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第1章 夏の始まりと塀の向こうの少年
第8-1話 妖坂の誘いと隠れ里の伝説
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「綾香はさ、妖怪坂の先が気になっているんだよな?」
縁側で宿題の漢字のドリルをしていた綾香に龍児が言った。
八月も中旬以降に差し掛かった、とある晴れた昼下がりだった。
「そんな所にいないでこっち来たら?」
塀の上で座っていた龍児は、綾香の言葉を聞いて庭に降りてきた。
「気になるなら、妖怪の隠れ里に行ってみないか?」
「隠れ里?」
ドリルから顔を上げると、龍児は頷いた。
「妖怪坂を、ずっと上ったところにあるんだ。里って言っても、人間の村みたいに建物がある訳じゃない。ここら辺を縄張りとしている妖怪が暮らしている、そういう地域だ」
「そんな所があるの? 絶対行ってみたいよ」と目を輝かせた後、ふと不安になって、「でも、私が行って大丈夫なの?」
この村では、人間と妖怪の仲は険悪そのものだ。人間の自分ひとりが大勢の妖怪たちに囲まれたらと思うと、ちょっと怖いと思った。
「まさか、私をバラバラにして大鍋で煮て生贄にするつもり……」と綾香が心配して言った。
「何が生贄だよ。お前なんか捧げられても貰った方が困るってもんだよ。煮たところで良い味なんかしないだろ。それに俺は特にゲテモノが苦手だからさ」と龍児はふざけて言った。
「じゃ、なんで急にそんなこと言い出したのよ?」と意地悪を言われた綾香は、膨れながらもう一度、訊いた。
「んー……まあな、なんだ。妖怪の世界も色々あるからさ」と奥歯に物が挟まったような言い方をした龍児だった。
急に濁しはじめ龍児は体裁が悪そうに、「実はさ。今まで、俺が人間と遊んでいたことを内緒にしていたんだよ。それが長老にバレちゃってさ」と言って頭を掻いた。
「怒られたの?」と綾香。
「いいや、怒られてはないけど、隠れ里の長老の妖怪が、綾香、お前にだけは会いたいって言ってるんだよ」と龍児。
「なるほど。私が行ったら許してもらえるの?」と綾香が聞くと、龍児は首を縦に振って、「まぁ、そんな感じだな。でも、とにかく会いたいって言うからさ」と龍児。
理由はなんであれ、本当に妖怪の住む場所なんてそうそう行けるものではない。
隠れ里というくらいだから、きっと祖母も村の人たちも、誰も知らないような場所だ。ワクワクして緩んだ顔の綾香に、龍児は真剣な面持ちで言った。
「でも綾香、これだけ守ってほしいんだ。そんな場所があること、絶対に他言しないでもらいたいんだよ」
龍児は縁側に座る綾香の隣に腰掛けた。
「人間から迫害された妖怪が、やっと見付けた静かに暮らせる場所なんだ。見つかったらまた居場所をなくすことになるからさ。俺だけは羽があるから、人間が住む東京にだって飛んで行けるけど、他の仲間は羽がないから、飛んで移動できないからな」と龍児が説明をした。
「龍児が妖怪だということも必死に隠し通している私だから、それは大丈夫だし、絶対に言わないよ」と綾香。
「その言葉を信じる。じゃ、行くか?」と龍児。
龍児がすっと立ち上がった。
「今から? 嘘でしょ!」と綾香。
目を丸くすると、龍児は「うん」と頷いた。
「今から。急がないと長老の気が変わるからさ」と龍児。
「長老……?」と綾香が素っ頓狂な声で言った。
「そう、妖怪のボスだよ」と龍児。
答えながら、身軽に庭を飛び跳ねて塀に飛び乗った
「外で待っているし、手ぶらでいいからネ!」と龍児。
龍児の後ろ姿が、塀の影に消えた。「勝手な奴だ」と呟いて、綾香は一旦、台所に行き、祖母に「トウモロコシをおやつに持って行きたいんだけどいいでしょ?」と訊いた。
「ほい、けれ!」と義母が言ったので、紙袋を持って家庭菜園に向かい、五本をむしり取って袋に入れた。
