人間の地図には載ってない、妖怪のエリアなんだよ。長老の放つ気が強いところにいると、耐性のない人間は意識が飛ぶ感じになるんだよ」
蝉の声が降り注いで声と声が重なって、ワオンワオンと森中で反響し耳から入って来る音が頭をおかしくさせていた。ボーッとしていた。気が付くと龍児の手から手が離れてしまった。
「あとは迷う道じゃないから」
手が遠くなるのが不安で全身がズッシリして声が出ない。瞼が重くて落ちていた。
その時に突然、龍児が立ち止まった。
「連れてきました、長老!」
綾香は閉じてかけていた目を開いて思わず息をのんだ。
綾香の身長よりも遥かに大きな、五メートルは有ろうか、真っ黒な龍が一匹、木々の隙間に座っていた。
体はまさしく大蛇に似て、全身が鱗で覆われ、四本の足 、二本の角と耳があり、長い口 髭をもつ。全てが夜のように真っ黒で、こちらをじっと見つめる瞳は、炎のような深い赤だった。
なんて美しいのだろう。そこにいるだけで体が強ばるような、圧倒されるほどの威厳を放っている。
すぐに分かった。この龍が、妖怪の隠れ里のボス、龍児が「長老」と呼ぶその妖怪に違いない。
「紹介するよ。この方が長老だ」
龍児が長老を手で示した。綾香はまだ、目の前の黒い龍に圧倒されていて、声が出なかった。
緊張で体がビリビリする。妖怪のエリアとやらの所為で重くなっていた体が更にどうしようもなく重くなっていた。
龍児が長老の横に綾香の土産を置いて「ボス、この子の祖母が作った生で食べられるトウモロコシです」
「それはありがとう。綾香殿」と長老が言った。
「あぁ、ごめん。置いていくとこだったよ。お土産なんかいいって言ったじゃん」と龍児が振り向いて、立ち止まって綾香を待った。
「こんなところに置き去りにされたら困るよ。それよりもこの紙袋を持ってよ。レディーファーストって言葉を知らないの?」と綾香。
笑いながら龍児に歩み寄って、ふいに足を滑らせる。
「ひゃっ!」と綾香。
体が地面に倒れそうになるのを木に掴まって何とか止めた。
「転ぶなよ、大丈夫か? 転んだら綾香も妖怪になって人間には戻れないからな」と龍児が言った。
「その話しなんだけど、家族で墓参りに行った時にお祖母ちゃんから言われたのは墓の中で転ぶと死ぬって」と綾香。
「それと同じような事だよ。俺の手に掴まれよ」と龍児。
「うん」と綾香。
「昭和の時代に、飯島なんとかと言う人気女性タレントがいて、兄妹分と豪語していた、島田なんとかと言うお笑いタレントでMCをやっている有名な男が、京都の清水寺での撮影の時にふざけて『転んでみたら?』と言った時に飯島はふざけて転んだ振りをしたんだ。そしたら飯島はその三年後に他界したんだよ。そういう祟りがあるから綾香はくれぐれも気を付けてくれよ」と龍児。
「うん、ありがとう」と綾香。
龍児は紙袋を受け取って、また体を前に向けて歩き出した。
◇◆◇
坂道を進むにつれて、どんどん暗くなっていった。足場は細くなって、足元を見るともはや道らしい道は通っていなかった。
「暗いね。今、何時くらい?」
「まだ昼過ぎだよ。この辺りは木が生い茂っていて暗いからすごく遅い時間に感じるけどな」
暗いし道もないし、時間の感覚もなくなる。振り向いたら、自分がどこから来たのかも分からない。うっかり置き去りにされたら、いよいよ自力で帰れない。道を分かっている龍児だけが頼りだ。なんだか頭が痛くて、手足に力が入らなくなった。
「そろそろ、ちょっと意識が朦朧としてきたんじゃないか?」
龍児が綾香に言った。
「この辺は、人間の地図には載ってない、妖怪のエリアなんだよ。長老の放つ気が強いところにいると、耐性のない人間は意識が飛ぶ感じになるんだよ」
蝉の声が降り注いで声と声が重なって、ワオンワオンと森中で反響し耳から入って来る音が頭をおかしくさせていた。ボーッとしていた。気が付くと龍児の手から手が離れてしまった。
「あとは迷う道じゃないから」
手が遠くなるのが不安で全身がズッシリして声が出ない。瞼が重くて落ちていた。
その時に突然、龍児が立ち止まった。
「連れてきました、長老!」
綾香は閉じてかけていた目を開いて思わず息をのんだ。
綾香の身長よりも遥かに大きな、五メートルは有ろうか、真っ黒な龍が一匹、木々の隙間に座っていた。
体はまさしく大蛇に似て、全身が鱗で覆われ、四本の足 、二本の角と耳があり、長い口 髭をもつ。全てが夜のように真っ黒で、こちらをじっと見つめる瞳は、炎のような深い赤だった。
なんて美しいのだろう。そこにいるだけで体が強ばるような、圧倒されるほどの威厳を放っている。
すぐに分かった。この龍が、妖怪の隠れ里のボス、龍児が「長老」と呼ぶその妖怪に違いない。
「紹介するよ。この方が長老だ」
龍児が長老を手で示した。綾香はまだ、目の前の黒い龍に圧倒されていて、声が出なかった。
緊張で体がビリビリする。妖怪のエリアとやらの所為で重くなっていた体が更にどうしようもなく重くなっていた。
龍児が長老の横に綾香の土産を置いて「ボス、この子の祖母が作った生で食べられるトウモロコシです」
「それはありがとう。綾香殿」と長老が言った。
1
あなたにおすすめの小説
【短編集】こども病院の日常
moa
キャラ文芸
ここの病院は、こども病院です。
18歳以下の子供が通う病院、
診療科はたくさんあります。
内科、外科、耳鼻科、歯科、皮膚科etc…
ただただ医者目線で色々な病気を治療していくだけの小説です。
恋愛要素などは一切ありません。
密着病院24時!的な感じです。
人物像などは表記していない為、読者様のご想像にお任せします。
※泣く表現、痛い表現など嫌いな方は読むのをお控えください。
歯科以外の医療知識はそこまで詳しくないのですみませんがご了承ください。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
英雄の番が名乗るまで
長野 雪
恋愛
突然発生した魔物の大侵攻。西の果てから始まったそれは、いくつもの集落どころか国すら飲みこみ、世界中の国々が人種・宗教を越えて協力し、とうとう終息を迎えた。魔物の駆逐・殲滅に目覚ましい活躍を見せた5人は吟遊詩人によって「五英傑」と謳われ、これから彼らの活躍は英雄譚として広く知られていくのであろう。
大侵攻の終息を祝う宴の最中、己の番《つがい》の気配を感じた五英傑の一人、竜人フィルは見つけ出した途端、気を失ってしまった彼女に対し、番の誓約を行おうとするが失敗に終わる。番と己の寿命を等しくするため、何より番を手元に置き続けるためにフィルにとっては重要な誓約がどうして失敗したのか分からないものの、とにかく庇護したいフィルと、ぐいぐい溺愛モードに入ろうとする彼に一歩距離を置いてしまう番の女性との一進一退のおはなし。
※小説家になろうにも投稿
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる