現(うつつ)の夢

しらかわからし

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第1章 夏の始まりと塀の向こうの少年

第8-2話 龍の記憶と禁断の森

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もう一度、台所にいた祖母に出かけてくると一声かけて、玄関の引き戸をガラガラと開けた。外で待つ龍児が、早速歩き出す。綾香は早歩きで追いかけた。
 畑の間を突き抜けている砂利道を進む。今日も外はカンカン照りだ。

「長老って言ったボスが妖怪あやかしの『龍』って言うんじゃないの?」と綾香。
 神社で読んだ、妖怪あやかし坂の伝説に、そんな名前が出てきた。龍児は一心不乱に前を向いて歩きながらこたえた。
「『龍』爺さんはもう亡くなってだいぶ経つよ。俺も会ったことないしね」と龍児。
 亡くなっていたと聞いて驚いた綾香は(妖怪あやかしも死ぬんだ)と思った。
「今は長老のそのボスが仕切っているんだ」と龍児。
「その『龍』爺さんから一番、信頼を置かれていたのが長老だった。大きくて真っ黒でカッコイイんだ」と龍児。
「すげえんだぞ、妖怪あやかしが尊敬する妖怪あやかしだよ。ほぼ神様みたいな妖怪あやかしだ」と龍児がまくし立てた。
「へえ! そうなんだ」と綾香。

 祖母の部屋で見た本に、妖怪あやかしやお化けにもランクがあると書いてあったのを思い出した。『龍』さんも長老になる妖怪あやかしも、最上ランクの気高い妖怪あやかしなのだと綾香は思った。
 ひたすら歩くこと十数分、龍児たちは山の麓まで来た。鳥居の前で一礼をしてくぐりながら、坂になっている山の小道を上がっていく。この先が分岐点で入り口だ。

 山の裾まで来るとミーンミーンと蝉の暑苦しい鳴き声が人の住む辺りより大きく響いていた。見えてきた分岐点で立ち止まった。いよいよ、妖怪あやかし坂だ。現川うつつがわ村の住民が近づくことを拒む、妖怪あやかし坂なのだ。
「ここから先は鬱蒼と生えた木々の緑が太陽の光をさえぎって暗いし、人間の手入れが入ってないから、くれぐれも足元だけは気を付けてね」
 龍児が綾香に声をかけてから、暗い坂道に入っていった。綾香も追いかける。

 龍児の言うとおり、そこからは湿った葉っぱの上に知らないキノコが夥しく生えて地面を埋め尽くす道に変わっていった。
「このキノコを食べたら一発で死ぬ、恐ろしいキノコなんだよ。動物は他のキノコは毒キノコだと習性で分かっているんだけど、これだけは毒キノコだと思わないから食べて死んでしまうからこの先は動物も入ってくることができないんだ」と龍児が説明した。
 少しだけ進んだ先に、龍児と初めて会った時に彼に助けてもらった場所があった。綾香が落ちた、その場所を覗き込んだ。下は結構急な斜面になっていて、先は木だらけで暗くて良く見えなかった。こんなところに落ちたのかと思うとぞっとした。
 こちらを振り返らずに枯れ葉とキノコを踏んでいく龍児を追いかける。
「龍児、地下足袋でこの道は歩きやすいの?」
 質問すると、龍児はチラッと振り向いた。
「俺にとっては地下足袋が歩きやすいけど、それよりも本来の姿は羽のある龍だから、直接地面を踏む事はないし空を飛んでいるので人間の体になっている時だけ地下足袋を履いて地面を踏んで歩いていると言った方が早いんだ」
「そうだ、山はむしろ龍児の庭のようなもので、歩き慣れていて当然だし、私が一緒に居なければ鳥と一緒で空を飛んでいる訳だもんね」
 綾香はと言うと、山なんて学校行事の登山で行くくらいで、こんなに滑る坂道を上るのは初めてだった。綾香は剣道をやっていたので、すり足気味でズルズルと歩いた。サッサと歩いていく龍児の背中が次第に遠くなる。
「ちょっと待ってよ、龍児ぃ! 歩くのが速いよ! 長老にお土産を持って来ているんだから」
 綾香は近くの木に片方の手をついて龍児を呼び止めた。
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