龍児は手ぶらでいいと言ったが、綾香は長老にお土産として生のトウモロコシを食べさせてあげたかったからだ。
縁側で宿題の漢字のドリルをしていた綾香に龍児が言った。
八月も中旬以降に差し掛かった、とある晴れた昼下がりだった。
「そんな所にいないでこっち来たら?」
塀の上で座っていた龍児は、綾香の言葉を聞いて庭に降りてきた。
「気になるなら、妖怪の隠れ里に行ってみないか?」
「隠れ里?」
ドリルから顔を上げると、龍児は頷いた。
「妖怪坂を、ずっと上ったところにあるんだ。里って言っても、人間の村みたいに建物がある訳じゃない。ここら辺を縄張りとしている妖怪が暮らしている、そういう地域だ」
「そんな所があるの? 絶対行ってみたいよ」と目を輝かせた後、ふと不安になって、「でも、私が行って大丈夫なの?」
この村では、人間と妖怪の仲は険悪そのものだ。人間の自分ひとりが大勢の妖怪たちに囲まれたらと思うと、ちょっと怖いと思った。
「まさか、私をバラバラにして大鍋で煮て生贄にするつもり……」と綾香が心配して言った。
「何が生贄だよ。お前なんか捧げられても貰った方が困るってもんだよ。煮たところで良い味なんかしないだろ。それに俺は特にゲテモノが苦手だからさ」と龍児はふざけて言った。
「じゃ、なんで急にそんなこと言い出したのよ?」と意地悪を言われた綾香は、膨れながらもう一度、訊いた。
「んー……まあな、なんだ。妖怪の世界も色々あるからさ」と奥歯に物が挟まったような言い方をした龍児だった。
急に濁しはじめ龍児は体裁が悪そうに、「実はさ。今まで、俺が人間と遊んでいたことを内緒にしていたんだよ。それが長老にバレちゃってさ」と言って頭を掻いた。
「怒られたの?」と綾香。
「いいや、怒られてはないけど、隠れ里の長老の妖怪が、綾香、お前にだけは会いたいって言ってるんだよ」と龍児。
「なるほど。私が行ったら許してもらえるの?」と綾香が聞くと、龍児は首を縦に振って、「まぁ、そんな感じだな。でも、とにかく会いたいって言うからさ」と龍児。
理由はなんであれ、本当に妖怪の住む場所なんてそうそう行けるものではない。
隠れ里というくらいだから、きっと祖母も村の人たちも、誰も知らないような場所だ。ワクワクして緩んだ顔の綾香に、龍児は真剣な面持ちで言った。
「でも綾香、これだけ守ってほしいんだ。そんな場所があること、絶対に他言しないでもらいたいんだよ」
龍児は縁側に座る綾香の隣に腰掛けた。
「人間から迫害された妖怪が、やっと見付けた静かに暮らせる場所なんだ。見つかったらまた居場所をなくすことになるからさ。俺だけは羽があるから、人間が住む東京にだって飛んで行けるけど、他の仲間は羽がないから、飛んで移動できないからな」と龍児が説明をした。
「龍児が妖怪だということも必死に隠し通している私だから、それは大丈夫だし、絶対に言わないよ」と綾香。
「その言葉を信じる。じゃ、行くか?」と龍児。
龍児がすっと立ち上がった。
「今から? 嘘でしょ!」と綾香。
目を丸くすると、龍児は「うん」と頷いた。
「今から。急がないと長老の気が変わるからさ」と龍児。
「長老……?」と綾香が素っ頓狂な声で言った。
「そう、妖怪のボスだよ」と龍児。
答えながら、身軽に庭を飛び跳ねて塀に飛び乗った
「外で待っているし、手ぶらでいいからネ!」と龍児。
龍児の後ろ姿が、塀の影に消えた。「勝手な奴だ」と呟いて、綾香は一旦、台所に行き、祖母に「トウモロコシをおやつに持って行きたいんだけどいいでしょ?」と訊いた。
「ほい、けれ!」と義母が言ったので、紙袋を持って家庭菜園に向かい、五本をむしり取って袋に入れた。
龍児は手ぶらでいいと言ったが、綾香は長老にお土産として生のトウモロコシを食べさせてあげたかったからだ。
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